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恋人のフリを頼んできた美少女がなぜか全然別れてくれない件  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中
第二章

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62/90

第62話 わからせるためにやったんですよ

 空が薄暗くなってきた夕暮れ時。

 夏祭りの支度を整えた俺たちはお祭り会場の近くまで来ていた。


 気温は汗ばむくらいを保っているが、風が吹いているから過ごしやすい。

 これからは日が傾いて気温もさらに落ち着くだろう。

 それでも水分補給はしないと熱中症が心配だけど。


 会場前にもちらほらと屋台が出ていて、人通りもかなり多い。

 一帯は交通規制もされていて車も通らないから歩行者天国状態。


 からん、ころんと下駄を鳴らして歩く月凪は足取りが遅めだ。

 車が通ってなくて助かるな。


「それじゃあお兄ちゃんも楽しんできてね~!」

「淡翠も気を付けろよ」

「わかってるって」


 友達と回るらしい淡翠はちょっと早いがここで別れることに。


 ちなみに家で浴衣に着替えた淡翠から褒めろと無言の圧を受けたため、ちゃんと「似合ってるぞ」と伝えておいた。

 淡翠からは「棒読みじゃん!」って言われたけど、似合ってるのは嘘じゃないし。


 それはともかく。


「さて……私たちも屋台を見て回りましょうか」

「何からにする? 先に腹ごしらえをするもよし、一通り見てから決めてもよし」

「歩き回りながら良さそうなものを買って食べましょうか」


 目的も定まったところで手を繋ぎ、歩幅を合わせて会場へ続く緩やかな坂道を降りていく。


 同じ方向へ向かう人は学生っぽい人か家族連れ、恋人のような二人組が半分以上。

 しかし、そうでない人もそれなりにいた。

 格好も俺たちと同じく浴衣や甚平を着ている人もいれば、部活帰りなのか学校指定のジャージだったり、はたまたスーツの人もいたりする。


 そんな人たちの傍を通るたびに月凪が視線を浴びて、隣を歩く俺を見て蜘蛛の子を散らすかのように逸らしていく。

 いつもの光景はお祭りでも健在らしい。


 当の本人は視線を気に留める様子はなく、屋台に目を輝かせていてた。

 こうしているといつものクールな雰囲気とは打って変わって子どもっぽい。


 ……最近はクールさが薄れている気もするけど。


 それも生活に慣れてきた証拠だろう。

 今の方が可愛げと親しみやすさがあって俺はいいと思うし。


「美味しそうな匂いでお腹が減ってしまいますね。屋台だから目の前で調理しているのも大きいでしょうけれど」

「ソースとか肉が焼ける匂いをこんなに充満させられたら見てるだけってのは無理だよな。お祭りの屋台って基本割高だけど。まあ、それを差し引いても美味しく感じるのは雰囲気と思い出補正ってとこか」

「値段を気にするのは無粋でしょう」


 お祭り特有のあれこれを話しつつ、俺たちが並んだのはたこ焼きの屋台。

 二人分買おうとしたら屋台の店主の気前が良さそうな男性が「お嬢ちゃんとお兄さんはデートかい? 楽しんでいってくれよ!」と一つずつおまけしてくれた。


 多分、俺がいなくてもおまけはもらえていただろうけど、俺も一緒のものとして考えてくれたのは嬉しい。


「熱々ですね。湯気もすごいです」

「火傷しないように気を付けろよ」

「珀琥が冷ましてくれてもいいんですよ?」

「お互い食べにくいだろそれ」


 邪魔にならないよう人が少ないところで並んでたこ焼きを食べる。


 熱々のたこ焼きを息で軽く冷まし、そのまま一つを口へ。


「あっふっ!」

「もう……火傷しないようにって言っていたのは誰ですか?」


 外側は冷ませても内側は熱々のまま。

 噛んだ拍子に溢れた中身が口の中で弾けて、危うく火傷をしかけるとこだった。


 俺が気を付けないとと言いだしたのにこれだから月凪も笑っていた。


「……まあでも、こういうのは熱い方が美味いしさ」

「だからって火傷をしたら意味が意味がありません。美味しいですけどね」


 浴衣を汚さないよう袖を手元に纏め、はふはふと数口に分けてたこ焼きを食べ進める月凪は満足げ。

 こっちはこっちでお祭りを楽しんでいそうでよかった。


「美味しいものはまだまだあるぞ。飯系だけじゃなくスイーツ系も」

「チョコバナナやりんご飴ですね。わたあめも捨てがたい……ですが、カロリーが怖いですね。帰ったら体重を測っておかないと」


 そう言いつつ月凪は浴衣の上からお腹を摩る。


 ……いつ見てもなだらかなくびれを維持してるのは本当にすごいと思う。


「もしかして半分ずつ食べればちょうど良いのでは?」

「月凪が食べ切れないって言うならいいけども」

「むしろお願いしたいくらいです。そういうのも二人の思い出って感じでなんかいいじゃないですか」


 続いて買ったのは焼きそばを一パック。

 ソース濃いめで具が少なめの、いかにもお祭りらしいアレだ。


「てことで、珀琥。口を開けてください」


 なんて、焼きそばを割りばしで摘まんだ月凪が言いだして。


「……食べさせてもらうってのは流石に恥ずかしいんだが」

「一人だと食べ切れないので食べて欲しいんです」

「先に月凪が食べて残ったものを食べるじゃダメなのか……?」

「出来立て熱々が一番美味しいので」


 俺の反論は全部跳ねのけられてしまった。

 そして、再び箸が俺の口元へ。


 どうせお祭りだし、俺たちのことを意識して見ている人なんていないだろう。

 誰も彼も自分のことで手いっぱいのはず。


 そう思い込むことにして、熱々の焼きそばを頬張った。


「美味しいですか?」

「……美味しいよ」


 それ以上に、すごく照れくさいけれども。


「私もいただきましょうか」

「ところで、箸って一つしか貰わなかったのか?」

「ですね。なので、間接キスです」

「……わかっててやっただろ」

「わからせるためにやったんですよ」


 ……まあ、初めてじゃないからいいとしよう。


 あんまりよくない気はしないでもないけれど。


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