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恋人のフリを頼んできた美少女がなぜか全然別れてくれない件  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中
第二章

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第61話 浴衣美人

「……どう、でしょうか」


 午後のこと。

 夏祭りに備えて甚平に着替えた俺は、母さんに手伝ってもらって浴衣に着替えた月凪と顔を合わせていた。


 月凪が着ていたのは暗い紺色の生地に青と赤のアジサイが咲いている浴衣。

 帯で締められた腰のラインが美しいが、そのせいで胸元が普段よりも若干強調されている気がしないでもない。


 髪はまだ背にそのまま流しているだけだが、浴衣の紺色と髪の白が対照的で非常に映えている。

 因みに月凪の髪はこの後俺が結うことになっていた。


 ……俺に髪を弄られることに慣れ過ぎている気がするけど、まあいい。


 照れくさそうにしつつも袖を摘まみながらゆっくり回って見せる月凪に聞かれ、数秒ほどじっくり眺める。

 ……いや、見蕩れていたの方が正解だろうか。

 月凪が姿を現した時から、一切視線を外せていないのだから。


 けれど、俺が何も言わないままだと月凪も心配になるだろう。

 色々と思ったことはあるが、結局一つの言葉に集約されるわけで。


「つい見蕩れるくらいには似合ってるぞ」


 本心からの言葉を送れば、袖を胸元に持っていきながら目を細めて「ありがとうございます。安心しました」と零す。


 そうやって微笑む様も浴衣美人と称するのにじゅうぶんすぎる魅力を湛えている。


「珀琥も甚平姿、とても似合っていますよ」

「そりゃよかった。自分で鏡を見てもわかんなくてさ」


 自信はなかったけど、月凪に似合っていると言って貰えて安心した。

 自己評価はどうしても低くなりがちだ。

 特に服のこととなると俺にはセンスが足りないらしい。


「薄々わかっていたのですが、浴衣は動きにくいですね。いつもより歩幅も小さくなってしまいますし、段差にも気を付けないと躓いてしまいそうです」

「しかも外では下駄をはくんだろ? 鼻緒で足を痛めないといいけども……」

「そうですね……祥子さんにはスニーカーとかサンダルでもいいと言われましたけど、折角の機会に格好は崩したくなくて」

「気持ちはわかる。まあ、のんびり回ればいいさ。屋台も花火も逃げないし」

「それに、もしも鼻緒が切れたりしたら珀琥におぶってもらえばいいですし」

「困ったことにならないよう祈っておくよ」


 月凪をおぶるのは問題なく出来るだろう。

 鼻緒が切れるのはともかく、足を痛めた月凪を無理に歩かせる気はないし。


 問題は背中に引っ付かれることだけだな。

 格好とか場所の雰囲気も相まって、多分色々意識せざるを得なくなる。


 それはそれで仕方ないと割り切って受け入れるくらいの気持ちではいるけども。


「そういえば淡翠は?」

「帯を巻いてもらっているところだと思いますよ。私は珀琥に髪を結ってもらうなら先に、と祥子さんにしていただいたので」

「なるほど。あいつもちゃんと褒めてやらないと拗ねそうだ」

「そんなこと考えなくても珀琥は褒めたでしょう?」

「どうだかな」


 俺が言いださなくても淡翠が「褒めてー!」って言って来るはず。

 その姿がありありと脳裏に浮かぶし、どうせすぐ想像通りになる。


 ともかく、淡翠が来る前に月凪の髪を整えてしまうことにした。


 洗面所の前で椅子に座ってもらい、いつも整えるのに使っている櫛やヘアスプレー、ヘアアイロンなんかを手繰り寄せつつ、


「今日はどんな髪型をご所望で?」

「うーん……では、お団子系でお願いします。浴衣ならうなじが見えた方がお得じゃないですか?」

「お得かどうか聞かれてもなぁ。まあ、了解だ」


 お団子系と示されたことからアレンジも含むって解釈でいいはず。

 俺がいくら慣れてるって言っても、アレンジとなると話が変わる。

 手元で軽く調べつつ、ちょうど良さそうな髪型を見繕って月凪の髪を整えていく。


「ところで……昔は浴衣を切る時、下着を着ていなかったみたいですね」

「らしいな。でもまあ、昔の話だろ。今では浴衣用の下着があるとかないとか」

「もっとドキッとしてくれてもいいと思います」

「月凪が下着を着ていないって可能性に? それはちょっとどころか普通に変態的だと思うんだが」

「私は珀琥が変態でも気にしませんよ。一般的な範疇の性癖ならともかく、特殊なものでも理解しようと努力します」

「そんな努力しなくてよろしい。あと、特殊な性癖はない。……多分」


 断言できないのは世間的に特殊な性癖でも自分の中では普通と思っているからであって……なんて意味のない言い訳を心の中で連ねておく。


 というか、間違っても髪を結わえながらする会話じゃない。


「てか、なんで急にこんな話を?」

「浴衣ってちょっと暑いんですよね。浴衣の薄さでは下着を着たらどうやっても透けてしまうじゃないですか。それを隠すためにもさらに肌着を着ていたら、今度は熱が籠ってしまうんです」

「ああ……なるほど。甚平と違ってそういうのがあるのか」

「けれど、裾をはだけさせるわけにもいきません。不格好になりますし、帯が緩んで解けたら一大事です。お洒落に我慢はつきものとわかっていても大変なんですよ?」

「つまり、どうしろと?」


 鏡越しに月凪と交わる視線。

 瞬き一つの間があって。


「楽しい思い出、沢山作りましょうね」

「だな」

「写真もいっぱい撮りましょう」

「夢中になって転ばないように気を付けろよ」

「それから……私の浴衣姿も、思う存分堪能してくださいね」

「言われなくても目を離すつもりはないからな。あと、手も」

「私もですよ。迷子になりたくありませんし」


面白い! 今後が楽しみ!と思っていただけたら、ブックマーク・星など頂けると嬉しいです!!

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