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恋人のフリを頼んできた美少女がなぜか全然別れてくれない件  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中
第一章

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25/90

第25話 命令してみたらわかるんじゃないですか?

「……月凪さんや、そろそろ機嫌を直してもらってよろしいか?」


 ラブレターと思しき手紙を受け取った後の帰り道は、過去最高に空気が重かった。

 重かったというか、完全に月凪が拗ねていた……もとい、超がつくほど不機嫌になってしまったために、会話がほとんど繋がらなかったのである。


 それは帰ってからも同じだったが、無言の圧に負けた俺は数十分ほど月凪の背もたれになることで宥め、そろそろいいだろうと話を切りだしてみたのだ。


 月凪が機嫌を損ねた原因は……まあ、流石に察している。

 俺にも覚えがある出来事だからな。

 偽装とはいえ恋人に手を出されるのは気分が悪いのだろう。


 俺の声に月凪からの返答は数秒ほどなかったが、諦めを伴ったため息だけが響いた。


「…………私も子どもではありませんからね。珀琥に八つ当たりするのもこの辺で終わりにしましょうか」

「八つ当たりする時点で子どもじゃないは怪しいし、これって八つ当たりのつもりだったのか。てっきり甘えられているものだと」

「それだと私が毎日甘えているみたいじゃないですか」

「違うのか?」

「……違いませんけど」


 否定は無理があるのを月凪も認めたが、声には照れや罪悪感が滲んでいる。


 素直に認めても俺は責めたりしないんだけどな。

 それも月凪の可愛いところだ。


「珀琥へ渡された手紙が状況証拠的にラブレターだったと仮定しても、実際に明日告白されるまでは確定しませんし。……でも、一応、心配ではないですが、念のため伺いますけど、もしも仮に万が一ラブレターで告白された場合、珀琥はどう答えるつもりですか」

「普通に断るだろうな。俺が知ってる女子って月凪か花葉くらいしかいないし、そもそも好きじゃない女子と付き合う気もない」


 月凪と偽装交際なんて関係になっている俺が言えたことではないと思うが、常識的に考えて好きでもない異性と付き合う理由がない。

 相手のことを知らないとなればなおさらだ。


 あの手紙を送ってきたのが花葉だったとしても微妙なところだろう。


「月凪だって同じだろ? 好きでもない男子から告白されても困るだけ。俺の場合は疑問も挟まるけどな。俺のどこを好きになったんだかわからんが」

「……そんなに卑下しないでください。珀琥は素敵なところがたくさんありますよ。優しくて、気遣い上手で、笑うと大型犬みたいに可愛くて、家事万能ですし、他にも色々――」

「あー、うん、なるほど。ありがたいけど恥ずかしいからその辺で止めてくれると助かる。ほんと、真面目に」


 俺の手を弄びながら月凪がつらつらと語る声を感謝しながら遮ると、今度は指と指を絡めて「そうですか」と短く言葉が返ってくる。

 多少は機嫌を直してくれたらしい。


「まあ、明日のことは明日考えるとして、今話すべきはテストの目標を達成したご褒美……一つだけお願いを聞いてもらう権利についてです」

「いざ月凪にしたいお願いを考えろと言われても難しいんだよな」

「言うだけタダですから、思いついたものを正直に話せばいいんです。無理なら断りますから。珀琥が私に無茶ぶりをするとは考えにくいですけど」


 それはまあ、そうだろう。

 男が女に求めることなんて大半が碌でもない。

 思いついた願い事から下心を抜き出して、残ったものの中から選ぶ必要がある。


 ……家事を身につけてもらうとかはダメか?

 なんか『出来るなら今頃やっています』とか言われて却下されそうだな。


「そういう月凪は何にするか決めてるのか?」

「そうですね……またお泊りしてみるのもいいですし、デートも魅力的ですね。あ、二人でお風呂に入るとか――」

「流石に却下」

「というのは冗談としても、出来ることなら普段珀琥がしてくれないことの方がいいんですよね。同じように珀琥が望むなら、私がメイド服に着替えてご奉仕をするとかでもいいですけど? 折角買ったのに無駄になるのももったいないですし。全然メイド服姿を珀琥に見せたいとか思っていませんけど」


 見せたいんだな、これ。


「……じゃあ、そうさせてもらうか。」

「わかりました。私のお願いの前にメイド服を取ってきますね。着替えはこっちでしてもいいですか? お隣とはいえメイド服姿で外に出て、他の人に出くわしたら私も気まずいので」

「そうしてくれ。俺も部屋にメイドを呼ぶような住人だと思われかねない」


 十中八九変人だと思われるだろうからな。


 月凪が膝の上から退いて立ち上がり、部屋を出て行こうとする。


「一つ聞きそびれたんだけど、ご奉仕って当たり前だけど健全なやつだよな……?」


 全然期待はしていないし、そういうのはナシという決めごとがあっても『ご奉仕』なんていういかがわしさ抜群のワードを前に確認しないわけにもいかなかった。

 俺の問いに月凪が脚を止め、くるりと振り向く。


 月凪が口元に指を添えて、


「私がメイド服を着ている間は珀琥がご主人様なんですから、命令してみたらわかるんじゃないですか?」


 独特の艶がある笑みを浮かべながらの言葉に、胸がドキリと跳ねてしまう。


 健全な青少年らしくそういうことを意識してしまった俺を差し置いて、月凪が「それでは」と部屋を出ていく。

 一人になった部屋に俺のため息が響いて。


「……俺の理性、本当に保つのか?」


 メイドとしてご奉仕するつもり満々の月凪に戦々恐々とした気持ちを抱きながら、帰りを待つことになってしまうのだった。


面白い! 今後が楽しみ!と思っていただけたら、ブックマーク・星など頂けると嬉しいです!!

執筆のモチベーションにも繋がりますのでよろしくお願いします!!

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