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恋人のフリを頼んできた美少女がなぜか全然別れてくれない件  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中
第一章

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20/90

第20話 私が頑張ろうと思えるのは

  午後から勉強会が予定されている日曜日の午前。

 俺の部屋には、早くも月凪の姿があった。


 今日の服装は清楚系で、肌の露出は少ない。

 外出も出来そうなくらいの格好だ。

 俺と二人だけの時はもう少し緩かったりする。


 こういうときでも可愛さを損なわない服装なのは女の子としてのプライドか。


「勉強会が始まるまでしばらく二人だけ、ですね」

「いつものことだろ。……何度も聞いたけど、二人を呼んで本当に良かったのか?」

「あの二人なら大丈夫でしょう。他人に秘密を明かす利点がありません。最悪バレたとしても仲の良さの理由になりますし、それでとやかく言ってくる方は無視するに限ります」


 月凪が俺と付き合っていようとも、月凪の人気は衰えない。

 家が俺の隣だとバレれば、俺が疑いをかけられるだろう。


 度々言われるように月凪を脅しているんじゃないか、とか。

 謂れのない嫌疑をかけられる身としてはたまった物ではない。

 そして、的外れな言動をする人は月凪の心象が悪くなる。


「炙り出しが出来ると思えば都合もいいです。そもそも珀琥以外からの好感度なんて極論どうでもいいですし。……出来るだけ平穏な学園生活を珀琥と過ごしたいので過激な言動は避けていますけど、必要ならやぶさかではありません」

「……時々出かかってる気がするけどな」

「目に余るので仕方ないんです。珀琥はこんなにも優しいのに、外見だけで避ける理由がわかりません」

「この顔なら普通は避けたくなるだろ」

「そういう人も容姿だけで人を好きになるんでしょうね。中身なんて関係ないんです。だったら、私じゃなくていいじゃないですか。お世辞や嫌味ではなく、容姿に優れた方は沢山いるんですから」


 月凪くらい可愛い人がそうそういるとは思えないけど、言いたいことは理解できる。


 月凪を好きな人の多くが容姿に惹かれてのもの。

 それは月凪が他人との間に壁を作り、内面を知られる機会がないからでもある。


 ……が、そもそもの話。

 他人が月凪の内面に踏み込むためには相応の信頼を得なければならないわけで、おおよそ無理という結論に達してしまう。


 俺が月凪と良好な関係を築けたのは奇跡的。

 信頼を勝ち取るための行いはそれなりにしてきたつもりでも、経験が浅いため的外れなことを今後しないとも限らない。


「……この話、多分あんまり意味ないですね。私たちが意識して変わる要素が薄すぎます。もっと建設的な話をしましょう。今回のテストで目標を達成出来たら珀琥は私に、私は珀琥にご褒美――一つだけお願いを聞いてもらうとかどうですか?」

「お願い? テスト関係なしに聞くけども」

「お遊びですよ。こういうのがあった方が面白いし、やる気も出るでしょう? お願いの内容は些細なものにしましょうか。高額のお金がかかったり、どちらかに過度な負担を強いるものは禁止で、互いの良心に基づくということで」

「……それならまあ、いいけども」


 月凪がこの手のお遊びを言い出すのは、今に始まったことではない。

 時折夜に通話をして先にどちらが寝るかだとか、匂いだけで夕飯のメニューを当てるだとか、色々だ。

 以前も前回も一年生の期末テストでやって、お互いにお願いを一つ聞いてもらうこととなった。


 あの時は……俺は外出用の服を選ぶのを手伝ってもらったんだったか。

 季節の変わり目で服を用意しなきゃならなかったからな。

 春で出かけるのに丁度良かったのもある。


 月凪はそのついでに映画を見に行こうと誘ってきた。

 内容は流行りの恋愛映画で、映画館にいたのがほとんど恋人みたいな男女二人組ばかりで気まずかった記憶がある。


 その程度の内容なら断る理由の方がない。

 お互いにやる気も出て一石二鳥だ。


「目標はどうしますか? 私は学年一位の維持にします。大口を叩いているように聞こえるかもしれませんが、簡単じゃないんですよね」

「わかってるよ。俺は……上位50位だと厳しいか?」

「前回は300人中の100位ちょっとでしたよね。努力次第だと思いますけど、どうします?」

「……まあ、やるだけやってみるか。テスト勉強はご褒美目的じゃなく自分のためにやるものだからな。結果として目標が達成できなかったとしても仕方ない」


 それに、目標なら少しくらい難しい方がいい。

 簡単だと目標達成できそうになった途端にやる気が萎えそうだからな。


「その意気ですね。適度な目標は向上心に繋がります。私も頑張る珀琥を見られるのは嬉しいですから、出来る限り協力しますよ」

「そりゃ助かる。学年一位様に教えてもらえるなら百人力だ」

「そんなに持ち上げられても困るんですけどね。天才なんかじゃありませんし」

「月凪が沢山努力をしてることは間近で見てる俺もわかってるつもりだ。本当にすごいと思ってる」

「……他の人も珀琥みたいに思っていてくれたらいいんですけどね」


 軽いため息には、僅かばかりの諦めが滲んでいた。


「学校の人が私に求めるのは完璧な姿。期待に応えたい……とは、正直思っていません。何もかもが自分のため。結果、完璧才女なんて呼ばれるものの、その実態はこれですよ? 生活力皆無にして驚くくらいの不器用。運動も得意ではないのをどうにか取り繕っている、張りぼてみたいな人間です」

「でも、月凪が努力していることを俺は知っている。勉強も、運動も。……生活力に関しては要観察だけど、頑張りたいとは思ってるんだろ?」

「その努力は珀琥のためでもあり、私自身のためでもあります。けれど、私が頑張ろうと思えるのは、努力を正当に評価してくれる珀琥がいてくれるからですよ」

「……認められないのが辛いことは身をもって知っているつもりだからな」


 これも初めの話に繋がるけど、外見だけで避けられる俺が何をしたのかまで公平に見てくれる人は少なかった。


 クラスメイトも、教師も、道行く人も――誰もが顔というどうしようもない第一印象で決めつけてしまう。

 それは人間として仕方ないことだとは思うけど、とても虚しいことに変わりない。


 だから、月凪の努力を俺くらいは認めたい。

 俺に認められたからなんだって思うかもしれないけど……たった一人でも信じてくれる人がいるとわかるだけで心は軽くなる。


「珀琥のそういうところ、とてもいいと思います」

「そう言ってもらえると気が楽だな」

「なので……私から目を離さないでくださいね?」


 どこか心配そうな眼差しで俺を見ながら告げる月凪。

 えも言えないむず痒さを覚えつつも、その信頼に応えたいと心から思う。


「手始めに、勉強会に備えてぎゅっと抱きしめてくれませんか? ハクトニウムの補充が必要です」

「んなわけあるか」


 別にいいけどさ、別に。


面白い! 今後が楽しみ!と思っていただけたら、ブックマーク・星など頂けると嬉しいです!!

執筆のモチベーションにも繋がりますのでよろしくお願いします!!

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