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第11話 それもまた愛じゃんね

 花葉さんたちと一緒に場所を露天風呂へ移した私は、心地よい温度のお湯に身を沈めた途端につい息が漏れてしまいました。

 お湯の温かさと、肌寒くも感じる外気。

 二つの対比がこの上なくちょうどいいですね。


「露天風呂ってやっぱいいねえ。なんか贅沢な感じがしてさ」

「おほしさまいっぱい!」

「……星を見ながらの入浴は確かに贅沢ですね」


 葵ちゃんの声に釣られて斜め前を見てみれば、ここに来るまでにも見た星空が広がっていました。

 頭上は雨風防止のためか屋根がついていて空が見えないですが、こればかりは仕方ないことでしょう。


「んで、るなっちはなんでここに? 家のお風呂が壊れちゃったとか?」

「実は今日、珀琥の家に泊ることになっているんです。ですが、私が新しく買ってきたお揃いのパジャマを同じタイミングで見せ合いたいと言い出したら、ここに行こうという話になりまして。家のお風呂で一緒に入るのも誘ってみたのですが、すげなく断られてしまいました」

「……意外と大胆なんだね、るなっち」


 嘘をつく部分がなかったため、本当のことを花葉さんに話すと、なぜか驚いたかのように目を丸くしていました。

 まあ、高校生という身分で一緒のお風呂に入ろうと誘った、なんて聞けばそういうことを連想してもおかしくはないでしょう。

 私もその可能性を切り離すつもりはありませんでしたし。


「てか、二人は泊まりなんだ。やっぱりお熱いねえ。清明台のベストカップルは伊達じゃないってわけかぁ」

「……なんですかその背中がむずむずする呼び名は」

「ちょくちょく言ってる人はいるよ? 耳に入らなかっただけじゃないかな。これ言ってる人は大体二人のこと認めてるから、敵じゃないと思うけど」


 初めて聞いた呼び名に私は顔を顰めつつも、聞き捨てならない言葉が引っかかる。


「二人? 私だけでなく、珀琥も?」

「そうみたい。くわっちってちょっと顔が怖いって言う人もいるけど、見方を変えたらワイルド系じゃん? そんな男がるなっちみたいな超かわいい女の子とくっついて仲良くしてるのがいいって話してる人もいるくらいだし」

「……カップリング的な話でしたか。心配して損しました」


 私が想像していたような話とは違い、ほっと安堵が胸を満たす。

 珀琥に異性としての魅力を感じているわけではないのですね。


 ……それはそれでムカつきますけど。


 でも、いいんです。

 珀琥の魅力は私だけがわかっていれば――


「あ、普通にくわっちをいいなーって思ってる子もちょっとだけいるよ?」

「今すぐその女の名前を教えてください。彼女の私には知る権利があると思います。いいえあります。絶対に」

「ちょいちょいちょい顔怖いって! そんな本気のやつじゃないだろうし、るなっちからくわっちを取るとかマジ無理ゲーだし――」

「関係ありません。障害は、早いうちに、取り除いておくべきです」


 花葉さんの肩を掴みながら重要性を説くと苦笑していました。


 笑い事ではないんですけどね、本当に。

 どこぞの馬の骨に珀琥を取られるとも限らないんです。


 私たちは本当の恋人じゃない。

 もしも珀琥が他の子を好きになったら、私には止められません。


 だから、不安要素は可能な限り排除しなければ。


「ほんとにくわっちのこと好きなんだ」

「疑っていたんですか?」

「ほんのちょっとだけね。脅されてるとかはなくても、なにかしらの事情があるのかなって思ってた。でも、今の顔見たらあり得ないなって」

「……私、ちゃんと珀琥のこと好きですけど?」

「好きってか、もはや愛してるって感じだね。見てるだけで顔熱くなってくるわ。でも、だからこそるなっちも普通の人間なんだなーって思えて、ちょっと面白いかも」


 普通の人間に見えて、面白い。

 そんな評価をされたのは初めてで、どう返すべきか迷ってしまう。


「アタシは恋愛とかしたことないからさ、よくわかんないの。好きとか嫌いとか、愛し愛されみたいな……そういうのってすごく人間っぽいと思わない?」

「……どうでしょう。私も正直、よくわかりません。珀琥のことを好きだとは言いましたが、好きという感情を論理的には説明できそうにありませんし、綺麗な感情ばかりで構成されているとも思えません」

「それもまた愛じゃんね」


 果たして、本当にそうなのでしょうか。


 こんなにもどろどろとした執着を抱いてしまう感情が、愛なんて綺麗で温かなものと同じだとは信じられません。

 私が愛というものを身近に感じない人生を歩んできたからでしょうか。


 父は私に無関心。

 今の母は私を毛嫌いしていて、愛するなんてあり得ない。

 唯一私を愛してくれる可能性があった生みの母は、私を生んですぐに出血性ショックで死んでしまったと聞かされています。


 孤独に耐え、寂しさと寄り添い、冷めた環境に身を置き続けた結果、私の心は凝り固まってしまったのでしょう。

 なのに、私はそういう綺麗なものに憧れてしまった。

 恋とか愛とか、これまで手に出来なかったものを、今になって満たそうとしている。


 だから私が珀琥を愛していることは、信じられない。

 それでも好きだという気持ちは嘘ではなく――どこからどこまでをその感情だと区切る判断が難しい。


 ただ一つ確実にわかることは、珀琥を手放したくないことだけ。

 あんなにも暖かく寄り添ってくれる、私だけの理解者を。


「てかさ、話変わるけど……るなっち、めっちゃ肌綺麗じゃない?」

「人並み程度にはケアをしていますが……それを言うなら花葉さんもとても綺麗だと思いますよ」

「そう? るなっちに褒めてもらえると嬉しいね」

「それと……いえ、なんでもありません」


 私が見ていたのは湯の表面で半球を作るくらい大きな、花葉さんの胸。

 対する私は……一回りは小さいです。

 こんなところで敗北感を覚えるとは思いませんでした。


 ……別に、そんなに気にしてませんけどね?

 でも、珀琥は大きいのと小さいの、どちらが好きなんでしょうか。


 時々押しつけたら反応はしてくれますけど、男性は大きいのが好きと聞きますし。


「あとさ、今更なんだけど、花葉さんじゃ紛らわしいから樹黄って呼んでよ」

「……確かに妹さんも同じですもんね。わかりました。これからは樹黄さん、と」

「やったっ! やっとるなっちと打ち解けられた気がするよ。いつも一線引いた感じだったし……違う?」

「……そうですね。どうしても、珀琥以外の人にはまだ慣れなくて。少しずつ改善出来たらなと思ってはいるのですが」

「るなっちのペースでやればいいんじゃない? ああでも、あんまり気安くし過ぎるとくわっちが嫉妬しちゃうかも」

「…………それはそれでいいですね。嫉妬、されたいです」

面白い! 今後が楽しみ!と思っていただけたら、ブックマーク・星など頂けると嬉しいです!!

執筆のモチベーションにも繋がりますのでよろしくお願いします!!

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