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第八話 自分の趣味を他人に教えるのは、鬱だが……勇気を持て!

 予想していた通り、総合病院は不安と混雑が入り混じっていた。

 そんなところで俺は個人医院の院長をしている小山先生と出会う!

 なぜかカウンセリングのような診察を受けていたのだが……

「このままでは、お互い帰ろうにも帰れませんねぇ。一応、私は院長に連絡が付くか試してみます」


 小山先生はこの総合病院の院長と仲が良いんだろう。

 総合病院の受付に電話をするのではなく、スマホで院長に直接連絡をとりはじめた。

 なるほど、院長同士仲が良いとお互いの連絡先も知っているらしいからそういう連絡の仕方もあるんだな。


「えぇ、実は製薬会社の黒瀬さんも私とご一緒しているのですが、困っているようですよ。良ければ同席させていただいても、よろしいでしょうか?」


 え。

 良いのか、そんなこと!

 俺はこのまま病院が慌ただしいままだったなら仕方ない、医療事務の受付嬢に連絡してもらう約束をしてパンフレットを渡すだけ渡して会社に帰ってしまうことも一つの案として考えていたのだが……こういうとき、知り合いの先生が近くにいると助かる!

 あ、小山先生も電話連絡が終わったようだ。そして俺の方を見てニコリと笑ってくれた。


「院長が是非、黒瀬さんもご一緒に、ということですよ。良かったですね」


「あ、ありがとうございます!今度、医院の方にも顔を出させてもらいますので!」


 世話になったのならば、それを忘れることなくきちんと感謝でお返ししなければ!こういう営業っていう業界も人と人との繋がりがめちゃくちゃ大切だったりするからちょっとでも失礼をしてしまうようなことにでもなればその時点で営業先が一つ失ったものだと思え!……と自分で勝手に考えている。でも実際、大切なんだろう。小山先生と知り合いだったおかげで滅多に落ち着いて話すことができない総合病院の院長と面会することができるようになったのだ。くぅ~っ、こんなことになるんだったらもっといろいろな新薬のパンフレットとか持ってくるんだったーっ!!!


 俺と小山先生は二人で非常階段から廊下に戻った。すると、まーだ患者さんの怒鳴る声が廊下に響き渡って聞こえてくる。さっきの男性患者、まだ医療事務の受付嬢に詰め寄っているのか?はぁ~……いつまでも怒鳴っているなんて、アンタのその怒鳴り声を聞いているのはたくさんいるんだぞ。俺にもばっちり聞こえているし……ホント、こういう患者がいると病院って……鬱になる。


「……やれやれ、こういう騒ぎはしばらく続きそうですねぇ」


「あれ、そう言えば小山先生のところは……あ、確か曜日的に今日は休診でしたか」


「よく覚えていらっしゃるんですね。……良かったというべきか、明日が恐ろしいというべきか……何しろこういうワケの分からない病が流行ると医療界は爆発しますからなぁ」


「ば、爆発?」


「よく分かっていないものに対して人という生き物は何処かに怒りだったり不安をぶつけるしかなくなる。その対象が、身近にいるところの医療機関となるわけですよ」


 なるほど……。そうやって考えると人って弱い生き物なんだなあ。って、鬱鬱って言ってる俺も決して強い人間ってわけじゃないけれど。

 まだ、怒りとか不安とかを他者にぶつけることができているだけ健康的って感じもするよな。逆に不安も吐き出せず、怒りも外に出すことができずにいる人ってどんどん精神的に弱っていきそうな気がする。

 でもなあ、あの男性患者はそろそろ静かにしてもらうことはできないんだろうか。


「では、私たちは院長の待つ院長室へ向かうとしましょうか。……大丈夫ですよ。あの人もそろそろ熱が冷めるでしょうし、万が一のことともなれば大きな病院には警備員さんもきちんといますからね」


 やけにあっさりと医療事務の受付嬢を無視するんだな……と思っていたが、小山先生だって決して冷酷な人じゃない。きちんと対応できる人がいることを分かっているんだな。


「それにしても咳ですか……肺炎に繋がるような重いものでなければ良いのですが、感染の高さが気になりますねぇ」


「飛沫感染、でしたっけ。じゃあ誰かがくしゃみ一つでもしようものならあっという間に感染するって感じですよね」


「例えば……満員電車の中で誰か一人がくしゃみをするとします。すると、その人の飛沫というものは同じ車両に乗っている人ほぼ全てに降りかかると思ってみてください。これほど怖いものはありませんよ」


 うげ!

 そんなに!?

 今、すげぇイメージしてしまった。毎朝乗っている通勤電車なんて、ほとんど身動きが取れないほどに混雑している。そのなかで飛沫感染だと!?そんなことになってみろ、一気に感染者が増えるじゃねえか!……うっ……なんだか考えるだけで気持ち悪くなってきた。……鬱だ。た、助けて……REONA!!


『私がついているから大丈夫よ!私がついているから大丈夫よ!私がついているから大丈夫よ!』


 はぁ~……極楽極楽。


「……さきほどから気になっていたのですが、その耳に付いているイヤホン……何か曲でも聴いているのですか?」


「あ、すみません!つい、クセで……えっと曲っていうわけじゃないんですが、自分を落ち着かせるのに一番効果的なんです」


「へぇ!それは素晴らしい!音楽とかですか?」


「えーっと……俺、とある声優の子のファンでして……その子のボイスを聴いて落ち着いているんです。いつも」


「声優?」


「は、はい……」


 一瞬、躊躇った。

 が、小山先生は今までの付き合いからして決して他人の趣味とか好きなモノを笑うような人ではないはずだ!だから思い切って打ち明けてみることにしたのだ。


「あまり詳しくはないのですが……そういう自分が落ち着くモノをきちんと分かっているというのは素晴らしいことだと思いますよ。ちなみに、どんな方なのですか?」


「え、えっと……声優にしてはいろいろと不明なところが多い子なのですが……れ、REONAという子なんです」


「REONA?あれ、そう言えば最近、朝のアニメにそのような方が出演していませんでした?」


「!は、はい!先生もしかして知っているんですか!?」


「私というか、患者さんから教えてもらいましてね。お子さん連れのお母さんが一緒になって観ているアニメらしいのですが、それがとても面白いとおっしゃっていましたよ」


 い、いいなぁ~!

 その親子と語り合ってみたい!そしてREONAについても熱く語り合ってみたい!!


「ははは!それにしても仕事ばかりに一生懸命かと思っていた黒瀬さんが、声優さんのファンとは。新たな一面が知れて嬉しいかぎりですなぁ」


「あ、いえいえ!声優のファンっていうか、そのREONAだけのファンなんです、俺は。他の声優とかアニメとかはぶっちゃけどうでもいいんです」


 自然な流れで俺がREONAのファンということをぶちまけてしまったが、それでも小山先生は楽しそうに笑って、俺の話を聞いてくれた。こういう先生がカウンセリングとかに向いているんだろうなあ……。

 そして、院長室にはすぐに着いた。

 小山先生とREONAについてあれこれと語っていたから。あ、でも先生はあまり声優には詳しくなさそうだったよな……一方的に俺ばっかり話していたみたいだったし、退屈だったのではないだろうか。


「そのREONAさんという方は人気なのですねぇ。黒瀬さんがここまで熱く語るなんて素晴らしい人なのでしょうね。いやぁ、人の趣味を知るというのは楽しいものです」


「そ、そうですかね?あ、いえ、REONAの演技とかはめちゃくちゃ凄いと思っていますよ!もちろん!」


 そのまま、しばらくREONA談義、もとい声優業界は今回のことで大打撃を受けるのではないかと小山先生なりに心配もしていたようだった。俺ももちろん心配しているからな!

 そんなこんなで、院長室へ。


「失礼します。小山です。製薬会社の黒瀬さんも一緒ですよ」

 趣味、好きなことをぶちまけることはちょっとした勇気が必要ですよね。そんな勇気を持っているお兄ちゃんに拍手!!REONAともども良ければ応援してあげてください!


 良ければ『ブックマーク』や『評価』などをしていただけると嬉しいです!もちろん全ての読者様には愛と感謝をお届けしていきますよ!

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