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第三十五話 カメラに上半身裸……鬱になるので、すぐに何か着てください

 さて、リモートのためのアプリを立ち上げるとするか。

 まあ、まだ時間的には早いし、みんなが揃うのを待つのも良いだろう。

 パソコンを立ち上げ、リモート会議に使うためのアプリを起動させていくと意外なことに既にリモートを繋いでいるヤツがいた。このまま挨拶をせずに……っていうのは、さすがに無理があるだろう。イヤホンやらマイクの準備をすると『おはよーっす』と声を掛けていく。

 パソコン画面に映し出されたのは一応同期で今まで一緒に頑張ってやって来られている人物だった。コイツは、少しばかり変わり者で……。


『お、おはようございますっ!!』


「おはよーっす。……つか、今のところ俺らだけみたいだし、普通に喋ってくれても良いんだぞ?」


『いえいえ!俺は黒瀬さんを尊敬していますから!』


 聞いて分かるように、何故か同期で一緒に入社したはずなのに俺のことは尊敬しまくっていて、話言葉も丁寧なモノになっている。

 何かコイツに尊敬されるようなことをしただろうか?自分には必要な仕事をこなし、ハゲ上司からの文句だの愚痴だのに内心では腹を立てながらも一生懸命耐え、そして営業先をまわっていく……。いたって普通だと思う。コイツに対して個人的に何かしてあげたことがある、だとか……そういう尊敬に値するようなことをしたっていう覚えは無いはずなんだけれどなあ。


「それにしても随分早いんだな?まだ時間には余裕があったからもう少し後から来てくれても間に合うだろうに」


『このリモートっていうのにはまだまだ慣れないものですから!それに遅刻するよりは早く来て待機している方が良いかと思いまして!』


 はは、律儀というか……会議までには時間がたっぷりあるというのに、遅刻するぐらいなら早くに来て待っていた方がマシって考えか?同期ながらもしっかりしたヤツだと思う。


 ついでに体調の方は?とか、身の回りで困ったこととかは無いか?って話をしていると、少しずつだがリモートを繋げてくる顔ぶれが増えてきた。もちろんカメラを繋げているものだからそれぞれの背景も分かってしまうわけで……。確か、昨日やったときには、某ハンバーガーショップでリモートしているようなヤツもいた気がするが、今回は各々の家……だろうか。すっきりとした家具とか何も無い背景が映り込んでいるのでみんな大人しく家にいるみたいだ。


『はよーっす!』


 お、来た来た。

 近藤がいちいち決めポーズ(敬礼の仕草をちょっと崩した感じ)で挨拶をしていくと周りも調子にノってか同じようなポーズで挨拶を返していく。それに、ついつい吹き出しそうになるが、なんとか耐え平常モードで挨拶を返していった。


「何人かには既に聞いたりしているんだけれど、自分の体調とかに変化は無いか?」


『う~ん?特には無いですね』

『大丈夫ですよ!!』

『あ、黒瀬さん!妹ちゃん体調どうですか!?』


 って、体調に問題無いならそれで良いんだよ。そこで、なんで妹の話になろうとするんだ!?


「……あー……ウチの妹は、検査してもらったらものの見事に陽性食らっちまったよ」


『ええ!?じゃあ黒瀬お兄ちゃんも危ないんじゃ!?』

『お兄ちゃん、妹ちゃんの面倒みてあげてます!?』

『具合が悪いならきちんと看病してあげなきゃダメですよ!』


 つか、妹のための談義になってねえか?

 あちこちから妹のためを思ってかいろいろ言葉を掛けてくれる社員たちの中で近藤だけは笑いを堪えているらしく苦笑いしていた。


「それより!課長代理って誰なんだ?まさか、今もう来てるヤツの誰かなのか?」


『いえいえ、自分じゃないです!』

『今日のリモートで、分かるんじゃないですか?』

『課長は……さすがに、昨日の今日じゃ出て来れないだろうしなあ……』


 そうこうしているうちに、あと数分もすればリモート会議開始時刻。

 みんな開始時刻よりも余裕を持ってリモートに繋いでくれているのは偉いと思う。五分前行動っつったっけか?そういうの今もおこなわれているのかどうかは知らないけれど、ウチの会社のヤツらは偉いよなあ……。

 なんて考えていたら新たなカメラが起動し、そこに映し出されたのは……。


『あ?コレじゃねえよなぁ……あぁ、こっちか……はよーっす』


 なんと、カメラモードの向きに四苦八苦していたらしく、最初は何も映し出されなかったのだが、カメラモードがオン状態になると飛び込んで来たのは男の上半身裸姿だった。

 さすがに、それはリモートに繋いでいるみんなの視界に入ったらしく一気に場がシラケたというか……ついつい無言になってしまう。というか、これ、話し掛けて良いのか?


「……せ、先輩……まさか、裸で寝ているんです、か……?」


『あ、よぉ!黒瀬!あ、違う違う!ちゃんと下は履いてるっつーの!』


 そりゃあ安心ですね……じゃねーよ!

 上半身裸だけでもアウトだろうが!今、何人の目にアンタの上半身裸の状態が晒されていると思っているんだ、このヤロー!

 え。でも、もしかして今、先輩が来たってことは……ハゲ上司の代わりって、もしかしなくとも先輩だったりするのかよ!?最悪だな、おい……。どっちにしたって最悪だよ!


「えー……い、一応会議なんで……Tシャツか何か着てくれません?」


『へいへーい』


 一旦はカメラ前から移動してしまった先輩だったが本当に近場にあったTシャツを着て来たらしく(しかも可愛いキャラクターモノがデザインされているTシャツだった!)そう時間を掛けることなくカメラ前に戻って来た。


「えーっと……共有しておく連絡事項とかがあれば……」


 先輩の上半身裸ショックからまだ抜け出せていないヤツらもいるらしく、なんとも発言しがたい場になってしまったらしい。だいたい朝から男の上半身裸なんて見たくねえっつの!鬱になるだろうが!


『あ、そういえば開発部の方で黒瀬さんからの要望に順次応えていくって同期が言ってましたよ!』


「お、そうか。悪いな、わざわざ」


 確か咳止め薬系の発注やら量産やらを頼んだんだった。

 リモートで繋いでいるコイツはその開発部の連中と同期なのかもしれない。


『会議っつってもなあ……特に、それらしい話し合いなんて必要無くね?連絡なんてスマホで出来るっしょ?』


 先輩はこう言うが、やっぱり複数の人との共有しておきたいことがあればこの場を利用して共有してしまった方が早い、とも言える。あとはカメラを繋いでいるから顔を見て話せるってことだろうか。


「……先輩は、体調の方は大丈夫ですか?」


『おう、全然平気平気!昨日なんて熱すぎて上脱いで寝たぐらいだったからな』


 は?

 いや、ちょい待て。昨日の晩ってそんなに熱かったか?服を脱ぎたくなるほどに熱かっただろうか?


「せ、先輩先輩!すぐに熱測ってみてください!それか、このリモートが終わったら何処でも良いんで医者行ってください!」


『はあ?なんでだよ?』


「世間だと咳の症状ばかりが取り上げられてますが、熱が出ることもあるんです。こればかりは病院行って検査してみないと分かりません」


『ん?お、おお……分かった……』


 じゃっかん先輩の普段の勢いが弱まり、俺からの勢いに負けてしまったのか?たじたじになってしまっているが、熱い熱いなんて言えるような陽気じゃないだろう。無自覚のうちに熱も出ているのかもしれない。

 まったく、そんなヤツが上半身裸で出て来るんじゃねえよ……。


「つか、このリモートって毎朝するのかな。特に急用が無ければ二日に一度とかでも良い気がするんだけれど……」


『お、その案乗った!いつもと同じ顔触れだろ?ある意味、生存確認が出来て面白いかもしれねえけれど、和馬が言うように毎朝やらなくても良いんじゃね?』


 カメラに映っている連中は、『そうかそうか』と頷いている。

 先輩だって『その方が楽かもなあ……』なんて、ぼやいているし……。


「それじゃあ、取り敢えず明日は無しにして。次は明後日にしよう。もちろん急用があればスマホとかの連絡はいつでも受け付けるようにしておくよーに」


 なんとなく俺が仕切る形になってしまったが、ポッと出の先輩だって何を話すべきか戸惑っていたみたいだったし、ここはさっさと終わらせるに限る!

 一人、また一人とリモートを切っていき、なんとなくだが近藤と俺だけになってしまった。そこで繰り広げられる会話っつったら、これしかないだろう。


『なあ、妹ちゃん、どーなの?実際』


「咳すげぇっ!……って感じ。熱の方は、ちょい落ち着いて来たのかもなあ……」


『マジか。そこまで!?差し入れは!?何かいるか!?』


「いやいや、さすがに毎日のように来てもらうのも悪いって。大丈夫。麗奈には伝えてあるから」


『くぅ~っ、妹ちゃんに会えないってのが寂しいところだけれど……ま、仕方ねえか』


「お前も気を付けろよ?何処で貰ってくるか分からないんだからな」


『分かってますって、お兄ちゃん!』


「……お前のお兄ちゃんじゃねえし」


『はは!んじゃ、またな!何かあったら連絡すっから!』


 ぽつん、とみんながちゃんとリモートを切ったことを確認して、俺もリモートを切った。

 ふぅ……あ、やっぱりここぞとばかりに近藤にあれこれ買いまくってもらえば良かっただろうか……いやいや、それはさすがに悪いしな。

 カメラの向きだとか操作に、最初慣れないと「あれ?」って思うことが……ある、はず!でも、さすがに上半身裸は見たくねぇです……(苦笑)


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