第三話 鬱になるので朝からハゲ上司の顔は見たくない
自分の勤めている会社のエントランスに入ろうとするだけで、鬱が……復活する。
うっ、帰りたい……めちゃくちゃ帰りたい!
そしてREONAが担当しているキャラクターがいるアニメをめちゃくちゃ観たい!
「お?黒瀬くん、そんなところでどうしたかね?入口で止まっていないで、早く中に入りたまえ」
げっ!!!
最悪だ……。
今日は朝からめちゃくちゃ最悪だ!
せっかくREONAのボイスでなんとか混みまくっている電車に乗れたというのに、愛する人の声があったからこそ会社の入り口まで来られたというのに……っ!
よりにもよって、入り口でハゲ上司と出くわすなんて!!!
「お、おはよう……ございます。課長……」
「あぁ、おはよう。どうした?朝はもっと気合いを入れんといかんぞ!はっはっは!」
くっそー、このハゲ上司……。
ここが日本で良かったな……。
もしも、ここが治安の悪い国だったとしたら俺はアンタを後ろからグサッ……と、ヤっていたかもしれない。もしくは、今すぐその頭に飛び掛かってほとんど生えていない頭の毛をむしり取っていたかもしれない。それですーっかり寂しくなった頭を見下ろしながら言ってやるんだ。『バーコードじゃなくて、むしろスッキリして良いんじゃないですか?』ってな!
それにしても今朝はツいていないな……。もしかして、今日の俺の運勢は最悪の日だったりするんじゃないか?今朝の占い……ちゃんと見てくれば良かった。だが、同じ星座を持つ人なんて世の中にごまんといるんだ。たった一人の運勢をラッキーアイテムなんぞでどうにかなると思うな!俺は基本的に占いなんてものは信じない!俺が信じるのはただ一つ!REONAだけだ!
まず顔を合わせてしまったのがハゲ上司だったこともあって、気分はどん底に落ちた。
ここから気分なんてどうやって上げていけば良いんだよ。
さすがに仕事中に落ち着いてREONAのボイスを聞く暇なんて……営業まわりの移動中にでも聞くか?それしかないな!そうするか……。
だいたい、あのハゲ上司は一体何なんだ。
同期の連中と話すこともあるが、ハゲ上司の評価はすこぶる悪い。何かにつけて文句だの、罵声だのを飛ばしてくる。この会社に存在しているパワハラ代表その一名だ。アンタは知らないだろうが、俺たちはアンタの存在を認めていない!さっさと会社を辞めてほしい!どうせ、もういい歳なんだろう?さっさと辞めて大人しく家でのんびりと過ごしてほしい……ちょっと羨ましいけれど。同じ空気の中で過ごしているだけで俺の鬱はどんどん悪化していくようだ。
『頑張れ、負けるな!頑張れ、負けるな!頑張れ、負けるな!』
非常時に聞くREONAのボイス。
やっぱり癒される~……耳だけが癒されるだけじゃなくて、こう体中にREONAの声が響き渡って幸せな気分に浸ることができる。
幸せだな~。
……おう、俺は営業職だからハゲ上司との接触だって最低限なモノなんだ。まだ恵まれている方なんだ。デスクワーク組は仕事がはじまれば四六時中ハゲ上司の顔色をみながら仕事をしなくちゃいけないんだ!俺は、やれる!やれるんだ!
と必死に言い聞かせて自分の勤める階までエレベーターに乗って向かった。
あ、言い忘れていたが俺の名前は黒瀬和馬二十七歳だ。家族構成は、父・母・妹がいる。父も母も両名ともとても働き者で、朝早くから仕事場に向かうことが多い。母もそろそろいい歳なんだから専業主婦とかしながら家で過ごしてもいいと思うんだけどなあ。仕事が好きなようでいろいろな資格を取得してはそれに合わせた求人を見つけてくるといろいろな種の仕事に手を出している。妹は専門学校だったか?大学ではなかったよな、確か。どんな専門学校に通っているかまでは知らないが、父も母も納得した上で通っているようで学校生活は満喫しているようだ。
目的の階でエレベーターのドアが開くとまたもや鬱が出現。
これは一種の癖のようなものになっていて、仕方がない……。
仕事、というか、仕事関係で関わっていく人たちとの相性が悪すぎるせいで気分が悪くなっているだけ。今のところ病院などにかかるまでにはいたっていないが、もしもこれ以上悪化するようなことにでもなれば有給でもなんでも使って病院に行くつもりだ。そのときには、ハゲ上司の文句やら先輩の愚痴を吐き出しまくることにしよう。
俺が勤めている会社はデスクワークはもちろんのこと、営業も大切な仕事になる。俺は最初はデスクワークの方が向いているかも……と思っていたのだが、一日中ずーっとハゲ社長の顔を見ていなければならないと分かったときには営業に異動届けを出していた。あんなヤツとずっと同じ空気を共有する!?そんなこと無理だ!むしろ体がおかしくなってしまって、精神もぶっ壊れるかもしれない。
異動は意外にもすんなりと通った。だが、今度待ち構えていたのは後輩いびりが大好きな先輩。この人の存在もなかなかメンタルにくるもので、胃痛がするのはたびたび。さりげなくスーツの内ポケットの中にはいつでも服用することができるように胃薬も常備しているのはきっと俺だけではないだろう。営業をしているヤツらの中にはメンタルをヤられたヤツもいたようで、耐えきれずに退職してしまった人も少なからずいるらしい。そして、今も病院に通いながら営業職と向き合い戦っているという猛者もいるようだ。そういうヤツは無理をせずに休んだ方が良いと思うのだが……どう思う?
俺は、胃薬とREONAのボイスがあるから、なんとかやってこられているのだが、それもいつまでもつのか正直不安でしかない。だからもしもREONAが声優界から引退なんて記事をニュースで見るようなことにでもなればすぐにでも会社を辞めてしまうだろう。REONAの存在があるから俺は仕事ができているんだよ!この言葉をREONA本人に伝えてみたい!……まあ、そんなことは無理なんだけれどな。
REONAを好き過ぎるあまり、マジでラブレターのようなものも書いてしまったことがある。が、一度落ち着いて考えたところ、REONAにこの手紙が渡ったときにどう思われだろうか。いい歳したおっさんがファンで、ラブレターに近いファンレター。……もしも俺が受け取る側だとしたら、キモイことこの上ないだろう。と考えて、書いた手紙は自分の部屋の引き出しにしまってある。一応、自分の気持ちを書いたものだから捨ててはいないけれどな。
それにしても営業か……今日は一体どこの薬局や病院をまわることになるんだろう。
入社した社員証を機械に読み込ませると入社した時間、そして退社するときにも同じ動作をしていくからはっきりと機械には働いている時間が残されていく。残業していくなら尚更残業時間というものも機械が残されていくが、営業で残業というものはあまり今まで経験したことがない。営業でみまわる先方もどうしても時間というものがあるし、話ができる時間というものも決められている。なので、徹底した時間の振り分けだったり、時間配分というものは必要になっていくが、残業……かなり遅い時間まで仕事をしなければならないというわけでもないのが助かっている。
『今日も気を付けてね!今日も気を付けてね!今日も気を付けてね!』
REONAのボイスが体中に染み渡る!
うん、俺、今日一日も頑張れそうだ!
やっぱりREONAのボイスは鬱になりやすい俺のメンタルには不可欠な存在らしい……。
あ、やっと名前が出た。
出せた!
営業職にはあまり詳しくはないのですが(こら)あちこち移動してまわって大変だというイメージしかありません。ホント大変なのでしょうね……営業職のみなさん、ホント毎日お疲れ様です。
なんともまた変わったタイトルの作品になりますが、初の男主人公作品になります。少しでも興味を持っていただけると嬉しいです!良ければ『ブックマーク』や『評価』などをしていただけると嬉しいです!そして全ての読者様には愛と感謝をお届けしていきますよ!