第二十五話 鬱にはサプライズプレゼント!
熱があるってことは、逆に言えばそれだけ体の中で抗体と熱を発している原因になっているヤツが戦っているということ。
う~ん……だが、ちょっと高すぎるよな……。
もう見ているだけで、なんか危なっかしい!壁にでも激突するんじゃないか!?と思いながらついつい肩を支えてやって麗奈の部屋に連れて行った。布団を捲り、ベッドに座らせてやるが未だに咳が止む様子が無い。貰った薬は一応食後に飲むタイプのヤツだから咳が酷いからってそう一日の中で何度も何度も飲むモノじゃない。これだけ咳していたら喉も痛いんだろうなあ……。
それに寝間着の上にカーディガンを羽織っていた麗奈だったけれど、肩を支えているときにめちゃくちゃ体が熱かった。これ、昨日今日だけで罹ったウイルスのせいなんだろうか。なんだか、普段から我慢していて、それが昨日今日になってやっと表にあらわれてきたんじゃないかと思うほどに症状が重いと思う。
ゆっくりとだがようやくベッドに潜り込んで横になった麗奈。
「水とスポドリ……コッチに置いておいて平気か?ベッドの方に置いておくか?」
「ん、コッチに……置いてほしい……ごほごほっ」
おいおい……。大丈夫かよ。代わってやれるものならいくらでも代わってやりてえよ。でも、それは出来ないものだからなあ……。とにかく麗奈には大人しくしておいてもらいたい。何か欲しいモノがあれば連絡をしてくれれば良いし、わざわざ部屋から出なくても……あ、さっきリビングにいた俺を見て『いた……』って言ったか?もしかして、部屋を抜け出して俺の部屋に一度顔を出したのか!?ふらふら状態で、余計に疲れさせてしまったんだろうか。悪い!悪かった!
ローテーブルの方ではなく、一応蓋が閉まっているから大丈夫だとは思うが、ベッド脇に水とスポドリのペットボトルを置いてやった。あ、そうそう。コレ、一応張っておくか……。ぺりっとシート部分を外すと咳き込んで苦しそうにしている麗奈の額に掛かる髪の毛を退けて冷えピタを張ってやった。思っていた以上に冷たかったのか小さく『ひぇっ!』みたいな悲鳴が麗奈の口から出てきたのだけれど『いきなり何すんの!』的な文句などは一切返されなかった。……そんなこと言う元気も無いのかよ……。普段だったら、ちょっとでも髪を触ろうとするだけでもジロリとキツい視線とともに『何すんの』って文句を吐きまくるじゃねえか。ちくしょー……麗奈のこのウイルス……何処から貰ってきたんだ!?学校か!?
冷えピタっていきなり張られるとびっくりするけれど、これが気持ち良いんだよなあ。まさにその名の通り、ひんやりしていて。まあ、時間が経つとどうしてもひんやり感っていうのは無くなってきちまうものだけれど最初に感じるヒヤッと感が良いんだよ!これで熱の方は……落ち着いてくれるのを待つ。夕方、また熱を測ってみてかなりやばそうな数値だったら……その時には小山先生にでも相談してみることにするかな……。ただ、まだまだ落ち着く様子が見られないのが咳だ。つか、マスクなんかしていて苦しくないんだろうか。あ、ここに俺がいるからいけないってヤツか!?だったらすぐに出ていく!出ていくから!そんなゼェゼェって呼吸をしないでくれ!
「じゃ、じゃあ……お大事に、な?」
「ごほごほっ……ん……ありが、と……」
素直な妹に感動している場合じゃないぞ、俺。このまま咳が酷くなれば肺炎になることだってあるって言われているじゃないか。くっそ、どうする……また、明日にでも小山先生の所に行って肺炎になっていないかどうか診てもらうか!?熱もあれば咳も酷い。ウイルスのヤツって熱はほとんど出ないって言われていたんじゃないのかよ。ウチの妹を見ろ!熱もどんどん高くなっているじゃねえか!
静かに麗奈の部屋のドアを閉めると、俺も自分の部屋にこもることにした。まあ、一応何かあればスマホで連絡の一つでも寄越すように言っておいたけれど、熱があるなかでスマホを操作するのってなかなか大変なことじゃないか?メールとかは面倒だと思うから電話を寄越すように言い聞かせておいたけれど……何も無いと良いけれど……。
室内にはREONAが担当してきたキャラクターグッズが視界に入り、この壁をちょっと通り抜ければ麗奈の部屋だ。
「なあ……少しでも良いから麗奈の体調が良くなるように、祈ってくれよ……。って、REONAも確か体調不良だって言ってたか?」
REONAはもちろんのこと、麗奈だって少しでも早く良くなってほしい!だって目の前で苦しんでいるんだからな!REONA愛は何処に行ったかだって!?もちろんREONAへの愛が枯渇しているわけがないだろう!しかし、身内の麗奈のことだって俺からすれば同じぐらいに心配なんだよ!たった一人の妹なんだぞ!これが心配せずにいられるかっての!世の男性諸君!キミに妹はいるか!?だったら弱った妹を目の前にしてみろ!どれだけ心配な気持ちになるか、俺の気持ちが少しは分かるはずだ!それが普段強気な妹であればあるほどに心配な気持ちは強くなるんだからな!……俺を見ては『キモイ』『ウザイ』ばっか言ってくる妹だけれど、それが言われないと途端に寂しくなるんだぞ!?
触り心地の良いアニメキャラクターのぬいぐるみを『よしよし』と言いながら撫でていると家のインターフォンが鳴った。……宅配か?いや、俺は特に何か頼んだ覚えは無い。麗奈も特に荷物が届くとかって言ってなかったよな?セールスだったら即ドアを閉めてやろう……という気持ちで、マスクを掛けたまま部屋を出るとそーっと玄関の戸を開けた。
「お。よぉーっす!はは、遅かったから寝てるのかと思ったぜ」
そこには同期で俺の趣味にも詳しい、近藤の姿があった。もちろんヤツもマスクをしているが、随分とラフな格好をしている。ジーパンにTシャツ……まあ、財布とかが入ったショルダーバッグは持っているけれど、コイツこんな恰好で出掛けて来たのか!?
「一度起きたらなかなかお前みたいに寝れねーよ。どうした?」
「いやぁ~、俺もあれからなかなか寝れなくてさー。ついでにいろいろ買って来てやったぜ!」
「へ!?」
ガサッとビニール袋を片手に目を細めて笑ってくれる同期の近藤。中身は何だ?と思って袋の中を覗いてみれば、まず目に付いたのはアニメ雑誌。それから喉の炎症に効果があるとされている噴射スプレー。冷えピタに、そして大量の喉飴とマスク……。
「えーっと……コンビニ、だよな?え、俺に!?」
「雑誌は、な。後は妹ちゃんへのプレゼントに決まってんだろ~?妹ちゃんの具合どうよ?」
「あー……なかなか、な。検査したら陽性反応出てるし、熱も高いし……すげぇ心配なんだよ……」
つか、俺が要望出したモノだけじゃなくて、いろいろ具合を予想してきてくれたのか、非常に役立つアイテムを用意してきてくれたらしい。特に、喉にシュシュッってやる噴射スプレーは咳き込んでいる麗奈にとって一番役に立つだろう。
「つか、買い込み過ぎだろ。まあ……ありがとな。ちょっと寄っていくか?インスタントしか出せないけれど」
「いやいや!ホント軽く寄るつもりだったし!居てくれて良かったぜ~。妹ちゃん、お大事に、な!」
このご時世だから知り合いの家に寄ることも遠慮したのかもしれない。だから玄関に入ることもなく、玄関先……ドアを開けたところでずっと話していたのかもしれない。
近藤は軽く片手を上げて帰って行くと、そのまま後ろを振り向くことなく……帰ったのか、それとも何処かへ寄り道しに行ったのか……。それにしても凄いな。こりゃあ、今度何か奢らないといけないかもしれない。
明らかに俺のため、と思われるアニメ雑誌だけを取り出すと後はまとめて麗奈の部屋に持って行った方が良いだろう。
コンコン、と麗奈の部屋のドアをノックするが……出ないな。
恐る恐る、今は非常事態だしな!文句やら悪態なら後でいくらでも聞いてやる!と思いながらドアを開けた。薬が効いているのか冷えピタが気持ち良いのか、よく眠っていた。時折、咳が聞こえてくるが寝ていても咳って出るんだな……。まあ、あまり長居は失礼かと思いローテーブルの上に、ビニール袋ごと置いて俺は部屋を出て行った。
近藤、いいヤツじゃん!!見直しちゃった!え、同期でここまでやってくれる人なんていない!?たぶん、なかなかいないと思う!だからこそ見直しちゃった!!
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