第二十二話 妹が心配で鬱だ
取り敢えず、初めてのリモート顔合わせというヤツは課長以外、何も問題は無かった。
ただ、課長は感染してしまったらしい……何やってんだか……そりゃあ心配するっての!
さて……俺は、本屋に……コンビニにも売っているだろうか……。
あんなに部下に厳しいハゲ上司が感染ねぇ……。なんか、いまいちピンと来ていない。いつもちょっと気に入らないことがあればみんながいる前で怒鳴り散らし、パワハラの域まで達しているかのような言葉遣い。そろそろ上層部に文句の一つでも報告してやろうか……と考えているヤツは俺だけではないはずだ。そんなハゲ上司でも体調を崩すことがあるんだなあ。やっぱ、ハゲ上司も人間だったってことか。
今日のところは、もうパソコンを使って仕事関連でやることが無くなってしまった俺はマスクを付けて部屋を出た。途中、妹の麗奈の部屋の前を通ったのだが、部屋の中からはドアを隔てているというのに咳き込んでいる音が聞こえてくる。マジかよ……なんか、朝よりも咳酷くなってんじゃねえか?朝は『けほっ』ぐらいの軽い咳だったように思えたが、今部屋の中から聞こえてくるのは『げほっ、げほっ!!』って感じで如何にも苦しそうな咳に変わってしまっている。……病院に、連れて行った方が良いんじゃないだろうか。
コンコン、と軽くドアをノックすると慌ててベッドから出て来たらしい麗奈が、ちょっと髪をくしゃりと乱しながらドアを開けて顔を見せてくれる。もちろんその顔にはマスクが着用されているが、まさかマスクをしたまま寝ていたんだろうか。
「お、おい。咳凄いじゃないか。……病院、行くぞ。支度、整えて来いよ」
「病院!?い、いいよ!そんなの!げほっ、ごほ……っ……」
「バカ。さっき風邪薬飲んだんだよな?つか、全然効いて無い感じじゃないか。むしろ咳だけ聞くと悪化してるだろ、それ」
「い、いい!行かな……っ、ごほごほ!」
強情だな。つか、ここまで酷いなら誰だって医療機関に一度は足を運ぶべきだって思うだろう、普通。
「我慢するなって。今、世間で騒がれている咳かどうか確認するだけでもした方がいいぞ?陰性ならそれで良いじゃねえか。ほら、車出してやるから、支度して来いよ?」
渋りながらも、こくこくと何度か頷き返した麗奈は支度のために一度ドアを閉めた。ただの風邪ならそれで良い。病院……何処も混んでるよなあ……今日は平日だが、昨日のニュースの件もあるだろうし、検査だけでも受けに来るっていう患者がいるかもしれない。さて、何処の病院に行くべきか……。
あ。小山先生のところはどうだろうか。あそこは個人医院だが、内科なら診察してくれる。だが患者が多いとかえって悪い菌を貰ってくる可能性もあるよな……。一度、連絡してみるか。
プルルル プルルル
『おや、黒瀬さんですか?昨日の今日で、何かありましたか?』
「あ、お忙しいところ申し訳ありません。実は、俺の妹がちょっと具合悪いみたいで、小山先生の所でちょっと診察していただけないかと……今、そちらはどのようなご様子でしょうか?」
『なるほど。午前の診察は今日は急遽休診状態にしていたので、今なら来ていただいても構いませんよ』
「え、休診!?」
『はい。いろいろな検査キットなどが必要になるかと思い、製薬会社に連絡したところじゅうぶんな数が揃うのが午後までかかるそうだったので午前は準備中……といったところですね』
「えっと……お邪魔しても、よろしいんでしょうか?」
『構いません構いません。急患であれば元々受け入れる準備はしていましたから、支度が整った所でお越しください』
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
ふぅー……小山先生もなかなかに先の事をしっかりと考えているみたいだ。それに製薬会社への連絡もきちんとしているあたり、凄い先生だな。今頃、総合病院あたりは患者でごった返しているに違いない……想像しただけで鬱になりそうになる。
「ごほっごほ!……い、行けるよ……ごほっ」
「おお。んじゃ、行くか」
少し時期的には早いかなと思ったけれど、カーディガンを着た麗奈の姿を確認してから玄関に置いてある車の鍵を手にし(我が家には車はあるものの、ほとんどが買い物に使うため。なんでって、買い物に行くと荷物がたくさんになるから車に積むんだよ)助手席に麗奈が座ってしっかりとシートベルトを締めたところで手慣れた手付きで車を小山先生のところの医院に向かって走らせた。もちろん玄関の外では俺も麗奈にも消毒スプレーを吹き付けて予防はしてきた。
車内は少しだけ暖房を付けるが、麗奈の咳はちっとも収まらない。
「……苦しいか?だったら窓開けても良いからな?」
「ん」
あまり必要以上には話し掛けない方が良いらしい。ちょっとでも言葉を発しようものなら、その言葉と一緒に咳まで出てしまうようだ。う~ん……こういう弱った妹もなかなかに見ないものだから兄としては心配してしまう。今、家には父も母もいないからだ。
車で走らせると数十分ほどで小山医院に着くことができた。駐車場には数台ほどの車が停まっていたものの臨時休診の張り紙があるせいか、車内で待機している患者たちだろうか?そんな姿が車の窓越しに目に入った。いざ近場の医院に来たは良いものの、休診になっていたのでどうすべきか迷っているのかもしれない。こういうとき仕事柄、連絡先を知っているのってちょっとだけ有利だな。もちろん苦しんでいる患者が待っていそうなら小山先生に言って医院を開かせてもらうつもりでいる。
医院の入り口近くにあるインターホンを押すと看護師らしき人が出てくれたので『連絡を入れた黒瀬です』と言うと鍵を開けて医院の入り口を開けてくれた。ちょっと離れた所で待機していた麗奈を手招きして呼ぶと一緒に医院に入り、簡単な症状と受け付けをしていく。すると待つことはほとんど無く小山先生に呼ばれて診察室に入って行った。さすがにそこそこの歳の女の子が受ける診察室までついて行く気にはなれなかったため待合室で俺は待つことに。そして待つこと数分ぐらいは経ったか……俺も診察室に呼ばれたため麗奈が椅子に座っている近くに歩み寄って行った。
「ど、どうだった?」
「……げほっ、……今、検査結果待ち……ごほっごほ……」
巷で騒がられているウイルス性の咳かどうか調べているのか。……どうか、普通の風邪であってくれ!頼む!!!
「あぁ、黒瀬さん。先ほどはご連絡ありがとうございました。麗奈さんなのですが検査キットでは陽性反応が出てしまいました。それでこれからの家での過ごし方についてお話をさせていただきます。このウイルスは熱を加えたり消毒をきちんとすれば周囲に感染が広まることは防ぐことができますので、なるべく消毒は念入りにおこなってください。家族同士、感染が広まり、外に出てさらに感染を引き起こすこともあるのでマスクは付けるように。麗奈さんは少し熱も出ているようですので、解熱剤と喉の炎症を和らげる薬と咳止めを出しておきます。食欲が無かったり、喉が痛いかもしれませんが食べやすい消化の良いものを食べさせてあげてください」
マジか……。でも、俺以上にショックを受けていたのは麗奈だった。何か、すっごい絶望しているような……これから、どうしよう……って感じの顔をしている。いくらマスクをしていたってどんな顔をしているかぐらい分かるんだからな。何年、家族として一緒に過ごしていると思っている!?
「……麗奈?大丈夫か?」
「!あ、う、うん……げほ、ごほっ!!」
なーんか、あるな。友達と出かける約束?学校が休みになったから遊ぶ約束でもしていたのか?でも、それぐらいでこんな顔になるだろうか。だが、陽性か……こりゃ俺も気を付けないとなあ……。
処方箋を受け取ってすぐ近くの薬局で薬を貰うと(具合の悪い麗奈はもちろん車内で待たせていた)そのまま真っすぐに自宅へ戻った。もちろん家に入る前には、お互いに消毒スプレーを噴射。
「ご、ごめ……ごほ、ごほっ……」
「なーに謝ってんだよ。別に家族だろ?とにかく、お前は寝てろ。いいな?」
こくこく、と頷き返してくれるが、麗奈だって年頃の女の子。きっとベッドには潜り込むもののスマホとかをイジったりして過ごすのかもしれない。でも、今の麗奈にはそこまでの元気はあるだろうか……。真っすぐに部屋に向かう、ちょっと小さく見えた麗奈の背中を見送りながら消化の良いモノってお粥とかか?と考えつつキッチンに立ったのだった。
麗奈ーっ!!!まさかの陽性かよ!!……ここは、お兄ちゃん頑張ってもらわないと!!あ、本屋忘れた?妹優先だ!妹が大事だ!もちろんREONAも大事だがな!!!
良ければ『ブックマーク』や『評価』などをしていただけると嬉しいです!もちろん全ての読者様には愛と感謝をお届けしていきますよ!




