第二十一話 まさかの課長が感染!?……鬱だ
会社の面々が次々にパソコンの画面にあらわれてくる。
……が、いつまで経っても、あのハゲ上司が来ない。
くそ、ハゲ上司が来ないと会議が終わらないじゃねえか!
『……課長、来ませんね……』
『まさか、リモートのやり方が分からないとか?』
『あり得る。……あの人、パソコンなんてほとんど使えないだろ?』
いろいろと言われているのは、未だにリモートに参加してくる気配の無いハゲ上司。いつも部下にあれこれパワハラ紛いなことを言いまくるくせにパソコンの『パ』の字も使えないとか言わないよな?まさか。あの人だっていい歳なんだろ?パソコンが使えないって……そんなバカなことでもあるんだろうか。
『お。悪い悪い!遅れた……って、まだ来てない人がいたのか』
お。近藤も今になって来たのかよ。おせーよ。
「近藤。……髪、はねてる。まさか今の今まで寝ていたとか言うんじゃないだろうな?」
『へ?あ、あははー……そ、そんなことねえって!』
嘘だな。コイツが、こういう微妙な笑い方をするときってだいたい嘘をついているときだ。だから、分かりやすいヤツって言えばそうかもしれない。ある意味、嘘がつけない人間とも言えるのだけれど……。
取り敢えず今集まっている面々は、リモートの仕方はちゃんと分かっているらしい。カメラ越しにいろいろと様子が分かるが、ほとんどの人は自宅からパソコンを繋げているっぽいな。一部、背景を見ると……これ、ジャンクフードの店じゃね?あの世界的にも規模がデカい、あのハンバーガーで有名な店じゃね?っていうヤツの姿もあったりしているのだけれど、取り敢えず今のところはリモート関係でトラブっているヤツはいないらしい。ハゲ上司を除いて。
今日リモートで顔合わせチェックをすることになっているのは俺を含めて十人。つまり、今俺のパソコン画面には八人プラス俺がそれぞれの場所から同時にパソコンを繋げて顔を合わせているということになる。残りの一人……ハゲ上司は一体いつになったら来るのやら……そもそも、今朝にリモートのチェックついでにやり取りをするっていうことを忘れているんじゃないだろうな!?
『……遅くね?』
『さすがに、な……』
『ど、どうしたんでしょうか……』
俺がパソコンに向かってから十数分ぐらいは経っただろうか。未だにハゲ上司はリモート画面に出てこない。パソコンの扱いに慣れていない人といったって、ただアプリをダウンロードしてパソコンを操作するだけだぞ?それに、そこまで時間が掛かるもんなのか?
「……はぁー……仕方ない。ちょっと連絡でも入れてみるか……」
俺がそう言うと、『さっすが黒瀬!』『頼りになるー!』ともてはやしてくれるものの、お前ら自分がハゲ上司に連絡することが面倒だから待っていたんだろう!誰かが連絡するって言いだすのを待ってたんだろう!!ったく。
一応、パソコンに向き合ったままスマホを手にするとハゲ上司に電話を掛けはじめた。……が、コール音が鳴るばかりで一向に電話に出る気配が無い。だいたいハゲ上司と言えども電話対応は無視するような人ではなさそうだし、何かあったんだろうか……。
プツッ
『もしもし。もしかして会社の黒瀬さんでしょうか?』
「え。あの……は、……課長の番号、ですよね?」
危ない危ない、思わずハゲ上司って言いかけてしまった。が、電話に出たのは女性だぞ?
『わたくし、妻でございます。実は、夫が昨晩から急に具合を悪くしてしまって病院に……。それで今朝、検査をしたところ今の流行りのウイルス性の咳だと分かりまして……。今日は、りもーと?とかいう会議があったそうなのですが、夫は参加できず、それからきちんと連絡もできずに申し訳ありません』
な、んだと……!?
「あ、いえいえ!何かとバタついているところ申し訳ありません。課長には、ゆっくり休むようご連絡お願いします!……はい、では失礼します!」
どうやらハゲ上司に電話を入れたつもりだったのだが、通話に出たのは奥さんだったらしい。つか、既婚者だったのかよ。知らなかった。つか、電話口の遠くから咳き込んでいるような音が聞こえてきた気がするけれど、もしかしてまだ病院だったのか?だったらスマホで電話して申し訳無かったかもしれない。でも、まさか入院しているのか!?……重症になると、確か肺炎を起こすって言っていたっけ。……大丈夫なのかよ、ハゲ上司。さすがにいつもワケ分からんことで怒鳴っているハゲ上司だとしても感染に罹ったと聞けば心配してしまう……うっ、俺まで具合悪くなってきた……これは、鬱かもしれん。
『黒瀬ー?』
『……和馬?課長、どうしたって?なんか真面目に電話してたみたいだけれど、どうした?』
「……課長。どうやら感染したらしい。今も病院にいるっぽかった。電話に出てくれたのは奥さんだったんだけれど、まだバタバタしているみたいだったな……」
そう言うとカメラ越しに見えるみんなの顔色が途端に変わっていった。もちろんパワハラ紛いのことを受けているからって、ここぞとばかりに課長を笑ったりバカにするようなヤツは誰一人としていない。なんだかんだ言っても課長のことを慕っているヤツらなんだよな。
『マジか……つか、昨日感染したんだよな、きっと……』
『昨日、最後まで課長と一緒にいたヤツって誰だよ!?』
『えーっと、えーっと……誰だっけ……』
「まあまあ、落ち着けって。つか、みんなは体調に違和感とかは無いのか?少しでも違和感があれば……今は医療機関は混雑しているかもしれないけれど、早めに受診して感染が陽性なのか陰性なのかだけでもチェックしておいてくれ。熱は出ないらしいから熱が無いからってむやみやたらと出歩いたりするなよ?」
ちょっと混乱しかけている場でも、俺がちょっと声を掛けていけばすぐに場は収まっていく。俺も会社に入ってそこそこに長い方だから俺の言葉にもしっかりと耳を傾けてくれるらしい。
『……和馬は?確か、妹さんいたよな?』
「あぁ。妹も今日から学校は休校だってさ。でも、ちょっと具合悪そうにしているから薬飲ませて部屋で休むよう言い聞かせてきたところだ」
『お兄ちゃん!!』
『黒瀬って良いお兄ちゃんなんだなあ!』
『お兄ちゃん、俺のことも世話してくれぇ!』
「アホか。まあ、そうやってバカなこと言える元気があるなら、ここにいるメンツは大丈夫そうだな。でも、マスクと消毒はしっかりとしろよ?って、今朝のリモートってこういう感じで良いんだよな?特に会議みたいな話し合うことって他にあったっけ?」
『いや、今朝はちゃんとリモートが出来るかどうかの確認がしたかっただけだから特に話し合うようなことは無いぜ?』
近藤もそう言ってくれていることだし、なら、これで終了ってことで良いのか。
「じゃあ、これで終了ってことで。何度も言うが体調には気を付けろよ?」
『『『分かりましたーっ!』』』
はは、わざわざカメラに向かって敬礼のようなポーズまでしてくるヤツもいて、面白いヤツもいたもんだ。プツン、プツン、と一人、また一人とリモート画面から接続を切っていく社員たち。なんとなく最後まで見守っていた俺は残りが近藤だけとなったところで不意に話はじめた。
「……つかさ、ライブ……このご時世で、やると思うか?つか、大丈夫だよな!?」
『ぶはっ!なんだ、そんな心配してたのかよ!』
「当たり前だろ!だってREONAが出るんだぞ!」
『今月末だっけか?それまでにはこの騒ぎも落ち着くだろ、さすがに』
さすがに他の顔ぶれがいる前では出来ない会話。REONA愛を知っているのは近藤だけだったはずだからこれ幸いとばかりに近藤に愚痴のような心配のような言葉をぶつぶつとぶつけていく。
「……だと、良いんだけれどさ……やっぱコンサートとかライブやるにしたら人が集まるだろ?感染予防したって感染するときにはするもんだろ?」
『あー……なら、SNSの情報待ちなんじゃね?さすがに中止ともなればそういう情報が飛び交うだろ?んじゃ、俺、また寝直すから俺も切るぜ?』
「また寝るのかよ。はぁー……おやすみ。お前も気を付けろよ?」
プツン、と最後のリモート参加者の近藤も接続が切れたところで俺もリモート画面を切った。やれやれ、まさかあのハゲ上司が感染するとは……今頃、咳き込んで苦しんでいるんだろうか……奥さんも不安そうな声色だったもんなあ……。いい機会だから、静かに過ごしてゆっくりしてもらいたい。
リモートってこんな感じで、大丈夫なのかしら(汗)いろいろ複数の人との通話ができるアプリの利用はしたことはありますが、カメラも接続して顔を見ながらっていうのってなかなか経験が少ないもので……経験はあるにはあるのですが、なかなか、ね(汗)あら、課長がーっ!!また、心配してお兄ちゃんが鬱になっちゃうじゃない!!(汗)
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