第二十話 妹の具合が悪くなると俺も鬱になる……
あー……朝か。
って、今日からは会社に行かなくても良いんだったか。
危ない危ない。危うくスーツに着替えるところだったぜ。
通常だったら、今の時間帯なら急いでスーツに着替え、食卓に置いてあるパンをコーヒーで勢い良く胃に流し込んでいく朝……となっているが、今朝からはだいぶ過ごし方が変わってしまった。父親と母親は職業的にどうしてもリモートワークという形を取ることが難しいようで、自宅にいるうちから念入りに消毒を欠かせないようにしているし、小さく持ち運べるタイプの消毒スプレーも各々所持して家から会社へと向かって行った。もちろんマスクは着用。
父親って、確か警察学校だったっけか?そういう職業だったらリモートワークでじゅうぶんだと思うんだけれど、そういうわけにもいかないんだろうか。やっぱり実践っていうものもあるだろうし、講義というものだってきちんと学生たちの顔を直接見ておこないたいって思うのかもしれない。
母親は、今は介護職で働いているんだったか……。ほぼ、医療機関のようなものだ。もちろん内容は違うし、別に母は看護師さんのようなやり取りをしているわけではない。それでも介護現場では感染症が一気に広がる可能性が『大』とも言える場所だ。くれぐれも気を付けるように、と俺は出掛けていく母に向かって言ったものの……本当に大丈夫だろうか。今のところ特に流行しているのは、子どもが大半になっているらしいが、感染そのものは年代に関係無く感染するときには誰もが感染してしまう危険があるらしい。多くの人と接触する機会があるからこそ母には特に注意してもらいたいものだ。
「あ。おはよう、麗奈。そう言えば学校も休校なんだったな。あ、昨日、喉を気にしてなかったか?今日はどうだ?違和感があったりとかするか?」
「……おはよ。兄貴がいーっぱい飴買って来てくれたでしょ?めちゃくちゃお世話になってるから大丈夫。でも、ちょっと……けほっ……この家?乾燥してない?」
「え、そうか?」
麗奈に言われて一応、家の中の湿度も測ることができる温度計というものをチェックしてみるが、特に乾燥している危険性がある数字には表れていないようだ。
「今のところ大丈夫だと思うけれど……ちょっと窓でも開けるか?つか、朝飯は?」
「んー、まだ。ちょっと食欲無くて……でも、窓開けたらさ、外からウイルスが入ってくる危険性っていうのは無いの?」
「ああ、平気平気。ウイルスって空気中には存在しているものだけれど、今回流行して騒がれているようなウイルスって人の飛沫に含まれているものだから近所で咳き込んでいるような人がいない限りは大丈夫だ」
少しばかり、換気のつもりでリビングまわりの窓を開けていく。食欲が無い?……それから、さっき少しだけだけれど麗奈のヤツ咳してなかったかな?……お兄ちゃんとしては心配じゃないか!くそっ、妹が苦しんでいる……こっちは心配で鬱になりそうじゃないか!
食欲が無いって言うヤツに無理に何かを食わせる趣味は俺には無い。が、何も飲み食いさせないってわけにもいかないだろう。確か昨日……お、あったあった。コンビニでいろいろ買って来たんだった。俺はインスタントのコーヒー。そして麗奈には、お湯で溶かして飲むことができる生姜湯をカップに用意してあげた。
「ほら。これ……熱とか測ったか?念のため、測っておけよ?」
ついでに体温計も麗奈に差し出す。麗奈としては、具合が悪いってわけじゃない、って言ってはいるものの時期的にいろいろなモノが流行っていたっておかしくはないんだ。だからまずは熱を測るところからはじめるんだよ。
ふうふう、と俺が用意してやった生姜湯を冷ましながらゆっくりと口を付ける間も、何度か軽い咳のようなものを繰り返している麗奈。風邪、でも引いたんだろうか……。
ピピピッ ピピピッ
「……37.8分だって……けほっ、けほ……」
「んー、ちょいあるな。咳も出てるし……一応、それ飲んだら風邪薬も飲めよ?ウチに薬の在庫ってあったよな」
家庭用の薬入れの引き出しの中には、いざってときのためにいろいろな医薬品が並んでいる。もちろんこれらはドラッグストアに行けば簡単に購入することができてしまう類の薬だ。微熱っぽいが、咳もあるし……一般的な風邪薬でまずは様子を見てみることにするか。
「ありが……っ、けほ……けほっ……」
「おいおい。大丈夫かよ?今日は出掛ける予定とかあるのか?学校が休みだし、友達と約束でもしているなら止めとけよ?こういう軽症なときに油断していると一気に高熱出したり、症状が悪化したりするんだからな?」
一応、俺に遠慮しているらしく、咳をするときには俺とは逆方向を向いて咳をしているらしい。まあ、今は飲み物も口にしているからずっとマスクを付けているというのも難しいだろう。
きちんと風邪薬を飲んだことも確認した俺は、ようやく一息を吐いて自分用に淹れたインスタントのコーヒーに口を付けていった。じゃっかんぬるくなってしまっていたが、妹の体の方が優先だろう!REONA愛だからって家族のことを無視しているわけじゃない。妹がツラそうだったら……REONAには悪い気がするが、どっちを優先させるかって言われたら妹の世話をするだろう。
「……あれ、兄貴は何処か出掛けるの?」
飲むモノは飲んだらしい麗奈は口に喉飴を放り込むとマスクを着用していった。マスクをしていても、まだ何度か咳をしているのが分かる。この状態の妹を一人にさせるのは申し訳ない……だが、俺にもしたいことがある。まずはリモートワークだ。ちょっとした会議……というか、今日はリモートがきちんと繋がるかどうかというチェックというものをしなければならないらしい。俺は一応営業マンなんだがなぁ……それでも、今回はちょっとした確認(きちんとリモートが出来るかどうか、問題などは無いかといった確認らしい)をするだけで事は済むらしい。
「いや、取り敢えず部屋で。リモートで会議がある。会議っつっても、みんながリモートでちゃんと繋がることができているかの確認ぐらいだ。それが終わればちょっと本屋にでも行ってくる」
「本屋?」
「そそ。昨日、同期から連絡があったんだけれどさあ、声優の一人が取材を受けててそこにREONAとの関係を匂わせている記事が掲載されてあったんだと」
「そ、それだけのために……?」
「当たり前だろ。俺はREONA愛が誰よりも強いんだからな!もしそれが事実でも嘘でも、この目で確かめる必要があるんだよ」
つか、家の中がだんだん涼しくなってきたな……麗奈に一言掛けると開けていた窓を閉めてしまった。ふぅ、やっぱり外の空気って冷たくなったもんだなあ。
「REONAの関係のコメント……そんなの、あったかな……」
「お!お前も気になるか!やっぱ俺の妹じゃねえか!REONAと連絡先を交換しただとか、作品についての相談だけじゃなくて日常会話とかも連絡取り合っているとかって話だったんだよ。つか、そんな声優誰だっつの!まったく、羨ましい……」
「……えっと、出掛けるならいろいろと気を付けてよ?」
「当たり前だろ。お前は具合悪そうなんだからちゃんと自分の部屋行って寝てろよ?」
さて、まずはリモートがちゃんと繋がるか……。さすがにスーツじゃないけれど、これで大丈夫だろうか……上だけでもシャツ姿になった方が良いだろうか。でも、面倒くせぇな……ラフ過ぎない私服でじゅうぶんだろう。
自分の部屋に戻り、パソコンを起動させると会社と繋げるためのアプリを立ち上げていった。もちろんこっちには特に何の問題も無い。先にアプリを繋げていた社員と顔を合わせると簡単な挨拶と、そちらは変わったことはないですか?的な業務的な話をしていった。
それにしても……麗奈、大丈夫だろうか……日頃から健康には気を付けているタイプの麗奈だけれど、アイツが咳き込むなんて久しぶりじゃね?……熱は無さそうだからインフルエンザとかじゃないよな……まさか、どっかでウイルスでも貰ってきたんだろうか……。
お兄ちゃん優しい!ここまで優しいお兄ちゃんがいい!あ、私にもちょい歳の離れたお兄ちゃんがいたりします。……でもなあ……こんなに優しいか!?具合が悪くなれば心配してくれるんだろうか!?マジに心配してくれるお兄ちゃん(私のマジなお兄ちゃん)の姿を見てみたい!!!
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