第十六話 愛を語るのは、そこそこに鬱になりかけるので、ほどほどに
麗奈から言われた言葉に背筋がヒヤリとした。
ライブ、それはめちゃくちゃたくさんの人が集まるだろう。
そのなかで、感染したヤツがいたら?とんでもない感染が広まることになる……?
「……今のところ、REONAからはライブ中止っていう情報は流れてきていないし。た、たぶんやるだろう!」
「……わ、分かんないじゃん。そんなの……だって感染症なんだよ!?」
麗奈にしてはヤケに食いついてくる。俺が、ライブに行って、万が一感染をもらってきてしまうことを恐れているんだろうか。でも、それだけじゃあ無いような気がするんだよなあ。なんつーか、ライブそのものを心配しているっつーか……。ん?なんで、麗奈が心配する必要がある?俺が行く予定なのは声優ライブだぞ?麗奈はアニメは多少知っているぐらいの一般人だ。まあ有名な大御所の声優ぐらいは知っているかもしれないが、俺がチケットを買ったライブに出演する予定の声優は、どちらかと言えば若手。そしてここ数年のうちに人気が上がってきている声優たちばかりだ。そんな声優たちはアニメを観ていなくちゃ分からないだろう。そんな声優たちを麗奈は知っているのだろうか?
「ま、まあまあ!感染って言っても今のところは咳が酷いってことだけだろう?それに、俺は……ずっと待っていたんだよ」
「待っていた?」
「ああ。今までほとんどの情報を非公開にしていたREONAが大舞台で、その姿を大勢の人たちの前で明かす!俺はギリ高校のときぐらいにREONAを知ったんだけれどさ、初めて主役になった作品。めちゃくちゃ嬉しかったんだ。まるで自分のことみたいに。はは、俺がだぞ?俺は、精神的に脆いところがあるけれど、REONAの声を聴いているとめちゃくちゃ気合いが入るんだ。鬱になりそうになって挫けそうになってもREONAの声を聴けば一発で元気になる!それにREONAの話を持ち出すと多くの人たちが笑顔になるんだ。知り合いの医院の先生の所に、REONAが出ているアニメを観ているお子さんがいるんだけれど、それはそれは楽しそうに話すんだって。それって凄いことじゃないのか?俺がリアコ?声優とかキャラクターにマジで恋してる?はは!確かに、そうなのかもなー……もし、REONAの握手会とかが開催されればゼッテー告白するね!」
あー、やべ。めちゃちゃ語っちまったんじゃねえか?俺。これじゃあ、また麗奈に『キモイキモイ』って言われるんじゃ……とヒヤヒヤしながら麗奈の様子を伺ってみるが、俺が想像していた麗奈の反応とは違う反応が返ってきた。
「……変なの。なにそれ……」
じーっと俺の顔を見ていたかと思えば、小さく笑うだけ。あれ、いつもの『キモイキモイ』発言はどうした!?キモイオタクの兄貴を見る、あの冷たい視線は何処に行ったんだ!?
それにさっきから妙に不安に操作していたスマホは一体どうなったんだ!?
「つか、麗奈。さっきからずっとスマホと睨めっこしているよな。……どうした?学校で何かあったか?」
確か、麗奈のところも休校になるんだったか?その間の勉強は、当然、家でやるんだろうが……宿題とかってどうなるんだろうな。やっぱリモート的なヤツで授業をやったりするんだろうか?おお!すげえ、なんか現代的だな!
「それが……れ……えっと、な、なんでもない。何でもないから……」
「ん?あ。俺これからしばらく自室にこもるから。何か用事があったら言ってくれ」
「あ、うん……」
俺が自室に向かう前に、チラッと麗奈の様子を見てみたが、やっぱりスマホを手に、深刻そうな顔をしているんだよなあ。ありゃあ、何でもないって顔じゃないだろうが……まったく。変なところで強情っつーか、素直じゃないっつーか。もっと兄貴を頼ってくれても良いっつーのに。一応、これでも俺は社会人だしな!
自室の部屋の明かりと付けるとあちこちに視界に飛び込んでくるのはREONAが担当したキャラクターたちのグッズ。あー……楽園だな。むしろ、天国か、ここは!?
ぬいぐるみとして発売されているキャラクターの触り心地は……うんうん、今日も良い触り心地だ!この、ふにふに感が一度触りはじめたら止まらない!良い綿が詰められているのか、ちょっと押しても良い弾力性を持っているからすぐに形が元に戻る。まだ箱から取り出していない(飾れるスペースに空きが無いから箱から出せないだけだ!)キャラクターのフィギュアたちも綺麗なままに、きちんと保存されている。良し良し!壊れたりはしていないな!
「さて、アニメ……いやいや、その前にリモートで繋ぐって言ってたよな……パソコンのカメラの背景には……」
分かり切っているかもしれないが、俺の部屋の壁にもポスターの類があちこちに張られている。パソコンのカメラを起動したときには、必ず何かのポスターが入り込んでしまう危険性が『大』だ。
「やれやれ。……せめて、少しぐらいは外すか……」
少し、ほんの少し。カメラに入り込んでしまう一部分だけ!どうしても俺の背後に入ってきてしまうポスターだけは外さねば……くぅ~っ、いくら仕事のためとは言え、外すことを許してくれ!REONA!いつも応援している!今だって声を大にして愛を伝えたい気分だ!だけれど、ここは住宅街の一家。一応壁はあるが、大声を出せばご近所さんぐらいの耳には届いてしまうかもしれない。くそーっ、REONA大好きだからな!もちろん、REONAが担当したキャラクターたちも愛してるぞ!感染症がなんだ!少しの間だけ、外すことを許してくれ!
「リモートワーク、かぁ……。家にいながら仕事をするって変な気分になりそうだなあ……なんか、ダラけそうっていうか……これ、隣でアニメを付けて観ていたとしてもバレなさそうだよなあ……」
まあ、仕事をやるときにはきちんと仕事に集中!そして、空き時間は自由に使わせてもらうことにしよう!と念のため、パソコン周りを片付けているとスマホに通知が入った。もちろんわざわざ通知設定をしているのはREONAのSNS関係。……新たな情報でも提示されたんだろうか?もしかして、ライブのどのタイミングで登場するかとかだろうか!?
すぐにスマホをチェックしてみると、それはREONA関連の情報であることには変わりなかったのだが、ちょっと気にかかるSNSが発信されていた。
『感染の影響で、明日からのレッスンがお休みになっちゃいました……。家で発声練習するのは、ちょっとなあ……あ、でもライブは今のところ中止にはなっていないみたいです!みなさん、ライブをお楽しみに!!』
あー、やっぱ発声って毎日やっているんだなあ。一日でも欠かすと、取り戻すのに三日もかかるとかっていうヤツだろうか?REONAが発信したように、ライブが休止……とはなっていないようで安心したのだが、たまたま掲載されていた画像に目を丸くしてしまった。その画像とは……。
『いただきモノのシュークリーム!クリームが甘さ控えめでとっても美味しい!!』
シュークリームの写真。
まさか、REONAもスイーツを食べたのか?よくよく包装を目にすれば、俺がおまけで貰ってきたシュークリームの包装じゃないか!REONAもあの店に行ったのか!?まさか、俺が行った後にでも!?そんなことなら、少しぐらい近場で待機してみるんだったー……あれ、でも店員のお姉さんって、あと少しで店を閉めるって言ってなかったか?だから、おまけでくれたシュークリームは売れ残りのようなモノだ。それをわざわざREONAが買ったのか?時間、ギリギリにおとずれて……?
んん?ちょっと、待てよ。
今までREONAの声は、キャラクターっぽく作られた感じの声ではなさそうに感じていた。普通に喋っている感じの。逆に、妹の麗奈の声は低く、わざと低く喋っているような感じの声で、ちょっと女の子にしては低いと感じていた。……が、少し麗奈の音域を上げてみたら……?
あれ。
ちょっと、REONAに似てないか?……これは、俺の気のせいなんだろうか……。
おっと、いよいよ気付くかな!?
お兄ちゃん、気付いちゃう!?
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