第十一話 鬱の気分が晴れるのは愛するあの子からの発信！
やっぱ、この先輩は苦手だ……。
とにかく、他人に対しての愚痴や文句しかその口から出てこない……
はぁ～……そういうことを聞かされるだけで、こっちは鬱になるんだよ……。
「外回り、行ってきましたー！」
「た、ただいま戻りました……」
ハキハキと挨拶するのは、もちろん先輩の方。俺はと言うと、それはそれは腰を低く、少しでもハゲ上司の視界に入らないように、と挨拶をしたのだが……。
「おぉ！二人ともお疲れ様！……黒瀬くん、なんだね？その挨拶は。もっとキビキビせんか！その猫背も……キミは営業だろう？営業先でもそんな猫背でいるのではないのかね？まったく、だらしのない。だいたい、キミはだなあ……」
うぅ……なんで先輩には何の反応もしないくせに、俺にばかり絡んでくるんだよ、このハゲ上司！俺は一秒だってハゲ上司の顔なんか見たくもなんかねえんだよ！とっとと自分の席に着きたいんだよ！ハゲ上司も自分の席に戻れっつーの！だいたいハゲ上司は仕事はしていたのか！？また、デスクワークの皆さんに自分の仕事もまわしているんじゃないだろうな……。
「まあまあ、課長！黒瀬も報告しなくちゃいけないことがあるんで、そこら辺にしましょうよ～」
ちらちらとあちこちから視線を感じていたが、実際に助け船を出してくれたのは近藤だった。持つべきは、苦労を味わってきている同期ってか？くそ……でも、助かった。
ハゲ上司は、まだ何か言いたそうにしていたものの近藤に言われて自分の席に戻っていった。やれやれ……。
「……さんきゅー……」
「なんのなんの！ほら、俺と和馬って数少ない同期だろ？こういう時には助けてやらないと、な」
こそこそっと小さな声で礼を言っていると近藤は、ニカッと笑って再び自分の席へと戻って行った。そう言えば、同期……この会社もいろいろな部があるが、同期で入社した奴らはどうなっているんだろう。大多数がハゲ上司のパワハラのせいで会社を辞めてしまったと聞くが、残りは一体何をしているんだろう？俺のように営業に異動してみたり、開発部にまわってみたりしている奴らが多いらしいが、やっぱり俺のように毎日、鬱々とした気分と格闘しているのだろうか。それだったら、俺もよく分かる！分かるぞ、その気持ち！そういうときにはＲＥＯＮＡのボイスを聞かせてやるからいつでも来い！
『お疲れ様、ミッションコンプリートね！お疲れ様、ミッションコンプリートね！』
まったくだよ。
ホント、ＲＥＯＮＡの言う通り。
耳から伝わるＲＥＯＮＡのイイ声に癒されながら自分の席に着くと置かれているノートパソコンを立ち上げて、メールなどをチェックしていく。急用とか、外回りなどの関係者から何か連絡でも入っていないものか、ときちんとチェックする必要があるからだ。昼の速報のこともあったし、もしかしたら開発部とか病院関係からメールでも入っていないかと思ったけれど杞憂だったらしい。
取り敢えず報告書を……と書いているときに、たまたまスマホの方に連絡が届いた。この仕事中に連絡が入るってことはＲＥＯＮＡ関連の記事で何かあったのかもしれないな。よし、ハゲ上司は書類やら自分の席のパソコンと睨めっこしているようだし、気付かないだろう、と思いながらコソコソっとスマホをチェックする。……すると。
「な、なにぃぃぃぃ！？」
あ、やべ。
でかい声が出てしまった。想像以上に俺の声はデカかったようで、ハゲ上司はもちろんのこと、近藤だって目を丸くしている。席が近いデスクワーク組の視線も一気に集中させてしまったことに慌ててぺこぺこと頭を下げながらデスクの下……っつーか、膝辺りの位置でスマホを再度確認。すると、そこには……。
『じゃ、じゃーん！実は、今度の声優ライブに私も出演が決まってしまいましたーっ！！！』
それは、ＳＮＳ。もちろん自分のアカウントのものじゃない。ＲＥＯＮＡのモノだ。ＲＥＯＮＡは新アニメの出演だったり、〇〇役に決定しました！といった情報が解禁直後と同時にＳＮＳで発信してくれる。ＲＥＯＮＡの情報が少ないからこそ、ＲＥＯＮＡが発信してくれるＳＮＳからの情報はとても有難いものだった。だから俺はＲＥＯＮＡの発信にはすぐに気が付くように設定しているのだけれど、今回驚いたのはそんなことじゃない。
ＲＥＯＮＡがついに、人様の目に！！！
みんなの前に出てくるということ！！！
これは、大事件だ！
だって、今まで顔写真だって不明なままだったＲＥＯＮＡがライブに登場するんだぞ！？ほら、見てみろ。ＲＥＯＮＡのファンらしきアカウントたちがめちゃくちゃ騒いでいるじゃないか。
『ＲＥＯＮＡついに、そのご尊顔が！！！』
『ＲＥＯＮＡってどんな感じなんだろう？楽しみだな！』
『ぜってー行く！』
ある意味……良い意味で炎上しているな。
声優ライブと言えば、確か近々そんなイベントがあるとかないとか言っていたっけ。出演予定の声優たちは、どれもこれもが今まで主役級で世間から注目を浴びている声優ばかり。もちろんＲＥＯＮＡだって主役の座を勝ち取ったのだから注目されている声優の一人ではあるが、いかんせん、情報が少ないので……
『ＲＥＯＮＡって実在してる？』
『もしかしたらＡＩ！？』
『ＡＩ声優キターっ！！』
と一時期騒がれていたっけ。
でも、今や声優ライブって言ってもいろいろな声優があちこちでおこなっているから珍しくはなくなってきているんだよな。もちろん好きな声優が出演しているのならば一目ぐらい見てみたい！という気持ちもある。が、このＲＥＯＮＡが発信したライブっていつのどのライブのことをさすのかが分からん……。
声優ライブっていうイベントが多すぎるんだよ！
もっと貴重なイベントにしなさい！一年に、二回とか三回とかな！某夏・冬とかにおこなわれているコスプレイヤーが集まったりとかグッズ販売をおこなうイベントっぽく！そうじゃないと、どのライブに出るかが分からん！とにかくそこからはＲＥＯＮＡが出演されると思わしき声優ライブの予定表との睨めっこがはじまった、俺。報告書？そんなモンは、ものの数十秒で終わらせてやったぜ！アイツ……誰だっけ、あのジ〇リの主人公だって四十秒とかっていって一分もかからずに支度をしたじゃないか！
えーっと、一番近いところで声優がライブをする予定っていうのは……来週か。来週に差し迫っているこの時期に、いきなり出演決定！なんて情報を出すか？チケットだってもう売り切れているだろうし……コレは無いだろう。んじゃ、次はー……お、この声優ライブは世間だと人気の声優が盛りだくさんって感じだ。どいつもこいつも主役もいくつものアニメでかっさらっていったような声優ばかり。名前を聞けば、あぁ、あの声の人か！って分かるような声優ばかりだ。このライブは、今月末か……時期的に、この辺りなんじゃないか！？チケットは……まだ、有るらしい。でも、本当にこのライブに出演するのか？まだ分からん……。
せめて、せめて、もう一つ、何か情報になるような発信をしてくれＲＥＯＮＡ！情報は大切だ！情報を解禁されるまで待たなければならないっていうルールもあるって分かっている！でも、これはＲＥＯＮＡに出会う絶好のチャンスなんだ！だから、何かヒントになるような情報を……！！
とスマホを握りしめながら願っているとまたもやスマホに連絡が入った。
『さっき言いそびれてしまいました……私が出演予定のライブは、今月末の声優ライブになります！大人気の先輩たちに囲まれながら私も頑張ります！皆さん、是非来てくださいね！！』
よっしゃ、キターっ！！！
俺の予想通り、今月末のライブらしい。もちろんチケット販売画面にすぐに移ればチケットを買った。ものの数秒で。
……それにしても、いよいよっつーか、なんでいきなりライブなんだ？ライブに出るなら、もう少し情報を公開してくれたって良いんじゃないか？と考えていた、俺。へへ！あ、気持ち悪いとか言うな！すげぇ、楽しみだ！やべぇ、楽しみでライブまで眠れそうにないんだけれどーっ！！！
オタクだったらいろいろな情報を先読みすることにも長けていそう……それは、オタクだからじゃない！愛ゆえだ！！
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