第一話 鬱のクセがあるおっさんがオタクで何が悪い?
あー……朝が来た。
朝は嫌だ。
何が嫌って、これから仕事に行かなきゃならない。
仕事そのものが嫌ってわけじゃない。
俺もそれなりの歳だし、稼がないと……だから仕事は嫌いじゃない。『仕事は』!!
朝の目覚めは、俺が大好きな声優のREONAの声ではじまる。
『おはよう、朝だよ!おはよう、朝だよ!おはよう、朝だよ!』
ついつい止めずに聞き入ってしまうのは、好きゆえの行動。
ちなみに、この音声……目覚ましの音声は、公式などから発売・発表されているものではない。
REONAが今までに出演してきているアニメ(複数)から切り出した音声だ。つまり、俺のオリジナル!というものになる。
「あ~……おはよう。……だが、この声を聞いたってことはこれから朝か……朝が鬱だ……」
朝に、好きな声優の声が聞こえるなんて幸せ!と思うかもしれないが、俺にとっては朝がはじまったこと=憂鬱でしかない。ならなぜ朝にこんな音声が掛かるようにセットしているのかというと、せめてこれからはじまる仕事という憂鬱な時間に少しでも気合いを入れるためだ。
当然、仕事にこれから向かわなければならない。
何度、世のニートたち、フリーターたちを恨みがましく思ったことか……!
だが、よく考えてみろ。
ニートやらフリーターにでもなってみろ。
自由に使える金が少ない!
俺の部屋を見まわしてみるがいい!
俺の部屋には、声優のREONAが担当したアニメキャラクターたちのグッズが所狭しと並んでいる。(じゃっかん並べるところがなくて箱に入れた状態のまま積み上げられているものもあったりするが……)自由に使える金が無いってことは、これらも集めることができない!そして、これからもREONAが担当したキャラクターグッズを購入することができないじゃないか!それは、嫌だ!絶対に嫌だ!
金と自由の身……必要になるのは、どっちだ!?そう考えたときに、俺は迷うことなく『金』と答える自信がある。そのため、どんなに面倒な上司がいようが、扱いがめんどうくさい先輩がいようが、耐えなければならないのだ。そう、全ては『金』のためだ!
幸い、俺はまだ恵まれているのかもしれない。
安いアパートに暮らしてもっと通勤時間を短縮させるという手も考えたことはあったが、その分……金は家賃に消えていく。その家賃分の金があれば、どれだけのキャラクターグッズが買えると思っているんだ!?と、考えたので俺は多少通勤時間はかかるが、実家暮らしをして実家から会社に通っている。だらしない?その歳にもなって一人暮らしもしていないの?と呆れるか?バカにするか?ふんっ、ワケも分からんヤツらにバカにされようが呆れられようが痛くも痒くもないってことよ!
だいたい、俺は実家に世話になっている分、毎月生活費だけはきちんと渡している。それは当たり前だからな。だからせめて実家暮らしをすることぐらいは許してくれ!!
俺の部屋は母親にも父親にも見られている。『アンタいい歳にもなって……』ってそれ失礼過ぎるだろう!それはつまりアニメ……もとい二次元関係で働いている人たちを冒涜したも同然じゃないか!だいたい好きなものを好きと言っていい時代になっているのだから、好きなモノで部屋を埋め尽くしたっていいだろう!
つまり、俺は俺の趣味を満喫しているということ。誰にも文句なんか言われたって平気だってことだ。オタクだと?はは、オタク上等だ!むしろREONAへの愛が一途ってことじゃないか!この一途な愛をREONAに直接ぶつけてやりたいぐらいだっての!だが、俺とREONAの間には目には見えない壁というものが高々と立ちふさがっているのだ。愛を伝えようにもその手段がない!なんて、手厳しい世界なんだ、声優界!
俺がここまで熱を上げているREONAという声優は、数年ほど前にデビューした子だ。たぶん、というかおそらくまだ若い。その、『たぶん』とか『おそらく』っていうのはきちんとした理由がある。実はこのREONAという声優。公に出している情報がとても少ない。女の子だし、聞かれたくない情報っていうのはいろいろあると思うのだが、このREONAは出身はもちろんのこと、年齢や誕生日、血液型から顔写真にいたるまで何一つ公式から発表されていないのだ。
最近、AIも発達してきているし、もしかしたら実在しない声優なのか?とうとうAIが声優をはじめたのか?とも思ったのだが、REONAのアニメの演技をきちんと聞いてみろ!これがAIにできるか!?できない!まだまだそこまでAIは発達していないはずだ!なので、AI説はそうそうにぶっ壊した。何か、情報を公に出せない理由でもあるのだろうか。まさか、性別が『男』っていうオチでもあるのだろうか。しかし、一応性別は『女』だってことは分かっている。いつかのアニメ情報誌にREONAがインタビューされていた記事が掲載されていたことがあった。もちろん顔写真などは一切無し。REONAが担当したキャラクター写真がデカデカと掲載されている記事だ。そこにはREONAの家族についてのインタビューがあったのだ。そこには、確か……『少し歳の離れたお兄ちゃんがいて、いつも迷惑を掛けてしまっているかもしれませんが、お兄ちゃんのことが大好きな妹です』といった文面があったはず!これを見るに性別が『男』であるはずがない。確実に『女』だ。まさか『男の娘』ってわけじゃないよな?さすがにそこまで……いやいや、ないだろう。
「はぁー……くっそ、怠いけれど……行ってくるか……」
まさにこの部屋は楽園だ。常にREONAが担当したキャラクターの誰かと目が合う。怖い?そんなことないだろう。キャラクター愛が通じる人からすれば幸せな部屋に違いない。だから、楽園。ま、まあたまに念入りに掃除をしてあげないと所々に埃がたまっているので特にぬいぐるみの類には埃が被ったら可哀想だもんな……今度、洗濯してあげよう。そして、部屋も隅から隅まで掃除機をかけてあげよう……と思いつつ、なかなか休みが取れないものだから掃除らしい掃除もまともにできていない今日この頃。
お。
珍しいものを見た。
デカいテレビが置かれているリビングに顔を出すと、ソファーに座ってくつろいでいる妹の姿があった。今日は学校は?もしかして休みなのか?羨ましい!一日ぐらい俺と立場を変わってくれ!ここのテレビでREONAが出演しているアニメを爆音で観られたらどんなに楽しいか……!次のボーナスが出た後は金を貯めて貯めて貯めまくってデカいテレビを自分の部屋に置きたいと考えている。しかし、デカいテレビを置くだけのスペースが無いのが実情。
「おはよう、麗奈。学校どうした?まだ行かないのか?」
「んー、まだね。……ってか、兄貴……昨日また遅くまでアニメ観てなかった?いい加減、そろそろキモイよ」
「うるせー!いいんだよ!趣味を大切にしているんだ、俺は!」
専門学校だかに通っているらしい妹、麗奈。
部屋は当然、俺の隣。なので、俺が自室でテレビだのパソコンだの、スマホだので動画やらアニメやらを観ていると妹にはすぐに分かってしまうらしい。もしかして、ウチって壁薄いのか?それ、いろいろと問題があるだろう!
そして、きちんと会話はしてくれるが悲しいかな……その会話には必ず『キモイ』の三文字が。オタクの兄ちゃんがそんなにキモイのか!?そんなに嫌なのか!?お前には関係ないだろうが!
食卓に用意されていたパンだけを早々と口に放り込んで、コーヒーで流し込む。これぐらいで良いんだよ、朝食なんて。ウチは母親も父親も朝が早い。えーっと……父親は警察の方の学校で。母親は今何をしていたんだったか?看護だか介護だかの仕事をしていたはずだ。そして、俺は……営業(医薬品)で働いている。
「い、行ってきます……」
「行ってらっしゃ~い」
一応、コミュニケーションは出来ているのだが、もう少し……優しくならんもんなのか?妹って兄貴に対してこんな素っ気無いものなのか?妹になったことが無いから分からんけれども!もうちょっと『気を付けてね』とか、もう一言あっても良いんじゃないかと思う!
そしてその足りない部分は、REONAの俺作成オリジナル音声で補っていくのだ。
『今日も頑張ってね!今日も頑張ってね!今日も頑張ってね!』
はぁ~……声優(REONA)最高……。
最初に男主人公にした作品は何がいいだろうか……と考えたときに、閃いたのがこの作品案でした。
めちゃくちゃオタク。しかも、とある声優の一人にめちゃくちゃ萌えなんてレベルではなく、愛を向けているオタク!給料はほとんどキャラクターグッズへ!つまり、REONAへの愛と化しているのです!
え、まーた変なタイトルの作品ですと!?いやいや、その方がなんとなく面白そうじゃないですか。実際、今回の主人公も鬱鬱言いながら内心ではいろいろなことをぼやいているような男なのです。口には出さないものの心の中ではあれこれ文句を言いっぱなしの男です。あ、おっさんです。でも、……楽しんでください!!
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