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7.騎士団寮で働くことになりました

 

 おおっと赤茶色の髪と茶の瞳の騎士が声を上げた。


「えっと……」


 フェリクス様に言えということは、ひとまず働くことは認められたということでいいのだろうか?


 戸惑いながらフェリクス様を見ると、彼は安堵したように柔らかく笑っていた。

 自信があると言っていたけれどやはり心配だったようだ。


「認めてもらえたようだね」

「その、本当に?」


 そうかなとは思うのだけど、互いに名乗ることもなく部屋を出て行かれたので不安だ。


「そうだよ。五メートル。まずここをクリアできる人物は限られている」


 確かに五メートルほどあいているとは思ってはいたけれど、それはどう受け取っていいのだろうか。

 合格ならそれでいいと思うべきか。

 総長に関しては事情があるようなことも言っていたし、働くか働かないかわからない者に大事な人の事情を話すことはないだろうから深く追及しなかったけれどやっぱり気になる。


 気になるけれど、意図はわからないが気分など気遣われたことや、その後にほっと息をついたのが印象的だったので今はそれで十分だとも思った。

 フェリクス様に話を聞いた時は女性嫌いなのかとも思ったけれどそういう感じでもなく、性別だけで私を避けるというよりはやはり何か事情がある、そう感じた。


 視線や行動などは冷たく感じるけれどそれも事情とやらに関係しているかもしれないし、畏怖の念は抱くけれど兄や伯爵夫人に対峙したときのように危害を加えられるかもといった怖さを感じなかった。


 いまいちしっくりこなかったけれど、拒絶されたわけではないのならそれでいい。

 ひとまず働き口ができたことは喜ばしいことだと私は気持ちを切り替えた。


「そうなのですね。良かったです。その、これからよろしくお願いします」

「うんうん。よろしくね」


 私が頭を下げると、そこでアーノルド団長たちが声を上げた。


「フェリクス。よく見つけたな」

「よくやった」

「奇跡だよね」


 三人がやたらと盛り上がり、テンションが高いまま話しかけられそれぞれの紹介を受け、互いに名乗り合う。

 一通りの挨拶が終わると、セルヒオ・ジャンベールと紹介を受けた赤茶色の髪の騎士が再び声を上げた。


「本当にすごいな。無理している様子もなかったしこれは期待できるよ」


 彼はここにいる騎士の中で一番背が低く小柄だ。

 それでも私よりも高いけれど、他の騎士はもっと背が高いので目線が近いというだけでちょこっと安心を覚える騎士だ。


 総長が去って感心したような声を発していたのも彼だ。

 真面目くさった顔でフェリクス様に声をかけたセルヒオ様は、そこできらきらした眼差しを向けて私を見た。


「俺はものすごーく感動している。ミザリアは救世主だ」


 人好きのする笑顔を浮かべながら、私の手を両手で掴みぶんぶんと振ってくる。

 その際に「小さな手だな」と感想を述べ、いきなりの距離感に戸惑う私を見ると相好を崩した。


「困ったことがあったらなんでも聞いて。この寮では俺が一番下っ端だし教えられることは多いと思うよ」

「ありがとうございます。よろしくお願いします。セルヒオ様」


 歓迎ぶりに、私は戸惑いながらゆっくりと微笑んだ。

 総長の態度は微妙であったし喜んでもらえるほど自分に価値があるのかわからないけれど、ここにいることを望まれているのだと思うと嬉しい。


「うわぁ、めっちゃいい子。俺たちに必要だったのは香水の匂いをぷんぷんさせながらしなを作る女性ではなくて、ほんわかと癒やされるミザリアみたいな子だったんだ。ああー、やっとこの問題も落ち着けそう」

「セルヒオ、彼女が戸惑っている」

「えぇー。この感動を伝えようと思っただけなのに」


 黒髪黒目のレイカディオン・ポワブール副団長が端的に嗜める。

 この中で一番がたいがよく身長は百九十センチを超えているのではないだろうか。


 そうなの? とセルヒオ様に確認するように覗かれて、私が苦笑すると「そっか」と彼は私の手を離したけれど嬉しそうな顔はそのままだ。

 フェリクス様から大変だったことは聞いていたけれど、ついつい初対面の私にも愚痴をこぼしてしまうくらい彼らにとっては頭の痛い問題だったのだろう。


「ミザリア、こっちにおいで」


 そこでアーノルド団長が私をちょいちょいと手招きしてくるので、おずおずと近寄るとぽんぽんと頭を撫でられた。

 大きな手のひらは硬いけれど、そっと優しく置かれた感触は見かけたことのある父と子の触れ合いにも似ていて、ふよっと口元が緩みそうになったので慌てて手をぎゅっと握りしめる。

 すると、ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜられた。


「ああ~。セルヒオの言いたいこともわかるな」

「でしょ?」

「まあなぁ。フェリクスが連れ帰ってきたのも理解できた。これまで大変だったからな」


 はあっと大きな溜め息とともに、第一騎士団長までもがはっきり困っていたと述べた。

 これまでの苦労が彼らの態度だけでひしひしと伝わってくる。


 とにかく騎士たちの邪魔をせず長く家政婦業ができることを目標に頑張ろうと思う。

 それから彼らと夕食をとりながら話をしていたのだけど、ここ数日の疲れと安心からか何度もあくびをかみ殺していたらフェリクス様が切り上げるように声をかけてくれた。


「ここ数日いろいろあって大変だったよね。続きは明日にしよう」

「はい。あの……」


 とんとん拍子でまだ実感がわかないけれど、ここがこれから私の居場所になる。

 私は深々と騎士たちに頭を下げた。


「慣れないことも多くご迷惑をおかけすることもあると思いますが、精一杯頑張りますのでこれからよろしくお願いします」

「無理をしないようにね。おやすみ」

「はい。……おやすみなさい」


 数年ぶりのおやすみという挨拶にちょっとまごつきながら返す。


「ミザリア、おやすみ。しっかり休んでね」

「体力は大事だ」

「そうだ。身体は資本だからな。ゆっくり休みなさい。むしろ寝坊を推奨する」


 次々と声をかけられ大きく頷き、私は部屋を後にした。

 こうして屋敷を追い出されてからすぐ、幸運なことに騎士団寮で働くことになったのだった。




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