60話 クマ子(魂:アーノ大尉)になるまで(後編)
「ハァハァ…女神様!アーノ大尉、いいえ、リリカさんをお連れして来ました!」
『ご苦労様でした。メアさん。お久しぶりですね。リリカさん。』
「・・・・お久しぶりです、女神様…」
アーノ大尉はうつむいて挨拶をした。
『あなたがそのような態度になるのも、仕方のないことです。私を恨んでいるでしょうから。』
「恨んではいません…そもそも私が禁書を唱えたのが原因で…」
『あの時、もっと処罰を軽くすべきでした。あなたはただ純粋に愛する人を生き返らせたかっただけだったのに。』
「もういいんです…どう繕っても私は罪人…きっと萌子には二度と…」
「リリカさん…」
『そのことであなたに会わせたい人がいるのです。』
「会わせたい人ですか…?」
《リリカさん。》
「その声はまさか…?」
アーノ大尉が振り向くと、萌子の姿があった。
「萌子…なの…?」
『そうです!ずっとずっと会いたかった!』
泣きながら抱きついた。
「そんな…私、あなたに会えるなんて…夢にも思ってなかった…」
『私だって思ってませんでしたよ…本当に嬉しい…』
「萌子…萌子…うぐっ…うぐっ…」
アーノ大尉も嬉しさのあまり号泣した。
『私の思った通り、素敵な方でしたね…』
「そんなことないわ…私は罪を犯し、天界を追われ、地上であろうことにもあなたを殺した魔族の部下になった愚か者だもの…」
『嘘なことぐらい知ってますよ。全て私のためにしてくれたんですよね。』
「萌子…」
『女神様には感謝しなくてはなりませんね。私達がこうして会うことが出来たのは、閻魔大王様にお願いしてくれたからなんですから。』
「そうだったんですか…?女神様…?」
『少しの間だけしか会わせてあげられなくて、申し訳ないのですが。』
「ありがとうございます…会えただけで…私は…」
「そろそろお時間ですわ。萌子さん。行きましょう。」
『はい。』
「萌子!」
『それじゃあ。リリカさん。天国で待ってますから。』
「きっと天国には…」
『きっとリリカさんなら天国に来れますよ。』
「萌子…」
『それじゃあ。』
萌子は涙を拭い笑顔で呟いたら、エイラが同行して天国に戻って行った。
『安心してください。私も過去の事を考慮して、あなたが天国に行けるように閻魔大王様を説得するので…』
「いいんです。天国には行きません。」
«えっ!?»
「天国に行きたくはないのですか!萌子さんが待ってるんですよ!」
「私は地上でザクロ大佐に従うフリとはいえ、罪もない人間、モンスター達を数え切れないほど殺してしまいました…そんな大罪人の私が天国に行くことは許されないです…自分でも自分のことを許せません…」
「そっそんな…」
「あなたはとても優しい人ですね…まるでユリさんみたいです…」
アーノ大尉は涙を浮かべた。
「リリカさん…」
『本当によいのですか?』
「ええ。私がここに来たのはユリさんを救うためです。それで一体、何をすればいいのですか?」
『私の透視能力で一瞬だけ見えたのですが、どうやら優梨さんのお仲間のクマ耳の女の子がザクロ大佐の罠によって、人質となり気絶しながら、鳥籠の檻に閉じ込められているようなのです。』
「ベアー中尉が人質に…?」
『それが優梨さん達の戦いを不利にするのは間違いありません。なので今からあなたには魂になってもらい、異世界に転送します。そして気絶しているクマ耳の女の子の肉体に一時的に憑依してもらって、あなたの空間移動の術で檻から脱出して欲しいのです。お願い出来ますか?』
「わかりました。まだ私にはザクロ大佐に与えられた邪悪な力が残っています。
ザクロ大佐の作り出した空間にも侵入することが出来るはずです。」
『ええ。仰る通りです。ですが実際に試したわけじゃありません。あくまで仮説でもし失敗したら、あなたは魂ごと消えるかもしれません。その覚悟はありますか?』
「今さらそんなこと恐れません。ユリさんは私を救ってくれた人、彼女のためになら何だってやります。」
「リリカさん…」
『それともう一つ。あなたにはしてもらいたいことがあります。』
「何でしょうか?」
『目をつぶってください。』
「はい。」
『この者に神の御加護を…』
アーノ大尉は光を放っていた。
「この力は懐かしい…天使の力…」
『その力を使い、空間を中和してもらいたいのです。それが出来れば私達、天界側から再び救世主の優梨さんに力を与える事が出来るはずですから。』
「わかりました。」
『ではいきますよ。』
「はい、いつでも。」
するとアーノ大尉は一瞬で姿を消した。
「どうなったのでしょうか?」
『憑依に成功したようです。檻を爆破される所だったようですが、間一髪で脱出した姿が見えました。』
「よかった…」
『元守護天使として優秀だったリリカさんならきっと空間のバリアも中和してくれるはずです。
あなたはすぐにアイルのもとに戻ってあげてください。』
「ええ!今すぐに戻ります!」
『頼みましたよ。』
「女神様!ありがとうございました!」
メアは笑顔で頭を下げると、急いでアイルの部屋に戻っていた。
『リリカさん。あなたはわるいひとじゃありませんよ…真に罪を背をわなければならないのは…』
女神様はどこか寂しげな表情で微笑んだ。




