52話 優梨vsザクロ大佐の部下(五階編③)
「間違いない…優梨さんを包む光、一段階、輝きが増した気がする…スキルの覚醒が近い証拠だ…」
アイルは疲労しているのか、額に汗をかきながら、優梨の姿を見て喜んだ…
「私の予想を遥かに超えた成長を見せてくれてる…優梨さんは救世主になるべくしてなった人間だったんだ…」
そして当の本人、優梨はというと…
「戦いを再開する前に話の続きを聞かせて?」
「わかりました。あなたは話すに値する実力者だと認めましょう。」
「認めてくれたんだね…」
「長くなりますよ、よろしいんですか?」
「ちゃんと聞くから…」
「ではお話致します。今から約100年ほど前、守護7大天使の中でも優秀だった私は"ある大役"を女神様から与えられました。」
「ある大役…?」
「それはこの異世界を救うべく、別の世界から救世主の素質を持つ人間を召喚すること。」
「えっ!?100年前にも私と同じく召喚された人間が居たの!?」
「ええ、あなたからすれば大先輩ですね…
当時、私が選んだのは15歳の少女、名は春風萌子。」
「私と同い年の女の子…?そこまで似てるなんて…?」
【守護天使…女神…召喚…?奴らは一体、何の話をしているのだ…?】
その会話を聞いていたザクロ大佐は困惑していた。
「彼女はあなたと同じで救世主の素質が高い少女でした。でも性格は大人しく怖がりで泣き虫で、最初、なぜこの子が素質が高いのか、選んでおきながら、理解できませんでした。」
「厳しいね…?」
「でもサポートを始めて気づいたのです。彼女は本気で異世界を救いたいと使命感を持っていて、誰かが悲しくて泣いていたら、自分のことのように一緒に泣くほど優しいと。」
「もしかして、あなた、その子のことを…?」
「はい。愛していました。」
「答えてくれるんだ…?」
「隠す必要もありませんから。」
「だからスキルが百合って言っても驚かなかったんだね…?」
「ええ。そしてサポート開始してから半年後、私は彼女にこの想いを伝えていました。」
「それでどうなったの…?」
「あの子は泣きながら喜んでくれました…私達は両想いだったんです。」
「なんか胸が熱くなるものがあるな…」
「今でもあの時にしたあの子との会話は一言一句忘れずに思い出せます。」
−アーノ大尉の記憶−
『ごめんなさいね…いきなりこんなこと言われても困るだけよね…?』
『私もです…』
『えっ…?』
そこには笑顔で涙を流す萌子の姿があった。
『私もリリカさんのことが好きだったんです…』
『本当なの…?私はあなたの姿を見れるけど…あなたは私の声しか…?」
「姿なんて見えなくても…私が挫けそうになった時や悲しい時、慰めたり、励ましてくれた…その声がずっと愛しかったんです。」
『じゃあ…私達…両想いだったのね…?』
『だったみたいですね…』
『嬉しい…会えるものなら…今すぐ会いたい…』
『本音を言えば、私もです…リリカさん…』
『リリカって呼んで…その方が特別な関係だってなるでしょう…?』
『緊張しますね…でもわかりました…リ…リリカ…?』
『ありがとう…萌子…』
『えへへ…』
「まだ消えずにちゃんとここに…」
アーノ大尉は自分の胸に手を当てた。
「それほど愛していたんだね…」
「ですが…それから数日後、悲しい運命が待っていたんです…」
「悲しい運命…?」
「萌子が魔族に殺されたのです…」
「魔族に殺された…?」
「彼女は決して弱くはなかった…魔族があまりにも強すぎたのです…
私のサポートなど何の役にも立ちませんでした…」
「そうだったんだ…」
「私が異世界に召喚しなければ、彼女は死なずに済んだ…後悔に耐えきれなくなった私は天界で一番犯してはならない罪を犯しました…」
「それって…生き返らせること…?」
「やはり知っていましたか…」
「うん…いちようね…?」
「女神様しか唱えてはならない禁術、リバイブ…それを神殿に封印されていた術式が記された禁書を盗み、私は唱えたのです…」
「禁書を…萌子さんは生き返ったの…?」
「駄目でした…女神様のような強大な力を持たない者が唱えても、術はちゃんと発動しないのです…」
「そっそんな…」
「しかし禁書を唱えたことは事実…女神様にそのことをすぐに見破られ、私は罪人として…天使の力を奪われた堕天使となり…この異世界に追放されたのです…」
「この異世界に…」
「すべてを失った私は憎しみで怒り狂いました…そして決めました…私から大事な人を奪った奴を殺してみせると…」
「それって…」
「だからザクロ大佐の部下になったのですよ。」
「じゃあ…あなたが殺したい相手って…?」
(優梨さん!話の邪魔をしたくなくて、黙っていましたが、これ以上の詮索は危険です!聞くことは聞いたんです!ここからは戦いに集中してください!)
(でっでも…)
「そんな顔しないでください?これから私達は殺し合うですから。」
「それが正解なのかな…」
「どういう意味です?」
「あなたが愛した萌子さんはきっとこんなこと望んでないよ…」
「今なんて?」
「えっ…?」
優梨はゾクッとするほどの殺意を感じた。
「あなたに何がわかるのですか?」
「わかるよ…私が萌子さんだったら、そう思うと思うから…」
「あなたと萌子を…一緒にしないで!!」
(今までと目つきが変わった!?)
(これでわかりましたよね!話し合いでどうにかなるはずがないんです!アーノ大尉は敵です!)
「ハァハァ…あなたが萌子のはずかない…
救世主だからって…何でもわかった気になるな…」
「もう戦いは避けられないんだね…?」
「当たり前です…私達は敵ですよ…?戦いを再開して、いいですね…?」
「やるしかないね…」
「それでいいんです…」
(優梨さん、戦えますか…?)
(戦う、私、今、やっとわかったんだ…)
(何をですか…?)
(私、アーノ大尉を救いたい!)
(救う…?どうやってですか…?)
(それはね…)
優梨は考えを伝えた。
(一世一代の賭けですね…)
(賛成してくれない…?)
(いえ、話を聞いて、本当は私も救ってあげたいと思いました。全力でサポートしますよ。)
(ありがとう…)
「しかし、このままでは私がどんなに本気を出しても… あなたに勝てないかもしれない…あれを使いましょう…」
アーノ大尉はドレスの中から、例の赤い石を取り出して手に持った。
「それは何…?」
「赤魔石というものです…これを使えば私はさらに強くなれる…」
「そうなんだ…?」
(赤魔石って…?)
(わかりません…?初めて聞きました…?)
(アイルちゃんが知らない謎の石か…)
「卑怯だと思いますか…?」
「それは思わないよ。」
「では遠慮しなくていいですね…」
そして強く念じ始めた。
【我に力を与えよ…赤魔石…】
するとその瞬間、アーノ大尉の鼓動がドクンドクンッと痛いほど高鳴った!
「ぐっぐっ…ウワァァァ!!」
「ぐわっ!!」
奇声をあげながら、とつもない突風を放った!
「これは私でもわかる…とんでもない力だ…」
「フッフ、素晴らしい… 力がどんどん溢れてくる…」
アーノ大尉の身体中に紋章みたいなものが現れていた。
「紋章が出る系か…あなたの体に負担ありそうだね…?」
「関係がありますか…?」
「あなたが心配なんだよ…?」
「殺し合う相手を心配するとはどれだけなめているんですか!いい加減にしてください!」
(来ますよ!)
(必ずアーノ大尉を救ってみせる!)




