51話 優梨vsザクロ大佐の部下(五階編➁)
「そっそんな…?アーノ大尉の正体が私達の遠い大先輩だったなんて…?」
「私も信じられませんでした…」
アイルはメアに聞いた内容を話した。
「どうして魔族の部下なんかに…?」
「それはまだ聞かせてくれてません、ユリさんの実力を認めたら話すと言ってました…」
「謎が多すぎるね…」
「女神様にこの事態を伝えた方がいいと思うのですが…戦いが始まろうとしているのにサポートを中断するわけにはいきません…どうしたら…」
「私が行ってくるよ!」
「いいんですか?」
「任せて。」
「ありがとうございます。助かります。」
「そのかわり…無茶だけはしないでね…?」
「もしかしてスキルのことを…?」
「うん…聞いた…」
「安心してください。女神様との約束は守りますから。」
「絶対だよ…?」
「ええ。」
「じゃあ、行ってくるね…」
(アイルちゃんのことだ…ああは言っても、優梨さんがピンチになったら…)
メアは不安になりながらも部屋を出て、神殿へ急いで向かった。
「では戦いを始めましょうか?」
アーノ大尉は黒い剣を生成した。
「そうしようか、エンジェル・ソード!」
優梨も光の剣を出した。
「行きますよ!」
それからどちらも決して退かない、目にも止まらない速さの切り合いが始まった!
「速すぎて、目が追いつけないべ!」
「アタシはギリギリ見える…」
「やはりやりますね?この速度についてこれるとは。」
「実力は認めてくれた?」
「まだまだ。今はほんの小手調べのつもりですよ。」
「言うと思った。だったら!」
優梨はさらに動きを速くした。
「ほう。」
「もらった!」
そしてアーノ大尉の剣をふっ飛ばした!
「やったぞ!あいつが速さを上回った!」
「今の動きはアタシでも見えなかった!」
「どう?これでも話すに値しない?」
「速さは申し分ない。ですが、まだあなたの実力を認めてはいませんよ。」
「意外と強情だね?」
「ここからは少し本気になりましょう。」
アーノ大尉が指を鳴らすと、優梨の目の前の地面にグワッと黒い影が現れた。
「なっ何、この影!?」
(警戒してください!)
「シャドウ・ハンド。」
実体となった影が手の形になって、優梨に襲ってきた!
「わっ!?」
目と鼻の先まで来たが、何とか躱した!
「それで躱したつもりですか?」
「えっ!ぐわぁっ!」
影はUターンして、背中を強く殴った!
「何だべ…あのでたらめな攻撃は…?」
「影が実体を持って、自由自在に動き回るなんて…?」
「痛たた…」
(大丈夫ですか!)
(これぐらいは平気だよ…)
「これが私がザクロ大佐の部下になって引き出した潜在能力、影を操る力。」
「影を操る力か…」
(だから影を作りやすくするために壁が置いてあったんですね…?)
(なっなるほど…)
「無尽蔵に作れる上に、形をいくらでも変えられて、壊されてもすぐに再生出来る。これほど便利な能力もありません。」
「影だもんね…?」
「どうです。絶望しましたか?」
「全然…」
「じゃあ、これならばどうです?」
優梨の周りにさっきと同じ実体を持った影の手が次々に現れた!
「やばい…囲まれた…」
「これだけの数を相手にどれだけ耐えられますかね?」
(どっどうしたら…?)
(空中に逃げてください!)
(そうか、飛べばいいんだ!)
羽をはためかせて飛ぼうとした!しかし!
(あれっ!飛べない!)
(足元を見てください!)
(これって!?)
両足を黒い影が縛り付けていた!
「空中に逃げようとしたのでしょうが、させませんよ?」
「いつの間に…?」
「やりなさい、シャドウ・バラージ。」
一斉に襲いかかってきた!
「やるしかない!」
優梨は必死に光の剣で、襲いかかる影を斬り続けた!
「数を増やしましょう。」
影の数がさらに増えた!
「これ以上は防ぎきれない!グハァッ!!」
(ユリさん!!)
「ユリ!!」
「ユリちゃん!!」
優梨は腹部に強く打撃を当てられてから、完全に体制を崩し、攻撃をほとんど受けた!
「ガハァッ…ゴハァッ…」
そして傷だらけになった優梨は膝をついて血を吐いた。
(しっかりしてください!!)
(ねっねぇ…この天使の姿をしてる間は…魔の者の攻撃に耐えられるんじゃなかったの…?)
(ええ…そのはずなんですが…)
「いくら連続で攻撃を受けたからといって、魔の者の攻撃がこれほど通じるのはおかしいと思ってませんか?」
「お見通しなんだね…」
「言いましたよね?私は魔物じゃなく、堕天使だと。だから攻撃が通じるわけです。」
「なっなるほどね…」
「もう限界のご様子、立ち上がる気力もないのでは?」
「そこまで見破られてたんだね…」
(赤魔石を使うほどでもなかったか。)
「もういい、降参して!!」
「今回ばかりは賛成だ!その状態じゃおまえに勝ち目はないべ!」
「でっでも…」
「この戦いでは降参は認めません。」
«えっ!?»
「何だと!?」
「そんなの聞いてないべ!」
「伝え忘れてましたよ。」
「ふざけるな!!」
「助けに行くべ!」
「待って…」
「それをさせるとでも?」
«きゃっ!!»
来ようとした二人を後ろから現れた黒い影のロープが縛り付けた。
「なんだ、これ!?」
「まさか、バインド系の術…?」
「御名答です。それはシャドウ・バインド。身動きを封じる術です。」
「こんなの力づくで外すまでだべ!!」
「アタシだって!!」
「うるさいですね、黙っててもらいましょうか?」
«きゃぁぁ!!»
「アリスちゃん、クマ子ちゃん!!」
影のロープから電撃が流れて、二人を痺れさせた!
「こんなの…ありかよ…」
「ごめん…ユリちゃん…」
二人は気絶した。
「また目覚められて騒がれても面倒です。
このまま殺してしまいましょう。」
「させない!!」
必死に飛びかかったが躱された。
「自分の無力さを味わいながら、あなたの大切な方が殺されるのを見るといいです。あの時の私のように…シャドウ・サイス。」
容赦なく影の大鎌が二人に襲いかかった!
「やめてぇー!!」
"空間移動!!"
「何!?」
「えっ…?」
斬られる寸前で二人の姿が消えた!
「二人はどこに…?」
(入口の扉の前に居ますよ…)
すると扉に寄りかかる二人の姿が見えた。
(本当だ…無事みたい…)
(何とか間に合いましたよ…)
(もしかしてアイルちゃんが助けてくれたの…?)
(はい…新しく手に入れたスキルを使いました…)
(ありがとう…私、もう駄目だと本気で思ったから…)
(安心するのはまだ早いです…戦いはまだ続いてるんですから…)
(そうだね…)
「正直、驚きましたよ…まさかあなたが私と同じ空間移動が使えたとは…それとも天使さんの仕業ですか?」
「許さない…」
「おや、立ち上がりますか?」
「アリスちゃんとクマ子ちゃんを傷つけたね…?」
「それが?」
「絶対に許さない!!」
優梨が眩しい光を放った!
「ぐっ!一体、何が起きて!」
(この力は!)
すると体の傷がまるでなかったように癒え、表情に覇気が戻った。
「これほどの奇跡を起こせるなんて、あなたは救世主としてどんなスキルを与えられたんですか…?」
「百合を感じたら、強くなる能力だよ。」
「百合で…なるほど、あの二人への強い想いでスキルがさらに発揮されたわけですか…」
「アリスちゃんとクマ子ちゃんのダメージ分は必ずあなたに与えてみせるから。」
「いいでしょう。それでなくては面白くありませんから。
こちらも本気でやる必要がありますね。」




