50話 優梨vsザクロ大佐の部下(五階編①)
扉を開けると、闘技場の中は壁や床が白に統一されていて、大きな板があちらこちらに置いてあった。
「また不思議な場所だね…」
「この板は一体、何のためにあるんだべ?」
「ここに奴が…」
「ようこそ、お待ちしておりましたよ。」
«えっ!?»
突然、三人の目の前にお面をつけた見覚えのある人物が現れた。
「どこから現れたの…?」
「足音一つしなかったぞ…?」
「やっと会えたな?」
「おやおや、その割には嬉しそうじゃありませんね?」
「おまえがお姉ちゃんにやりやがったこと、忘れたとは言わせねぇからな!」
「あなたのお姉さんが悪いんですよ?私はお話に来ただけだと丁寧に説明したのに、妹に手を出すなと追っ払おうとしてきたものですから、それで厄介だったので眠らせただけですよ。正当防衛のようなものです。」
「なんだと…てめぇ…」
「おめえさんの喋り方はいちいち腹立つな?」
「ベアー中尉、あなたにだけは言われたくありませんね?
命乞いなのかわかりませんが、敵に寝返った分際のくせに。」
「命乞いなんかじゃねぇべ!オラが望んでユリをご主人に選んだんだ!」
「落ち着いて、クマ子ちゃん?」
「だってよ!」
「あなたは本当に色んな人から愛されているようですね…まるであの子みたい…」
「あの子…?」
「一つ伝え忘れていましたが、私が眠らせた人間はそう簡単には起きず、その間、悪夢を見ることになります。」
«えっ!?»
「なので今頃、あの女の方は悪夢でうなされているはずです。」
その頃、ミーナはというとアーノ大尉の言う通り、まだ目覚めず、悪夢にうなされていた。
「ゔうっ、ゔうっ…ア…アリス、来ちゃだめ…
私を置いて…逃げて…殺され…ちゃう…」
それをソフィーが手を握って見守っていた。
「ミーナちゃんのこんなに怯えた表情初めて見た…
よほど怖い夢を見ているのね…」
「アリス…アリス…」
「お願い、早く目覚めて…」
そして場面が戻る。
「相手が一番見たくない悪夢を見る。きっと10年前に我々が街を襲撃した事でも思い出しているのでは?」
「絶対に殺してやる!!」
アリスは怒りが頂点に達したのか、全身に青い炎のオーラを纏った。
「最初から本気モードになってるぞ!」
「それだけ怒って当然だと思う…私だって…」
「おまえ…」
「残念ですが、あなたとは戦いません。」
「何!」
「私が戦いたいのはそこのあなたです。」
アーノ大尉は優梨を指した。
「私…?」
「なっ何でだ!アタシと戦え!」
「これはザクロ大佐の意向でもあります。従わない場合、あなた達方の降参と判断し、町に襲撃する合図を今か今かと待ちわびている手下のモンスターに合図を出します。」
「何だと…?」
「わかった。私が戦う。」
「ユリちゃん…?」
「本当は少し心配だったんだ。
アリスちゃん、スネーク大尉との戦いで結構、無茶してたでしょう?
休んだとはいえ、まだ魔力、完全には回復仕切ってないんじゃない?」
「気づいてたんだ…」
「オラも思ってたぞ?」
「クマ子ちゃんも…?」
「私に任せて。必ず倒すから。」
「わかった…」
「ありがとう。」
「行くぞ?オラ達が居たら、戦いが始められない。」
「うっうん…」
二人は闘技場の外に出た。
(まさか、ザクロ大佐までが優梨さんに戦わせようとするとは…この戦いに何か思惑があるかもしれません、気をつけてください…?)
(そうだね…)
「意向に従ってくださるようなので、良いことを教えてさしあげましょう。」
「良いこと…?」
「悪夢を解く方法はただ一つ。この私を殺すことですよ。」
「あなたを殺すこと…?」
「私は"あなた達"と戦えるのを楽しみにしてましたよ。」
「戦うのは私一人だよ…?」
「いえ、あのお二方のことを言ってるのではありません。」
「じゃあ、誰のことを言ってるの…?」
「今の状態では話せません。」
「なっ何!?」
アーノ大尉が指を鳴らすと、本人と優梨だけを暗いドームに閉じ込めた。
「二人の姿が全く見えないぞ!声も聞こえねぇべ!」
「ユリちゃん!!」
「アリスちゃん!クマ子ちゃん!駄目だ、呼びかけても聞こえてない…」
「当たり前です。この空間にいる限り、外には私達の姿は見えず、会話すら聞こえないようになってますから。」
(もちろん、ザクロ大佐にも…)
【どういうつもりだ、アーノ大尉のやつめ…】
アーノ大尉の思惑通り、ザクロ大佐にはドームの中は見れなくて、会話も聞こえていなかった。
「なぜこんなことを…?」
「あなたが救世主だからですよ。」
«えっ!?»
優梨、アイルは同時に驚いた。
「そして見ているのでしょう。このお嬢さんをサポートしている天界の天使さん。」
(どっどうしてこの人、私が救世主でアイルちゃんにサポートしてもらってるって知ってるの…?)
(私にもわかりません…?)
「重い表情してるけど、何かあったの…?」
「次の対戦相手のアーノ大尉、優梨さんが救世主のことも、私達、天使のことも知ってるみたいなんだ…?」
「そっそんな、ありえない…?一体、何者なの…?」
メアも驚きを隠せなかった。
「なぜ知っているんだって表情をしていますね?」
「そりゃそうだよ…?」
「いいでしょう。教えてあげますよ。それは…」
被っていたお面を取り、素顔を見せると、美しい美女だった。
「綺麗な顔…」
「お褒めのお言葉ありがとうごさいます。」
(敵を褒めてどうするんですか…?)
(あっいや、つい…)
「聞きたいことはありますか?」
「あなたは魔物なの…?戦ってきた人達とは違って、頭に耳やツノもないし、人間にしか見えないけど…?」
「そう思われるのも当然です、私は人間ですから。」
「やっぱり人間だったんだ…?」
「正確には普通の人間ではなく、堕天使ですが。」
«えっ!?»
「じゃあ、あなた元天使だったの…?」
「遠い昔の話ですがね。」
「遠い昔…?」
「私は今からおよそ100年前に"ある罪"を犯し、天界を追放されて、人間として地上に落ちた存在です。」
「100年も前に…?」
「驚きましたか?」
「うっうん…?」
「しかし一番、驚いているのはそれを聞いた天使さんの方ではないですか?」
「えっ…?」
(まっまさか…?)
(アイルちゃん、何か知ってるの…?)
(まだ見習いだった頃、授業で教わったのですが…今から約100年ほど前…天界で重い罪を犯し、人間として地上に追放された天使が居たらしいんです…)
(その重い罪って…?)
(女神様しか唱えることが許されない、生き返らせる禁術を唱えたことです。)
(生き返らせる禁術…?)
(そして追放された天使こそ…私達、守護天使の大先輩にあたる…初代守護7大天使、リリカ様…)
「急に黙ったりして。私のことでも聞いているのでしょうね?」
「あなた、守護天使だったんだね…?」
「もう隠す必要もありませんね。今はアーノ大尉と名乗っていますが、私の元の名前はリリカ。元守護7大天使の一人でした。」
「どうして天使だったあなたが魔族の部下なんかに…?」
「そう簡単には話すつもりはありません。」
「そっそんな…?」
「もし聞きたければ、実力を見せてください。」
「実力を…?」
「話すに値する人物か見極めたいのです。」
「わかった…値したら聞かせてくれるんだね…?」
「ええ。」
アーノ大尉が再び指を鳴らすと、黒いドームは解除された。
「よかった…無事だったんだ…」
「心配させやがって…」
「では戦いを始めましょうか?」
「エンジェル・ウィング!!」
優梨は例の術を唱え、戦闘態勢を取った。
「懐かしい姿ですね。」
「天使の姿に似てるから?」
「それもあります。」
「それも…?」
「これを見れば理解しますよ。」
アーノ大尉は背中に黒い羽を出現させた。
「あの羽ってユリにそっくりじゃねぇか…?」
「確かに似てるけど…でも禍々しさを感じる…」
「どうです?」
「確かにその羽は堕天使って感じだね…」
しかしそれでも優梨には不思議と美しく見えた。




