36話 やってみなくちゃわからないよ!
「私のことをご存知ということはあの10年前の少女はあなたですね?」
「やっぱりあの時の…」
「あなた一人でここに来たの…?」
「ええ、そうです。あなたは初めてお目にかかりますね。私はバット中尉と申します。」
「狙いは一体…?」
「ファイヤー・ボール!!」
アリスは空中にいる敵に一切の躊躇なく大きい炎の玉を放って、ドカーン!!と爆発させた!
「ぐっ…アリスちゃん…?」
「やったか…?」
しかし黒煙が消えると、敵は無傷の姿で飛んでいた。
「おやおや、ひどいじゃありませんか。いきなり攻撃してくるなんて、私はただあなた方を城までお連れしようと来ただけなのに。」
「そんなの信じられるか!」
アリスは再び攻撃しようとした。
「待って。アリスちゃん。」
「ユリちゃん…?」
「あなた本当に道案内に来ただけなんだよね…?」
「だからそうだと言ってるではありませんか。」
「じゃあ、"今"は何もしてくる気はないんだね…?」
「ええ。」
「だって。アリスちゃん。道案内してもらおう?」
「えっ…?敵の言葉を信じるの…?
もし私達を油断させる罠だったとしたら…」
「その時は私、全力で応えるよ。」
「わかった…」
アリスは攻撃するのを止めた。
「では案内するので、私の後についてきてください。」
「行こう。アリスちゃん。」
「うっうん。」
優梨の伸ばした手をアリスが掴むと、追いかけて走り出した。
「着きましたよ。」
«えっ…?»
二人が案内されたのは何もないただの広い原っぱだった。
「城なんて、どこにも見えない…?」
「やっぱり罠だったんだな!」
「まぁまぁ、焦らずに付いてきてください。」
«えっ!?»
二人の目の前でいきなり姿を消した。
「どっどうなってるの…?どこに消えたの…?」
「なるほど、そういうことか…」
するとアリスは何かに気づいたように前に歩き出した。
「えっ!?アリスちゃんまで消えちゃった!?」
「ふぅ。」
「って思ったら、出てきた…?」
「付いてきて。」
「うっうん…わかった…?」
意を決して前に歩いた。すると…
「こっこれって…?」
そこには原っぱにはなかったはずの大きな城が堂々と聳え立っていた。
「さっきまではなかったのに…?」
「外からは城が見えない結界か何かが張られてるんだと思う。」
「仰る通りですよ。」
城の扉の前で待っていた。
「本当に案内だけだったみたいだな?」
「疑り深いですね。アーノ大尉から聞いた通りだ。」
「敵の言葉を信じろって方が無理があるだろ?」
「フッフッ、それもそうですね。
ではあなた方を城の中へ入れる前に、改めて今回のゲームの説明を致します。」
「とっとと話せ。」
「城は6階建て、階ごとに違った闘技場があって、我々、ザクロ様の部下が一人ずつスタンバイしております。
我々を全てを倒し、最上階のザクロ大佐の元まで辿り着けたら、あなた方の勝利です。」
「店に居た時に聞いた通りだね…?」
「今のところはね…」
「ルールとしては戦いは必ず一対一、協力して二人以上で戦うのは禁止です。」
「協力しちゃ駄目なんだ…」
「回復や助けに入るのもなしですよ、その時点であなた方の負けになりますから。」
「たとえ味方が殺されそうになってもか…?」
「そうですよ。怖気づきましたか?
まぁ、そもそもお二人しか居ないあなた方に勝ち目などありませんからね。」
「そんなのわからないだろう!」
「やってみなくちゃわからないよ!」
「余程、自信がお有りのようだ。しかし我々、魔族の部下は一番下でもレベル30以上はあって、並の冒険者では倒せませんよ。」
「レベル30以上…」
「ゲームの説明は以上になります。この扉を開けたらすぐにバトル場まで続く道に繋がっていますから、せいぜい足掻いてください。」
城の大きな扉が開いたら、暗い空間の中、一本の道が続いていた。
「私は二階を担当しているので、それでは。」
魔族の部下は飛んで行った。
「いよいよだね…」
「安心して。ソフィーさんにも約束したもん。
ルールなんて関係ない。何かあったら私は迷わずアリスちゃんを助けるよ。」
「迷わず助けるか。なんか初めて出会った時より頼もしくなったね。」
「そっそうかな。」
「じゃあ、アタシからは…」
アリスは優梨の頬にキスをした。
「今のってもしかしておまじないのキス?」
「そう…無事に生きて帰れるように祈ったよ…」
「ありがとう…そういうことなら私も…」
今度は優梨が頬にキスをした。
「なっなっ…そっちもしてくれるなんて…?」
「してもらってばかりだから…私も同じこと祈ったよ…」
「ありがとう…」
(不思議だ。私にそっくりな姿なのに、照れた表情が可愛いって思えるな。)
(それはいい兆しですね。)
(なっ!?アリスちゃん帰ってきてたの!?)
(邪魔したらわるいので、黙ってました。)
(以前にもそんな気遣いしてたよね…?)
(それより大胆になりましたね?キスをしてあげるなんて。)
(あっあくまで、おまじないのつもりだから!)
(へえ〜?)
(うざい反応だなぁ…?)
「縁起も担いだし。心の準備も整った。城に入ろうか。」
「そっそうだね。」
二人が城の中に入るとこれから始まる激しい戦いを暗示するかのように空は怪しく曇っていたのだった。




