32話 私がいるから。
(まさか魔族の部下が家に現れるなんて…?)
(気をつけてください!レベルを測定しましたが、レベル52もありました!真の強敵です!)
(そっそんなに強いの…?)
「そちらの方は初めてお目にかかりますが、見た目があまりにそっくりですね、まさか妹さんですか?」
「そんなことなぜ、おまえに答えなきゃならない!」
「そっそうだよ!」
「興味で聞いているだけなのに、ひどい方々だ。」
(すぐにでもお姉ちゃんを助け出したいのに…迂闊に近づけない…)
「その表情、こちらで倒れているお姉さんが心配のようですね?」
「くっ。」
「これでは集中してお話を聞いてもらえそうにない、私は何も手出ししないので、お姉さんを介抱してあげてください?」
«えっ!?»
「いいの…?」
(信じちゃ駄目です!二人を油断させる罠です!)
(そっそうなのかな…?)
「私がここへ来たのはあなた方と戦いに来たからではありません。ザクロ様から命を受けて、伝言を届けに来ただけです。」
「信じられるか!!」
「ハァ…これだから人間は疑り深くて困りますね…?では、私を拘束してはいかがですか?」
«えっ!?»
「それぐらいしないと伝言をちゃんと聞いてくださらないでしょう?それに"今"は戦う気はないという証にもなるはず。」
「なるほど…わかった、それならいい。」
「わかっていただけたようで、何よりです。」
(さっきまであんなに耳を傾けなかったのに…?)
(相手が"今"は戦う気がないからですね。)
(そっそうか、"今"はね…)
「アイアン・バインド!」
アリスが呪文を唱えると敵の頭上から鉄の鎖が現れて、グルグルッと椅子に縛り付けた!
(ほう…中級魔術ですか…流石はザクロ様が気に入った人間の小娘、優れた才能の持ち主のようですね?)
「お姉ちゃん!!しっかりして!!」
「ミーナさん!!」
「スゥゥ…スゥゥ…」
「寝てるだけみたいだね…?」
「よかった…」
安心したアリスはミーナを抱きかかえて、すぐ側にあるソファーに寝かせた。
(お姉ちゃん…)
「では、ザクロ様の伝言を聞いていただけますね?」
「ああ、話せよ?」
(ゴクリッ…アリスちゃんの雰囲気が変わった…)
(いつも以上に怖いですね…?)
「ザクロ様からの伝言はこのようなものです。」
指を鳴らすと、机に蓄音機が現れて動き出した。
《小娘よ、久しぶりだな、10年前、きさまに約束にした通り、きさまと戦うために再び町を攻めに来た
。だが、ただ人間を殺したり、町を破壊するだけでは飽きてきた所だ。一つ、きさまに好条件なゲームを用意してやろう。》
「ゲームだと…?」
《ゲームの内容は簡単だ。きさまが我の城まで来て、階ごとにいる部下達と戦い倒して、最上階の我の元まで来ること。
それが出来たら、我は大人しく負けを認め、町を攻めずに去ることにしよう。
それにだ、きさまがこのゲームに参加している間は町にモンスターを進軍させることもしない、どうだ?これほどの好条件なゲームはないだろう?》
「ふざけやがって!」
「落ち着いて!まだ続きがあるみたい!」
《ただし、ルールも設ける。参加させる仲間は二人まで、それ以上は認めない。さらにもしきさまがこのゲームに参加しない場合は即、こちらから攻めることにする。だが、その時は以前のように優しくはないぞ?町を完全に壊滅させ、町の人間共も一人も逃さず皆殺しにしてやる。それが嫌だったら、参加することだ。ハッハッハ!》
そして蓄音機は止まると消えた。
「チクショッ!!」
「アリスちゃん…」
(アリスさんが叫びたくなるのもわかりますね…
今のは町を人質されながら、尚且つ味方が少ない状態で戦えという、心理的にも戦力的にも不尽なゲーム…とても好条件なゲームじゃありませんよ…?)
(うん…聞いてて私も怒りたくなった…)
「伝言は以上です。参加していただけますか?」
「どうあがいても参加させるつもりだろうが…」
「それは参加するという意味でよろしいですね?」
「ああ、おまえもザクロ大佐も全員、ぶっ殺してやる!!」
「フッフッ、果たして出来ますかね。」
「私も参加する!」
「一緒に戦ってくれるの…?」
「当たり前だよ。それが私の使命でもあるんだから。」
「使命…?」
「まさか…」
(言っちゃ駄目です!)
「あっ!いや、ただそう思っただけ…」
「なっなんだ…」
「フッ…ついに現れましたか…」
「えっ…?今、何か言った…?」
「いいえ、何も。これをお渡しますね。」
手紙を渡された。
「これは何だ…?」
「ザクロ様があなたと戦うためだけに作られた城までの地図です。これで城まで来れるでしょう。」
「探さなきゃならないのかと思ってたが…」
「城は防御壁で守られているので、そう簡単には見つかりません?
時間をかけられてはザクロ様がしびれをきらしてしまいますので…」
再び指を鳴らすと、鎖の拘束が外れた。
「やっぱり、縛られてるフリをしてたんだな?」
「お気になさらないでください。」
後ろを振り向き、手をかざすと人が通れるぐらいの異空間の入口を作り出した。
「ぐっ、なんて強風!」
「では私はこれにて。」
「まっ待って!あなたの名前を聞かせて!」
「ユリちゃん…?」
「これはこれは失敬、名前を教えてませんでしたね。私の名前はアーノ大尉です。」
「アーノ大尉か…」
「楽しみにしていますよ…『あなた方』と戦えることをね…」
空間に入ると、一瞬で消え去った。
「消えちゃった、あの術って、一体…?」
「空間移動の魔術だと思う…前に読んだ古い本に書いてあったから…」
「空間移動か…」
(私もどこかで見たことがあったような…)
(アイルちゃんも…?)
「くっ…」
「危ない!」
倒れそうになったアリスを受け止めた。
「ハァハァ…」
「だっ大丈夫…?」
「過去に向き合うって…辛いもんだね…」
「安心して。10年前とは違うよ。私がいるから。」
「本当に一緒に戦ってくれるの…?」
「二人で魔族達を倒そう。」
「ありがとう…」
そして二人は魔族討伐に出掛けると決意したのだった。




