31話 語られたアリスの過去。
「スゥゥ…スゥゥ…」
「ユリちゃん…」
家に戻ったアリスは眠るユリの手を両手で優しく握っていた。
「どう?ユリちゃんの様子は?」
「まだ寝てる…」
「アリスを守ってくれたユリちゃんには本当に感謝しても仕切れないわ。」
「うん…ユリちゃんは命の恩人だよ…」
「それにしても森も物騒になったものね…
モンスターがいきなり襲いかかってくるなんて…」
「そっそうだね…」
「何だか暗い表情だけど、あなたも疲れてるんじゃない…?交代するわよ…?少し休んだら…?」
「そんなことないよ。アタシは疲れてないから。」
「そう…?」
「それにアタシが側に居てあげたいの…」
「アリス…わかったわ。私は二人のためにお昼ご飯いっぱい作って待ってる事にするわね。」
「お願いするね。」
ミーナは部屋を出た。
(お姉ちゃん…本当のこと言えなくてごめんね…
でも不安な思いはさせたくないんだ…)
「んっ…ここは…」
「あっ…起きた…」
「アリスちゃんの部屋…私達、家に戻ってきたの…?」
「そうだよ。」
「家まで運んでくれたんだね…ありがとう。」
「ユリちゃんだってしてくれたじゃない…おあいこだよ…?」
「そっか、おあいこか…」
「どう…?痛い所はない…?」
「うん。どこもないよ。アリスちゃんが飲ませてくれた薬のおかげだね。」
「それならよかった…」
「えっと…一つ気になってることがあるんだけど…?」
「何?」
「もしかして私が起きるまでずっと手を握ってくれていたの…?」
「えっ!あっうん…」
「心配してくれてたんだね。」
「本当にごめんね…?アタシが戦えなかったせいで、
ユリちゃんをこんな目に合わせちゃって…」
「いいんだよ。謝らないで。格好つけたのは私だし。」
「でっでも…?」
「何か理由があるんだよね?アリスちゃんがあのゴブリン達に怯えた理由が?」
「うっうん…」
(アリスさんの表情、ただならぬ理由がありそうですね…?)
(アイルちゃん、テレパシーしてたんだね…?)
(いい雰囲気でしたし。二人の会話の邪魔をしないようにと黙ってました。)
(そっそうですか…)
「理由を話した方がいいよね…」
「聞かせてくれるの…?」
「むしろ聞いてほしい…」
「わかった。聞かせてくれるかな?」
「実は十年前にも、あのゴブリン達みたいに
凶暴になった森のモンスター達がこの町に向かってきたことがあったの…」
「十年前にもそんなことが…?」
「当時、それを阻止するために町の冒険者ギルドは隊員と協力してくれる冒険者を総動員して、町に向かってくる邪悪なモンスター達と戦ったの…」
「そっそれで…?」
「その時はやって来ていたモンスター達がそれほど強くなくて、森まで追い返すことが出来た…」
「なんだ、追い返すことが出来たんだね…」
「だけど…それはただの序章だった…」
「序章…?」
「それから二日後…今度は町にザクロ大佐と名乗る魔族と部下の魔物の四人がモンスターを連れて、町に侵攻してきたの…」
「魔族が…」
(やはりこの町は魔族との因縁があったみたいですね…)
(アイルちゃんは知らなかったの…?)
(はい。あの森が異世界の召喚に適した不思議な森だったことしか…)
(それが森に召喚した理由だったんだ…?)
「奴らは強すぎた…」
「でっでもまた隊員と冒険者の人達が協力して戦ったんでしょう?追い返すことが出来たんじゃ?」
「そう思うよね…」
「えっ…?」
「当時、まだ幼かったアタシとお姉ちゃん…いや、町に住む人達、誰もがそう思ってた…だけど…」
「まさか…?」
「勝てなかったの…圧倒的な力の差だったみたい…」
「そっそんな…」
(優梨さん、それがこの異世界の現状です。魔王、魔族、それに仕える魔物達に対抗できる存在はごく僅かの人間だけなのです。)
(ごく僅かの人間…)
「その後は惨劇だった…町の建物は次々に破壊されて…」
「アリスちゃん達や町の人達はどうしてたの…?」
「アタシ達や町の住民は敵が攻めて来る前に町の外に避難していたから…」
「そっか…よかった…」
「でもね…アタシ、馬鹿な行動に出ちゃったんだ…」
「馬鹿な行動…?」
「アタシは両親が残してくれたこのお店を守りたくて、町に戻り、ちょうど店を壊そうとしていた魔物の前に立ち塞がったんだ…」
「そっそんな無茶な!」
「ええ、それを強く印象付ける出来事が起こった…」
「何が起きたの…?」
「アタシの後を追って…連れ戻しに来たお姉ちゃんがアタシの目の前で…魔族の部下になっ…殴られて…血を…血を流して倒れたの!!」
「なっなんて、ひどい…」
「人生であれほど後悔したことはなかった!!
アタシの軽率な行動で、大好きなお姉ちゃんが傷ついたんだ!!」
アリスは感情が抑えきれず、何度も自分の膝を叩いた。
「落ち着いて!アリスちゃん!」
「ハァハァ…ごめん…」
「深呼吸して…?」
「スゥ…ハァァ…」
「どう…?少しは落ち着いた…?」
「何とか…」
「まだ話せる…?話せないなら、それぐらいで…」
「大丈夫…最後まで聞いて欲しいから…」
(相当の決意で話しているようです。信じて聞きましょう。)
(そうだね…)
「わかった…聞かせて…?」
「アタシはお姉ちゃんの傷ついた姿を見て…とてつもない後悔と物凄い怒りが込み上げた時…ある力を目覚めさせた…」
「そっそれって…あの青い炎を纏ったスキルの事…?」
「うん…それだよ…私はその目覚めた力で、気がつくとお姉ちゃんに手を出した魔物をボコボコにして倒していたんだ…」
「すごいね…?」
(感心してる場合じゃありませんよ!スキルの名前は確か"恋する少女の怒りパワー"でしたよね!そこを具体的に聞くべきです!)
(そっそんな勇気ないよ…?)
(ハァ…ユリさんらしいですね…?)
「そしたら、そんなアタシに奴が話しかけてきたの…」
「奴って…?」
「ザクロ大佐…」
「魔族が…?」
「奴はアタシに近づいて、こう言ってきたの…」
【我は魔族のザクロ大佐、きさまのように強い人間の小娘は初めて見た、面白い、実に面白いぞ、気に入った、きさまは大きくなれば今以上に強くなるだろう、我と本気で戦える存在になるかもしれぬ、それまではこの町を占領するのはまだやめといてやるとしよう、 だが、次に来た時に果たしてこの町をきさまが守り切れるかな、ハッハッハッ、楽しみにしている…】
「そう嘲笑って…部下達と共に町を去って行ったの…」
「魔族がそんな約束を…アリスちゃんに…?」
「うん…理由はどうであれ…町は破壊されずに済んだ…」
「ミーナさんはどうなったの…?今も生きてるんだし、助かったんだよね…?」
「生き残った隊員達が駆けつけてくれて…お姉ちゃんの治療を行ってくれたの…だから助かったんだ…」
「そっか…そうだったんだね…」
「だけど被害は甚大じゃなかった…戦った人達の多くが命を落としていて、生きてたとしても怪我人か重傷者ばかり…建物はほとんど破壊され、強度が強く作られてる冒険者ギルドですら半壊してた…」
「想像しただけでも恐ろしい光景だ…」
「でもそんな状況だった町も、みんなで頑張って修復して、時間はかかったけど、今みたいに元通りになった…」
「だから復活を遂げた奇跡の町なんだね…」
「そして2年前に王都のギルドからウイス隊長達がやって来てくれて冒険者ギルドを再開してくれた…
それでさらに町に活気が戻って来てたんだ…なのに…」
「アリスちゃん…?」
アリスは涙を流した。
「どうして…よりにもよって…こんな時に魔族が現れるの…」
「こんな時にって…?」
「今、冒険者ギルドにウイス隊長が居ないんだよ…ある用事で、遠くにある王都に出掛けてるんだ…帰ってくるまで、最低でも2日はかかる…」
「ウイスさんが居ない…?」
「ギルドの隊員は強くてCランク…冒険者もアタシの知る限りでは魔族、いや、魔物を倒せるほどのランクの人すら居ない…」
「そっそうなの…?」
「そもそも再開したばかりのギルドだから…受けられる依頼もDランクが最高で…Cランク以上の冒険者が滅多に来ないんだよ…だから唯一魔族とも互角に戦えるのはAランクのウイスさんだけだった…」
「そっそんな…」
「こんな状況で…もし魔物の一人でも現れたら…十年前より最悪に…」
「キャァッッー!!」
«えっ!?»
下の階からミーナの叫び声が聞こえた!
(今の悲鳴って、ミーナさんだよね!?)
(間違いありません!)
「お姉ちゃん!!」
「私もいくよ!」
優梨達は慌てて階段を降りた!
「どうしたの!!お姉…ちゃ…」
「アリスちゃん…?急に立ち止まって…えっ!?」
すると優梨達の目に飛び込んできた光景は床にミーナが意識を失い倒れているのと…その近くで椅子に堂々と座っている、白いお面と黒いマントで身を隠した謎の人物だった…
「お久しぶりですね。」
「おまえは…」
「知ってるの…?」
「やはり覚えていてくれたんですね。」
「忘れるもんか…おまえはザクロ大佐の部下だろうが!!」
「そっそんな!?」
まさかこのタイミングで魔族の部下と対峙することになるとは…




