26話 アリス先輩、教えて!
私は遅刻せずに約束の8時までに冒険者ギルドに着くことが出来た。
「私を指導してくれる先輩って、アリスちゃんだったの!?」
「アタシも今日の朝に聞かされたんだ。」
「そっそうなんだ…?」
(よかったですね。アリスさんに教わることになって。)
(でもちょっと怖いな…)
「今日から一週間、先輩としてビシバシ、指導するから覚悟してね?」
「あっはい!」
(なんかアイルちゃんより鬼コーチっぽい…)
(あはは…私よりも…)
「当ギルドの期待のルーキーから教われるんだよ。気合い入れて頑張ってね。」
「期待のルーキーって呼ばれてるんだね…?」
「その紹介の仕方、恥ずかしいよ。ミノリさん。」
「だって、僅か半年でCランクに上がれるなんて。すごいことだよ。アリス先輩。」
「もう。からかって。行くよ?ユリちゃん?」
「どこに行くの…?」
「指導初日は森で戦闘の練習から始めるんだ。」
「そう。だから今から向かうのは森だよ。」
「どうして森で…?」
「あの森は不思議な森でね。どんなに魔術や武器を使って暴れても、ちょっとやそっとじゃ木や草は燃えたり折れたりしない。だから戦闘の練習をする時には森で練習してもらっているんだ。」
「そういうことでしたか…」
(確かにそうだ…私はあの森で、かなり暴れまくったのに木が一切、折れたりしてなかった気がする…)
(あの森は私も不思議だと思ってたんですよ。)
(アイルちゃんも…?)
「早く来て、置いて行くよ?」
「あっ待って!」
「行ってらっしゃい〜。」
二人は森を目指して、ギルドを出た。
「それにしてもあの二人、本当にそっくりだったな。まるで双子の姉妹みたい。」
それから約1時間後、ひたすら歩いて、目的地の森に着いていた。
「それじゃあ、今からユリちゃんの実力を把握するために一対一の模擬戦をしたいと思います!」
「えっーー!?」
私は驚きすぎて、つい大声を上げてしまった!
「なっなんで模擬戦なの!?」
「実力を知るには戦ってみるのが手っ取り早いかなって思って。」
「ほかにも実力を試す方法ってあるんじゃないかな…?何も戦わなくても…?」
「それにね!ユリちゃんとは一度、手合わせしてみたかったんだ!」
「私なんて大したことないよ、すごく弱いから!」
「またまた。すごく弱かったら、あの不良達を私みたいにボコボコになんかできないでしょ。」
「そっそれは…」
「大丈夫だよ!どっちかが怪我しても、アタシ、回復するための術もいちよう唱えられるし。もしものために多少の骨折や深い傷も一瞬で治せる中級回復薬もちゃんと常備してるから。」
「ぐっ。準備がよろしいようで…」
(まぁでもこれだけ万全なら…もし私が怪我しても
アリスちゃんがケアしてくれるよね…?)
(そっそうですね…)
「戦うでいいよね?」
「うん…今回だけね…?」
「じゃあ、さっそく、始めようか!」
「はっはい!」
私とアリスちゃんは互いに戦闘態勢をとった。
(ユリさん。百合パワーは使いますか?百合妄想のストックならいっぱいありますよ?)
(いや、まだ様子見するね…いざとなったら、お願いするかも…)
(わかりました。)
「流石だね。ユリちゃん。」
「なっ何が…?」
「自分から先に攻撃を仕掛けないことで、相手にスキが出来るのを待ってるなんて。」
「深く読みすぎだよ…?私はただ攻撃のタイミングが…」
「じゃあ、お望み通りにしてあげる!そりゃー!!」
「わっ!!」
私はド直球パンチをなんとか間一髪で交わせた!
「やるじゃん。だけど今のは軽い小手調べだから、今度は少し本気でいくよ!そりゃ!!そりゃ!!そりゃ!!」
「わっ!わっ!わっ!」
連続パンチを私はギリギリだけど躱し続けた!
(ユリさん、反撃してください!)
(んなこと言われても!)
「ユリちゃん!」
「はっはい!」
なぜかアリスちゃんは攻撃を止めて、頬を膨らませて怒った。
「ユリちゃんさっきから手加減してる!」
「そっそんなことないよ!」
「戦ってみて感じた…何か強い力を隠して戦ってるでしょう!」
「ギクッ!何も隠してなんかいないよ…?」
「私ってその力を使ったら、簡単に倒せるぐらい弱いと思ってるんでしょ!」
「そっそんなこと思ってないよ!」
「じゃあ、力を見せてよ!」
「わかった…」
(アイルちゃん。百合妄想お願い。)
(その言葉。待ってました。)
「魔力の流れが変わった…?」
「アリスちゃんのこと弱いとは思ってないよ。
でも後悔だけはしないでね。」
「きゃっ!」
(急激に魔力が上昇してる!?こんな強い魔力は感じたことがない!)
「行くよ!」
優梨は一瞬にして、アリスの前に立った。
「いつの間に!?」
「スリープ・ショット!」
「それって、Cランクからしか扱えない術……やっぱり…あなたって…」
「おっと。」
私は眠ったアリスちゃんを受け止めた。
「スゥゥ…スゥゥ…」
(すごく優しい倒し方ですね。)
(アリスちゃん、納得してくれないかな…?)
(それはわかりません。ただスリーブショットの効力は約2時間ぐらいしないと解けないですよ?)
(えっ…?そうなの…?)
(起きるまで待つしかありませんね。)
(これじゃあ、アリスちゃんに怒られちゃうな、きっと…)
「お姉ちゃん…」
「えっ…?」
両手でグイッと引き寄せられて唇を奪われた。
(あらま〜)
「ぷはぁ。」
「お姉ちゃんの唇…柔らかい…」
「わっわっ私、女の子とキスしちゃった!というかファーストキス…奪われちゃった…」
「私のファーストキスなんだからね。お姉ちゃん。」
「しかもアリスちゃんもファーストキスまで奪っちゃった!」
(落ち着いてください!アリスさんは寝てるのでこのことを知りません!)
(そっそうだけど!ミーナさんの前に私がアリスちゃんの初めてを奪っちゃったなんて…私はなんてことを…)
「お姉ちゃんったら…」
(さっき起こったことは私だけの秘密にしておかなくちゃ…)
−それから2時間後−
「んっ…あれっ…?ここってアタシの部屋…?」
「あら。アリス起きたのね。」
「アタシは確か森で眠ったはず…?」
「ユリちゃんが眠るアリスをおんぶして、家まで運んできてくれたのよ。」
「そうなんだ。おんぶして…そういえばユリちゃんの姿が見えないけど…?」
「ユリちゃんはね?アリスに会わせる顔がないからって一階にいるわ?」
「会わせる顔がない…?」
「今日のこと、すごく反省してるみたいよ。
私は気にすることないって言ったんだけど、本人は気にしてるみたいでね。」
「そんなに気にすることないのに…」
「心配ならすぐに行ってあげなさい。」
「うん。」
一方の一階にいる優梨はというと。
(はぁ…これからアリスちゃんとどう接すればいいか…)
「ユリちゃん。」
「あっアリスちゃん!?」
アリスは後ろから優梨を抱きしめた。
「なんで落ち込んでるか、わかるよ。」
「えっ!?」
「アタシをスリープ・ショットを使って、倒したから、怒ってると思ってるんでしょう?」
「あっうん…怒ってないの…?」
「むしろ、私はすごいと思ったよ。
油断したよ。私の完敗。だから気にしないの。」
「そっそう…?」
「それにね…眠ってる間、私、とってもいい夢見れたんだ…」
「いい夢!?」
「うん…特別に教えるけどね…お姉ちゃんと夢の中でキスしたんだ…その夢の中のお姉ちゃんの唇の感触がリアルで…柔らかくて最高だった…」
「そっそうだったんだ…よかったね…?」
「それも眠らせてくれたユリちゃんのおかけだよ。あ・り・が・と・う。」
「どっどう致しまして…」
私は耳元で感謝を伝えられただけなのに
なぜか胸の高鳴りを抑えられずにはいられなかった。




