16話 心があたたかくなるから
「あれっ…私、いつの間にか眠って…?
というか美味しそうないい匂いがする…」
テーブルを見ると、沢山の料理が用意されていた。
「おはよう。ちょうどよく料理が作り終わった所よ。」
「こんなにご馳走になっちゃっていいんですか…?」
「遠慮しないで。助けてもらったお礼なんだから。」
「そっそうですか…?」
「冷めないうちに食べて、食べて。」
「いただきます…」
私はスプーンを取り、カレーを一口食べた。
「どうかしら?」
「はわわぁ。美味しい。」
私はあまりの美味しさにほっぺたが落ちそうになった。
「本当?」
「ミーナさんって料理上手なんですね!」
「嬉しいわ。さぁ、どんどん食べて。」
「はい!」
私はお腹がとても空いてたのも相まってか、食べる手が止まらずに出された料理をほとんど残さず食べ切った。
「ぷくぅ…ご馳走様でした…」
「お粗末様でした。満足してくれたかしら?」
「大満足です。私、これほどの量を食べたのは初めてですよ。本当に美味しかったです。」
「その満足そうな顔もアリスにそっくりだわ。」
「そういえばミーナさんにずっと聞きたいなと思ってたんですけど…?」
「私、恋人ならいないわよ?」
「あっいや!そうじゃなくてですね!」
「ふっふ。それで聞きたいことって何かしら?」
「ミーナさんには妹さんがいるんですよね?」
「ええ。名前はアリスって言うの。」
「私に似てるって言ってましたけどそんなに似てるんですか…?」
「似てるってもんじゃないわ!
顔も背丈も声まで瓜二つだもの!」
「そっそんなに似てるんですね…?」
「唯一違うのは胸の大きさだけだわ。」
「そこわざわざ言い直さなくても…?」
「むくれる顔までそっくり。」
「ミ〜ナさん?」
「そんなに怒らないで。冗談よ。」
「でもそんなに似てるなんて…アイルちゃんの言った通り、異世界での私なのかな…?」
「異世界での私…?」
「あっいや!それよりもアリスさんは冒険者なんですよね?」
「ええ、そうよ!アリスはとっても強い冒険者なの!
それでいて可愛いくて私の天使みたいな妹なのよ。」
「妹さんが大好きなんですね。」
「私にとって血の繋がった、たった一人の家族ですもの。」
「たった一人の家族…?
ご家族はほかにいないんですか…?」
「ごめんなさい、言ってなかったわね…
両親は10年前、依頼されたモンスターを退治出来ず殺されてしまってね…
それからは親戚に助けてもらいながら、アリスと二人で暮らしてきたの…」
「ご両親って冒険者だったんですか…?」
「ええ。二人ともDランクの冒険者でね。冒険者を副業、このお店を本業として経営していたの。」
「そうだったんですか…ここはご両親から引き継いだお店だったんですね…?」
「そうなの。でも当時、まだ10歳だった私と4歳のアリスでは店を受け継いで続けるのは到底無理だったから、大きくなって、ちゃんと店を始められるようになるまで、閉店することにしたのよ、苦渋の選択だったけどね…」
「苦労なされたんですね…?」
「苦労だなんて…両親が店の経営と冒険者をしながら、私達のために少しずつ貯めてきてくれた貯蓄があったから、何不自由なく暮らせたし、私が店を再開するまで、この店を手放すこともしなくて済んだから…
でも…子供だけで暮らしてたし、大変じゃなかったのかと言われれば、そうかもしれないわね…」
「ミーナさん。」
「えっ…?」
優梨は頭をそっと撫でた。
「よく頑張りましたね。」
「どうして褒めてくれるの…?」
「ミーナさんのご両親の気持ちを代弁しただけですよ。
きっとご両親が生きてたら、そう言ってくれてるはずです。」
「もう…泣かせないでよ…」
「上から目線すぎましたよね…?」
「そんなことないわ。ありがとうね。」
「よかったです。」
(ユリちゃんが本当の家族みたいに思えて、心があたたかくなるから不思議…)
「それじゃあ。美味しい料理をご馳走してくれてありがとうございました。私はこの辺で…」
「待って!」
「えっ?」
「ちゃんと泊まる宿は決まっているの?」
「それが中々、泊まれる宿が見つからなくて、今からまた宿探しをしようと思ってるんです…」
「だったら家に泊まって。この店の二階が住居になってるのよ。」
「いいんですか?」
「夜遅くに町を女の子一人で歩くなんて危険よ。」
「私なら平気ですよ。」
「平気じゃありません!」
「じゃじゃあ、お言葉に甘えて…泊まらせてもらえますか…?」
「嬉しいわ。一緒にお風呂に入ったりしようね?」
「はっはい…いいですけど…?」
ミーナさんの勢いに押されて、家に泊まらせてもらうことになった。