135話 魔族の城、それぞれの戦い開始。
「ソラァ、ソラァ、ソラァッ!さっきまでの威勢はどうした!」
「くっ!くっ!」
ロリーヌはザーギ大尉の猛攻を防いで、反撃のチャンスを伺っていた。
「おい、大丈夫か!」
「当たり前です!まだ本気なんて出してませんから!」
「そっそうか…?」
「奇遇だな、チビ犬娘、オレもまだ力の半分も使っちゃいないぜ?」
「誰がチビですか!」
「おっと危ねぇ?」
ロリーヌの後ろ蹴りは躱された。
「加勢してやりたいが…ここは頑張ってもらうしかないな…」
「味方の心配をしている場合でござるか?」
「はっ!」
よそ見した一瞬の隙をついて、ドーラの背後をとり、首筋にクナイを向けた。
「ドーラさん!」
「呆気ない終わりでござったな?」
「それはどうかな?」
「ほう、何でござるその余裕な態度は?まさかこの窮地を脱する策でもあるとか?」
「そのまさかだ!」
「ぐっ!」
ドーラは蝙蝠に化けて、空中に逃げた。
「どんなもんだい!」
「よかった…」
「おまえも仲間の心配か?余程、仲良しなんだな?」
「そっそんなんじゃないです!」
「おっと?」
「迂闊だったでござる、そういえばあなたは我らと同じ吸血鬼でござったな?」
「ああ、だから雑魚扱いしてたら痛い目みるぞ?」
続けてドーラは大人の姿に化けた。
「その姿、ここからが本気と言う意味でござるな?」
「そういうことだ。」
「ではそれに応えるのが通りでこざるな、拙者も余すことなく力を開放するでござる、ハァァ…」
「ポワンの野郎、もうやる気か?仕方ねぇな、だったらオレも、ハァァ…」
二人は魔力のオーラを開放した。
「ドーラさん、どうやら相手も本気モードみたいです。絶対に油断しないでくださいね?」
「言われなくてもわかってる…」
そして時を同じくして、城の一階で戦うアリスが苦戦を強いられていた。
「魔刀術、邪の一撃、ふんっ!」
「くっ!」
【ほう。】
「今だ!グロウ・ネイル!」
「当たるもんか!」
交互に来る、ソード少佐の刀攻撃とグロウ中佐の鋭い爪攻撃をギリギリで躱していた。
「ハァハァ…」
【流石はAランク冒険者、二人を相手にしているというのにまだ一度も攻撃を食らわないとはな、見事だ。】
「ええ、正直、私も驚いています…」
「素直に実力があると認めよう?」
「村の人達とドーラちゃんを傷つけたクズ野郎共に
褒められても嬉しくなんかない、反吐が出るわ。」
「生意気な小娘が!」
【いちいち挑発に乗らなくてよい、それよりそろそろ、我も参加した方がいいか?】
「そっそんな!ブラッド様のお手煩わせることなどありません!我々だけで、必ず倒してみせます!そうだな、ソード少佐!」
「ああ、もちろんそのつもりだ。」
(まだ二人だけが相手だから、何とか攻撃は躱せてはいるけど、反撃のチャンスがない…それに魔族のブラッド大佐まで攻撃してきたら…戦況は一瞬で不利になるよね…一体、どうしたら…)
そして城の三階、あの二人の戦いも始まっていた。
「ほらっ、ほらっ!」
「あっ!わっ!」
サツキ大尉の撃ってくる銃の弾丸を優梨は天使の術を唱えずに躱していた!
「戦うって言ったのに、さっきのは口だけかい?」
「それはどうかな…?」
(きっとこれは罠だ…)
−城に着く前の優梨とアリスの会話−
『もし、サツキ大尉と戦うことになったら、絶対に術は唱えないでください。例のバインドに縛られたら、一巻の終わりですから。』
『でも術を唱えないで戦えるかな…?』
『十分、レベルが上がっているので戦えると思います。術を唱えないで、お得意の一本背負をかけましょう。それで戦闘不能にすればいいんです。』
『わかった、アイルちゃんの作戦を信じるよ。』
『それにいざとなったら…』
『えっ…?』
『なっ何でもありませんよ。』
"あの時、きっとアイルちゃんはいざとなったら空間移動で助けるって言うつもりだったんだ…でも、それだけは絶対にさせない…"
「ふざけてるのかい?」
「いつの間に!」
目と鼻の先で優梨の額に銃を向けた。
「戦いの最中に上の空になるとは随分と余裕だね?」
「しまった…」
「終わりだよ。」
「なんてね…」
「えっ?」
素早い動きで、サツキ大尉の腕を掴んだ。
「近づいてくれるのを待ってたんだ!」
「なっ何を!」
「そりゃ!!」
「ぐわぁっ!」
一本背負で強く床に叩きつけた!
(決まった!優梨さんの勝ちだ!)
「ふぅ…きっとこれで…」
「何、倒したつもりになってるのかな?」
「えっ…?」
サツキ大尉は埃を払いながら平然としていた。
「今の効かなかったの…?」
「全然、痛くも痒くもなかったよ?」
「そっそんな…?」
それを見ていたアイルもあまりの衝撃に目を点にしていた…
「かければ百発百中で…いくつもの強敵を倒してきた優梨さん最大の技と言っても過言じゃないのに…?ノーダメージだなんて…?」
《あっアイルちゃん…どうしたらいい…?》
「はっ!サポート役の私が動揺してたら駄目だ!」
(体制を整えましょう!今は距離を取ってください!)
(うっうん!)
「お返しだよ?」
「なっ!?」
「くらえ!」
サツキは生成した2台のガトリングガンを軽く持ち上げて、ぶっ放した!
「そんなのありなの!」
(優梨さん!!)
優梨はひたすら逃げ続けた!
「いつまで逃げ切れるかな!」
そして壁まで追い込まれた!
「ハァハァ…」
(どうしよう…後がない…)
「鬼ごっこもここまでのようだね?」
「ぐっ…」
「どうして、術を唱えないのかな?攻撃から身を守る術ぐらい唱えられるはずだよね?」
「そっそれは…」
「わかってるよ。術を唱えたら、前みたいに罠が発動するんじゃないかって警戒してるんだよね?」
「気づいてたんだね…?」
「でも無駄な悪あがきだったね、これで終わりだよ?」
「くっ!こうなったら、破れかぶれだ!エンジェル・ウイング!」
優梨は天使の羽を纏った!
「馬鹿だね?」
「ぐぁっ!」
足元に謎の大きな紋章が現れて、体が動かなくなった!
「ぐっぐぁ…体が動かない…」
そして、天使の羽も消えてしまった!
「もうこれで完全に逃げられなくなったわけだ。」
「まっ待って…?」
「ボクを呪っていいから。」
「はっ…はっ…」
「じゃあね…?」
(駄目だ、本当に殺されちゃう!!アイルちゃん、アリスちゃん達、みんなごめん!!)
(そんなこと私がさせません!!)
(えっ…?まさか!)
(スキル、空間移動!)
(止めて!!)
「なっなんだ、この光は!」
優梨は眩しい光に包まれて、一瞬で姿が消えた!
「どこに行った!」
「ここだよ…」
「なっ!」
空中を見上げると、優梨は切ない表情で天使の羽を広げていた。
「一体、どうやって…?」
「私の力じゃないよ…」
「意味がわからないよ…?」
(アイルちゃん、ごめんね…助けてもらっちゃって…?)
(大丈夫ですよ…一度くらいなら、全然、耐えられますから…)
(ありがとう。私がその想いに応える番だね。)
「何が起きたかは不明だけど、君を舐めてかかった自分に腹が立ってきたよ。」
「私、あなたの術の弱点を掴んだかも。」
「弱点…?」
「あなたの罠は地面や床に居ない限り発動しない、そうでしょう?」
「どうしてそう思うんだい…?」
「現に私は天使の術を唱えてるのに罠は発動してない、それが証拠だよ。」
「フッフッフ、アハハハッ!」
「なっ何で笑ってるの…?」
「よく見破ったね、君の推理通りだよ?」
「やっぱり…」
「でも気づいてないようだね?」
「なっ何を…?」
「そんなこともあるかと思って、空中には空中用の罠を仕掛けてあることにさ。」
「えっ…?」
すると優梨は透明の糸に引っかかって爆破した!
(優梨さん!!)
「ガハァッ、ガハァッ…」
(大丈夫だよ…ダメージは少くなかったから…)
(だけど、額から血が!)
「おやおや、そんなもんか。城を破壊しすぎたら怒られると思って、あまり強めの爆弾は使わなかったせいかな?」
「そのおかげで助かったよ…」
「でもこれで理解してもらえたかな?一つ罠をクリアした所で、この空間には君の逃げ場なんかないってことに。」
「ハァハァ…そうみたいだね…」
「大人しくボクに殺されなよ。じゃなかったら、痛い思いを沢山することになるよ?それでもいいのかい?」
「構わないよ、私は殺されるわけにいかない…」
「じゃあ、ボクを全力で殺すしかないよね、結局はそうなる…君が一番大事なのはアリスって子や仲間の子達で…」
「その通りだよアリスちゃん…ロリーヌちゃん…ドーラちゃん…みんなを必ず救ってみせる…」
「やっぱりね…」
「もちろん、あなたもだよ…」
「今なんて…?」
「あなたも救ってあげるから。」
【何が救ってやるだ…】
「えっ…?」
【調子のいいことばっか言ってんじゃねぇ!人間の言葉なんか信じられるか!!】
「サツキちゃん…?」
【いちいち、ムカつく、ムカつくんだよ!善人ぶって、そんな甘いこと言って、結局はおまえも裏切るつもりなんだろ!!】
「裏切らないよ!約束する!」
【うぜぇ、うぜぇんだよ!!】
「サツキちゃん!」
【だからちゃんで呼んでんじゃねぇ!!】
「サツキちゃん…」
【ハァハァ…もういい、おまえには言葉で言った所で理解しないだろう…殺して今すぐに黙らせてやる…】
「やっぱりあなたを救うにはあなたを倒すしかないみたいだね…」
深呼吸をしたら、優梨は本気の目になった。