129話 アイルの決意とアーノ大尉の暗殺。
優梨達が寝ている頃、アイルは神殿に呼ばれていた。
「えっ!サツキという少女の過去がわかったんですか!?」
『はい。つい先程、トキ村の魔族の城に潜入してくれている、リリカさんから報告があったみたいなのです。』
「アーノ大尉、いいえリリカさんが!魔族の城に潜入してくれているんですか!」
『ええ。優梨さん達が危ない目に合わないように少しでも魔族達の情報を天界に伝えたいと自らお願いしてきたみたいで。』
「そうだったんですね?」
(アーノ大尉。それほどまでに優梨さん達のことを思ってくれていたんですね。)
『彼女には感謝しなくてはなりません。』
「それでサツキという少女とは何者だったんですか…?」
「それはボクから教えてあげるよ?」
後ろを振り向いたら、セーナが居た。
「セーナさん!」
「やぁ。アイル君。元気そうで何よりだ。」
「どうしてセーナさんがリリカさんのことを…?」
『あれっ?知らないのかい?」
「何をですか…?」
「おかしいなぁ。閻魔大王のエミリ様は手紙でセーナ君のことを知らせておくよ!って言ってたんだけどな…?」
『ふっふ。きっと書き忘れたのでしょう。アイルさん、セーナさんにはリリカさんを異世界に人間として再召喚して頂いて、そのままサポートをお願いしているんですよ。』
「そっそうだったんですか!何も知りませんでした!すみません!」
「アイル君が謝ることじゃないさ。これから同じ世界を救いたいと尽力する者同士、より一層、ボクらの仲を深めようじゃないか。」
セーナは凛々しい表情でアイルに顎クイをした。
「そうですね!より一層、仲良くなりましょう!」
「ハハハッ。相変わらずアイル君には敵わないな?」
「私、おかしなことでも言いましたか…?」
「いいや、気にしないでいいんだ。リリカさんが報告してくれたあのサツキって子の過去について聞きたかったんだよね?今、聞かせてあげるよ。」
セーナはアイルにリリカからの報告を話した。
「そっそんな…あの子にそんな悲しい過去があったなんて…?」
「ボクもその子が可哀想に思ったよ、それに報告してくれたリリカさんもどこか切なさを隠してるように話していたのを感じたんだ。」
「リリカさんもですか…」
『アイルさん、セーナさん。あなた達はサツキという子の過去を聞いて、これからどう行動するのおつもりですか?』
「ボク、セーナは守護七天使の一人です。召喚したリリカさんを全身全霊でサポートするのが使命だと心に誓っています。ですからサツキという子が魔王達の味方を続ける以上はいずれ戦わなくてはならないと考えます。」
「セーナさん…」
「ごめんよ。アイル君。確かにその子は可哀想だけど、ボク達、守護天使の使命はあくまで召喚した救世主をサポートすることで、魔王達を倒して見守る世界を平和に導くことだと思うんだ。」
「そうですよね…」
(セーナさんの言う通りだよね…だけど…優梨さんだったら…)
『アイルさんはどう考えていますか?』
「私はサツキという少女を救えるものなら、救いたいです。」
「それが君の答えなのかい?」
「はい。話し合えばきっと解り合えるはずです。」
『ですがアイルさん?それは話し合いに応じた場合の話です。聞く耳を持ったなかった場合はどうするのですか?』
「もちろん…話し合いに応じてくれなくて、戦うことになる可能性は十分あります…でも、その時は戦えばいいんです!」
「それじゃあ、ボクの考えと変わらないんじゃ?」
「私は信じているんです。優梨さんは天使の術を使わないで、諦めずに想いを伝えて、閉ざしていた敵の心を救ったことがありました。」
「アイル君、それって…?」
「あの人はスキルだけじゃなくて、天使の私達でも持ってない不思議な力があるんです。だから…」
「フッフ。ハッハッハッ。」
「えっ…?」
「参ったよ、ボクの完敗だ?」
「完敗ですか…?」
「だってリリカさんと同じこと言ってるからさ。」
「リリカさんが同じことを…?」
「きっとあの優梨って子なら、サツキって子の心を救えるはずだってね。」
「リリカさん…」
「申し訳ありません。女神様。さっきの考えを訂正していいですか?」
『はい。よろしいですよ。』
「アイル君とリリカさんと同じくサツキって少女の閉ざした心を優梨って子が救い出せると信じたいと思います。」
「セーナさん…」
「まぁ本当はボクもサツキって子があまりにも可愛いから、救ってあげたいなって思ってたんだよ。」
「そうだったんですか…?」
『ふっふ。セーナさんらしいですね。』
「女神様に言われると照れますね…」
『お二人の思ったようにやってください。』
«ありがとうございます!»
その後、アイルを部屋に戻したら、女神はセーナにもう一つの重要な話をした。
「なるほど…つまりボク達、守護天使のように召喚術を唱えられる何者かが、あの異世界に現れた可能性があると仰るんですね?」
『ええ。まだ絶対とは言えませんが、サツキという子のスキルは恐ろしいほど殺しに特化していて、どうしても天界の者が与えたとは思えないのです。』
「言われてみればそれもそうですね…何かボク達の知らない事態でも、あの異世界で起きているのでしょうか?」
『そうかもしれません、なのでセーナさん。魔族の城に潜入しているリリカさんなら、何かそれに関する情報が手に入れられるかもしれません。それも出来れば調べてもらいたいと伝えてくれませんか?』
「分かりました。伝えておきますね。」
『よろしく頼みましたよ。』
だがしかし、セーナ達は知らなかった。時を同じくしてリリカがブラッド大佐のあの部下に追われていたことを…
「ウフフッ。待ちなさい?私から逃げられると思ってるのかしら?」
「シャドウ・スピア!」
「それっ。あらよっと。そんな遅い攻撃、私には全然、当たらないわよ?」
黒い翼を広げて飛んで来るウフ大尉はリリカの影の攻撃を躱った!
「あなた、私の存在に気づいてたんですね?」
「ウフフッ。ほんの一瞬だけど。サツキ大尉の部屋に入った時に林へ逃げるあなたの姿が窓から見えたのよ。」
「迂闊でした…深夜にあの子の部屋に誰かが侵入してくるとは思ってなかったもので…ですが、なぜ仲間を呼ばないで、あなた一人で?」
「ウフフッ。あなたみたいな絶世の美女を見たら、独り占めしたくなるに決まってるじゃない。」
「何ですか、その理由…?」
「地下の牢獄に閉じ込めて、私がたっぷり拷問してア・ゲ・ル♡」
「やはりそういうことですか、私を拷問して、誰の差し金なのかを聞き出したいんですね?」
「あっもちろん♡今すぐに情報を喋ってくれて、私のペットになるなら拷問したりしないのよ♡どうかしら♡」
「お断りです。」
「ひどい〜!それなら捕まえて、拷問した後、血を全部、吸っちゃうんだから〜!」
「そう簡単には捕まりませんよ。」
そしてリリカは森の奥にある洞窟内に入った。
「ウフフッ。追い詰めたわよ?この洞窟は進んでも出口はなく行き止まりなの。隠れてないで大人しく投降しなさい?可愛い獲物ちゃん?」
「逃げるつもりなど最初からありませんよ?」
「えっ…?」
影になって潜んでいたアーノ大尉はウフ大尉の後ろから現れて、そのまま背中をナイフで刺した。
「ガハァッ…追い詰めたと思ったら…罠だったのね…?」
「あまり城の近くで大事にすると、城での潜入がしづらくなる可能性があるので、人気のないこの場所にあなたを誘導したまでのことです。」
「ハァハァ…まんまと…のせられちゃったのね…」
「あなたに何の恨みもありませんが、私の存在を知られた以上、あなたにはここで消えてもらいます。」
「ハァハァ…じゃあ、最後にキスして…?」
「するわけないでしょう。」
「フッフッ…本当につれない人ね…でもそんな強気な感じがゾクゾクしちゃう…」
ウフ大尉は興奮した表情を見せた後、力尽きて倒れると、砂になって消えたのだった。
(優梨さん達を守るためになら、 私は潜入でも暗殺でも何でもしてみせる…)
アーノ大尉は外へ出ると血まみれの手を月にかざした。