127話 サツキの過去とウフ大尉。
ボク、淡井紗月は二年前にこの異世界に召喚された人間だった…
誰に召喚されたのかは覚えていない…まるで記憶が意図的に消されたように曖昧になっていた…
でもそんなことはどうでもよかった…ボクは違う世界に行きたいとずっと思っていたから…
元いた世界に未練なんてない…だってボクはいらない子だったから…小さい頃から暗い性格で、友達どころか喋り相手さえ居なかった…だからよく学校をズル休みして、部屋に引きこもってゲームばかりしていて、そんなボクに両親は中学に上がった頃から、愛想尽かしたように構わなくなった…こんな世界にボクの居場所なんてないんだ…だからどこか違う世界に行きたいって、いつも願っていた…そしたらどうだろう、その願いが叶った。ある朝、目覚めるとまるでゲームに出て来そうなこの世界に来ていたんだ。ボクは異世界を救うために召喚された主人公に違いない、そう考えたら嬉しくなった。これからが本当の自分の人生の始まりなんだと。でもその期待はすぐに不安に変わった…なぜなら最初、いくら試してみても何も出すことが出来なかったからだ…"もしかして、能力を与えられてない…?"呆然と、森を彷徨っていたら、遠くから人の叫び声が聞こえてきた、ボクは急いで声がする方へ行ってみると、そこには大勢の人が乗った馬車とそれを囲むように狼みたいなモンスターの群れが見えて、状況はすぐに理解出来た…でも何の力も出せないボクじゃ助けられない、悔しいがその場を離れようとした。そしたら次の瞬間、誤って小さい子が馬車から落ちたんだ。ボクは突然の事に我を忘れて、狼の群れの中を突っ切って、腕や足を噛まれながらもその子を抱きかかえると、馬車に乗っていた大人に渡した。よかった、助けられた。だけど、その行動をボクは後悔することになる…なぜなら誰も傷だらけのボクを乗せようとする素振りをせず、あろうことか、突き飛ばして、馬車はそのまま走り去った…簡単な話だ、ボクは逃げるための囮にされたんだ…そう絶望しながらも、噛みついてくる狼達を振り解いて、必死に逃げて草むらに隠れた…どれだけ噛まれたかわからない、体中の噛み傷から血が流れていて、意識が朦朧としていた…ボクは死を覚悟しながら、強い怒りと憎しみに支配された…"人間なんか、二度と信用しない、助けたりもしない、ボクは絶対に人間を許さない!!"泣きながらそう叫んだ、するとそれに反応したのか、脳内に自分のスキルの名前が浮かんだんだ…そのスキルの名はDARKスキル、"すべてを殺せる者"、どうやらこのスキルは名前通り、想像するだけで、殺傷の能力の高い武器を生成したり、殺すための術を唱えられるようだった…ボクは
さっきの狼達に見つかると、不思議と恐れがなく前に立ち、術で狼達の身動きを封じたら、生成した大釜で軽々と首を刎ねていった…それではっきり理解したんだ…ボクは世界を救う主人公なんかじゃない、その逆の存在なんだって…すべての狼達を殺した後、ボクは血まみれの手を見て、泣きながら笑い続けた…ずっと、ずっと…
「はっ!」
ベッドから起き上がったサツキは怖い夢でも見たように大量の汗をかいて青ざめた顔をしていた。
「嫌な夢を見ちゃったな…」
『あらあら。じゃあ、私がいい子いい子してあげようか?』
「なっ!?」
「きゃっ。」
サツキは耳元の囁きに驚いて、瞬時にベッドから離れるとスキルで銃を生成して構えた!
「おまえは確か、ブラッド大佐の部下のウフ大尉だったよね!」
「そうよ。名前を覚えてくれて嬉しいわ。」
「どうやってこの部屋に入ったんだ!扉にはちゃんと結界を張っていたはずだよ!」
「ウフフッ。駄目よ、あんな弱い結界で油断しちゃ。今度から強い結界にしなくちゃね。」
「それはアドバイスどうも?こんな夜遅くに部屋に侵入して何のようなのかな?というか寝込みを襲うなんて卑怯じゃない?」
「ペロリッ。だってあなたあまりに美味しそうですもの。我慢できなくて。」
「そんなにボクって、血が美味しそうに見えるかな?」
「血もそうだけど。その女体も。」
「えっ…?女体…?」
「ペロリッ。私、女の体が大好きなの。あなた可愛いし。タイプよ。」
「可愛いと言ってもらえるのは嬉しいけど、でもあなたとそういうことするつもりないよ!」
「ウフフッ。力づくでもかしら?」
「ストップ!近づいたら本気で撃つよ!」
「銃なんて怖くなんかないわ。」
「銀の弾丸でも同じことが言えるかな!」
「あら。弱点がわかってるのね?仕方ない。今日は諦めるわ。」
「そっそう…」
「でも100%諦めた訳じゃないから。覚悟しててね。チュッ。」
ウフ大尉はサツキに投げキッスをして部屋から出た。
「あの人…すごいな…」
そしてサツキを調べているアーノ大尉はというと…
(ええ、さっきまで彼女の部屋に忍び込んで、術で夢に潜って過去を見ていたのですが、邪魔が入りました。なので見た部分だけ伝えます…)
アーノ大尉は暗い表情をしていた。