126話 サツキと人間の少女。
優梨達が新たな仲間ドーラを加えて、トキ村までの旅路を再び歩き出した頃、すでにトキ村の魔族ブラッド大佐の城にサツキ大尉が到着していた。
「初めましてだね、ボクはキル少将の部下のサツキ大尉だよ。」
「これはこれはサツキ大尉!遠路遥々よくここまで!あなたのことはキル少将から聞いています!とても優秀な部下だと!」
「それはどうも?」
(こいつがブラッド大佐か?)
「可愛い人間の子ね。血を吸っちゃいたいわ。」
「そうだな、すごい魔力を感じる、オレも血を吸いたいぜ。」
「拙者もでござる、ジュルル…」
「こら、お前達、よさないか!ブラッド様の客人だぞ!」
「だな、たとえ本来は我々と戦うはずの人間でも客人は客人だ。」
「きさまは空気を読め、空気を!」
「部下が失礼を申し訳ありません!あなたほどの方が我々に味方してくれるなら、恐れるものなどありませんな!」
「まぁね。」
(へらへら、ヘコヘコして、弱そうだな?本当に魔族なのか?)
「お疲れでしょう!今、城の者に部屋を案内させます!君、サツキ大尉を部屋に案内しなさい?」
「わっ…私ですか…?」
「早くしたまえ?」
「ひっ!はっはい、こっこちらです…」
怯えた表情をした人間の女の子に部屋まで案内してもらうことになった。
「もっもうすぐで…お部屋です…」
「あなた歳はいくつ?」
「14です…」
「ボクより3歳年下か、名前は?」
「ルアです…」
「ルアね、あなた達、人間だよね?どうして、魔族の城なんかにいるの?」
「私達はトキ村の住人で、ブラッド大佐の奴隷として、働かせてもらっているんです…」
「奴隷として働かせてもらってるか、その額の紋章は何なの?」
「ブラッド大佐の呪いです…逆らったりしたら、呪いが発動して、命を落とすんです…」
「なるほどね?」
(あのブラッド大佐とかいう魔族、何か隠してそうだな、警戒しておくか。)
「着きました、お部屋です…」
「ここね、ありがとう、君、もう戻っていいよ。」
「あっあの!」
「んっ?何?」
「私を…ここから助け出してくれませんか…?」
「なぜ?」
「実は私は…村を襲わないことを条件に生贄として差し出された者なんです…」
「生贄?」
「はい…ブラッド大佐は月に一度、村を襲わない条件として若い娘の生贄を一人、要求してくるのです…それに私は選ばれて、この城に連れてこられました…」
「なるほどね?」
(まぁ、そうじゃないかとは思ってたよ。トキ村は魔族が支配してるはずなのに、村人達が平然と暮らしていたからね。)
「だから今から一週間以内にブラッド大佐から血を吸われて殺される運命にあります…でも、そんなの嫌なんです!私は生きたい…生きて家族と…友達に会いたい…」
「家族と友達に…」
「どうかお願いです!!ここから助け出してください!!」
「あなたがどうなろうと知らないよ。」
「えっ…?必死に助けを求めていてもですか…?」
「ボクは人間の味方は絶対にしないから。」
「そっそんな…」
「君がボクに助けを求めたことはブラッド大佐には黙っててあげるから、お仕置きとかはされないはず、その代わり二度と助けを求めないで、いいね?」
「ひっひどい、あなたは人間じゃない!!悪魔です!!」
涙を流して叫んだら走って行った。
「人間じゃないか…そうかもね…」
扉を閉めると膝を抱えてうずくまった、そんなサツキ大尉の姿を遠くから見張っている人物が居た。
(はい、サツキという少女が何者なのか、分かり次第、情報を伝えます。)
(無茶はしないでね?リリカさん?)
(ご心配には及びません。では…)
それは元アーノ大尉こと、リリカだった。
「ユリさんのお役に立たなくては…」
そしてブラッド大佐達はというと…
「ブラッド様、よろしいのですか?あの憎きキル少将の部下でましてや人間の小娘なんぞに腰を低くして、手厚く歓迎して?」
「ブラッド様にしてはめずらしいわよね?」
「ええ、そうでござるな?」
「ああ、確かにな?」
「ブラッド様には何か考えがあられるのだ、そうですよね?」
【ソード大尉の言う通りだ、我には考えがある。】
「やはりそうでしたか。」
「くっ、いい気になりよって!それでブラッド様、その考えとは一体…?」
【いずれ村にやって来るソノサキユリという人間の娘はすでに大佐を2人も倒している、正直、我々が戦っても倒せるかどうか分からん。】
「確かにそうですな…?」
【しかしあのサツキという娘は我でも驚くぐらいの魔力量を感じた、奴が戦えば、相打ちぐらいは出来る可能性がある、そうなれば、弱った2人から血を吸うことなど容易いであろう?】
「そういうことでしたか!確かにそうすれば我々はリスクを負わずに脅威も退け、さらに強い魔力を手に入れられるわけですね!流石はブラッド様、お見事な考えです!」
「それはいい考えだ!」
「拙者もそう思うでござる!」
「そうね、楽に越したことはないもの。」
「自分は戦ってもいいと思っていましたが、ブラッド様の考えに賛成しておきます。」
「かっこつけよって。」
【ハッハッハッ、キル少将、きさまの優秀な部下の血をありがたく頂くぞ?そしておまえ達、魔族四天王の強さを超えて、我があの愛しき魔王様の右腕となるのだ。】
キル少将はワイングラスで赤い何かを飲んだのだった。