123話 ヴァンパイア娘に訳を聞いてみた。
«えっ!?この縄で縛られてる子が昨日の優しいお姉さんで、眠ってる時に私達のことを襲おうとしたって!?»
「はい!そうなんです!」
次の日の朝、優梨達は起きてすぐにロリーヌから昨日の出来事を聞いていた。
「本当なの…?どっドーラさん…?」
「チッ、はいはい、こいつの言った通りだよ。私は昨日、おまえらが寝た頃を見計らって血を吸おうとした、これで満足か?」
「血を吸う…?もしかしてあなたは吸血鬼なの…?」
「だったら何だってんだ、あん?」
幼女は優梨を睨みつけた。
「あはは…昨日の優しいお姉さんと同一人物だとは思えないぐらいガラがわるいね…?」
「けっ、わりぃかよ?」
「悪いとは言ってないけど…?」
(なんか最初に出会った頃のクマ子ちゃんを思い出すのは私だけ…?)
(いいえ。私も思い出してました。)
「この子は昨日の晩御飯に強力な眠り薬を入れていたって自白してました!計画的な犯行ですよ!許せません!」
「そうなの…?あんなに美味しかったのに…?」
「そうだよね…?」
「チッ、褒められたって嬉しかねぇよ。」
「お二人とも何を呑気なことを言ってるですか!こいつはユリお姉様の首筋に噛みつこうとしたんです!一歩間違ったら、殺されてたかもしれないんですよ!」
「そっそうだけど…?」
「確かにそう考えたら許せない気がしてきた。ユリちゃんの命を脅かそうとする奴はたとえチビでも許さねぇぞ?」
「ひぃっ!」
アリスの怒り顔にドーラはビビった。
「まぁ、落ち着いて!私はこうして生きてるんだし!」
「それはそうだけど…?」
「二人とも甘すぎですよ!」
「どっどうせおまえら、私を殺すんだろ?」
「そっそんなわけ…?」
「さぁ、とっとと煮るなり焼くなり好きにしやがれ!こっちは覚悟ぐらいとっくに出来てりゃ!」
「しないから!」
「アタシも流石に幼女姿の相手には…」
「うっうるせぇ!昨日、会ったばかりの奴の言葉なんか信用できるか!覚えてろよ、絶対に地獄に行ったら、おまえら呪ってやるからな!」
「呪うとまで言われたか…」
「やはりこいつ、全然、反省の色が見えませんね!今すぐ一思いにうちがその首を食いちぎりましょうか!ガルルッ!!」
「ひいっ!」
「待って、ロリーヌちゃん!」
「ユリお姉様…?」
「なっなんだよぉ…?そんな脅しなんか…?ちっとも怖くなんかないぞぉ…?」
「その割にはブルブルッと体が震えていますが?」
「うっうるせ…」
「ねえ、どうしてこんなことしようと思ったの?」
「どうしてって…?」
「訳を聞かせてくれないかな?」
「そっそんなの聞いてどうすんだよ…?」
「話によっては許してあげられると思うから。」
「えっ!」
「えっ…?」
「そうだね、話してみなよ?」
「本当か…?」
「本当だよ。」
「二人とも、それは優しすぎますよ!」
「いつまでもこの体制つらいよね。縄、解いてあげるから。」
優梨はドーラを縛っていた縄を解いてあげた。
「おまえら…」
「ここまでしたんだから、聞かせてくれるよね?」
「わかった、話してやるよ…」
「よかった。」
「もう、仕方ないですね。」
「おまえらを騙して血を吸おうとしたのはあまりにお腹が空き過ぎたからだ…」
「お腹が空き過ぎたから…?」
「ああ、そうだ…」
「お腹が空いてるなら、ご飯を食べればいいじゃないんですか?」
「確かに人と同じく味もわかるし…ご飯を食べることは出来る…でも空腹を誤魔化せるだけで…お腹はいっぱいにはならない…」
「お腹がいっぱいならない…?」
「というより魔力が回復出来ないんだ…ヴァンパイアは人から血を吸うことで魔力を手に入れられる、だから長く血を吸ってないと 体から魔力が減って、空腹みたいな状態が続くんだ…」
「ヴァンパイアって大変なんだね…」
「そうだったんですか…」
「私だって、こんな生き方したくはなかったさ…あの日、あいつに噛まれてさえなかったら…」
「えっ…?あなたは元々、ヴァンパイアじゃなかったの…?」
「元はおまえらと同じ人間だったよ。」
「そうだったんだ…?」
「さっきあなた、あいつに噛まれてからヴァンパイアになったって言ってたけど?一体、誰に噛まれたの?」
「ブラッド大佐って魔族だよ。」
«魔族!?»
「ああ、あいつは約5年前、私が当時、9歳だった頃に住んでいた故郷のトキ村に突然、大勢の部下を引き連れて襲撃してきやがった…」
「アリスちゃん、トキ村って確か…?」
「アタシ達が次に向かう目的地だ!」
「今、地図を確認したら、確かに書いてあります!トキ村の支配者、ブラッド大佐と!」
「じゃあ、ブラッド大佐は次に戦う相手ってことか…」
「今でも覚えてる…魔族達が次々に村の人達に襲いかかって、体が干からびるまで血を吸って殺して回った…あの残酷な光景を…」
「ゴクッ、なんて恐ろしいの…」
「まるで地獄じゃないですか…」
「ぐっ…私の両親も殺された…近くに住んでた親戚も仲良くしていた友達もだ…」
「そっそんな…」
「そして私も最終的に逃げ場を失って、ブラッド大佐に首筋を噛まれた…あの時はもう駄目だと思ったな、自分も殺されるんだと…」
「覚悟したんだね…?」
「でもある意味、私は運がよかったんだ…血を吸われそうになった直後、ちょうどよく朝日が登って、日の光を恐れるブラッド大佐達はその場をすぐに離れたんだ、それで私は血を吸われずに済んだ…」
「日の光に救われたんですね…?」
「けどいつ再び襲われるかわからない恐怖で、私は村から逃げた…必死に…」
「あなたみたいな小さい子が…?」
「だが、森を歩いていて私の体に異変が起きたんだ…背中に蝙蝠みたいな羽が現れて、鋭いキバが生えたんだ…その瞬間、無性に人間の血が吸いたくなった…」
「ヴァンパイアになったんですね…?」
「私は恐怖で震えたよ、きっとあの魔族達のように人の血を吸う化け物になるんだと…怖くなってひたすら森の中を彷徨った…そしたら、この丸太の家を見つけた…誰も住んでない古い空き家だったんだ…
それで今までここでヴァンパイアとバレないように人間としてひっそりと暮らしてきたんだ…」
「5年間も…」
「ずっと一人でですか…?」
「ああ、そうだ…でもヴァンパイアになってから5年間、人間の血を吸わないでいたせいか…等々、魔力が限界を迎えたらしくてな…お腹が急激に空いたような状態になって、理性を制御出来なくて、あんなことをしちゃったんだ…」
«ドーラさん…»
「哀れむのはやめてくれ、お前達の血を吸って殺そうとしたのは事実なんだ…」
するとドーラのお腹が鳴った。
「へへへ…すまん…みっともねぇ音を出しちまって…あっ…」
«えっ!?»
ドーラの姿が次第に消え始めた。
「姿が消えてるよ!?」
「ありゃぁ…どうやら、昨日の変身と戦いで残ってた魔力を使い切ったみたいだな…」
「魔力を使い切ったらどうなるの!」
「たぶん灰になって消えるのかもな…」
「そんなのやだよ!!」
「ユリちゃん…」
「私達、せっかくこうして出会えたのに…そうだ!血をあげればいいんだよね!私の血をあげるよ!」
「仕方ない、アタシもあげるよ。」
「アリスちゃん…」
「だからそんな哀れみはいらねぇって言ったろ…?
消えるなら消えるで仕方ねぇさ、これで人間を襲わなくて済むんだから…」
「駄目だよ、そんなの!!」
「魔族にやられたまんまで悔しくないのか…?」
「悔しいさ、でもいいんだ。」
「いいはずないよ…」
「最後に会えたのが…おまえらみたいな優しい人間でよかった…ありがとう…」
『バカか、おまえは!!』
«えっ!?»
ロリーヌは大声で怒鳴った!