96話 2つの計画。
優梨とアリスは隊長のマーガレットにサウスに来た理由を話した。
「なるほどね。ユリさんが魔族に命を救ってもらって、そのお礼が言いたくて、このサウスまで来たと…」
«はい…»
「事情はよく分かりました。何か手助け出来ることがあったら、いつでも頼ってください。私で何かお役に立てることがあったらするので。」
「えっ…?」
「いいんですか…?魔族を退治しに来たわけじゃないのに…?」
「確かに魔族を退治しないで、お礼が言いたいというのは前例がなくて、前代未聞なことかもしれません。」
「でっですよね…」
「ユリちゃん…」
「ですがあなた達のような考えがあっても私はいいと思います。魔族と人間の間に争い以外の道があるなら、それを私は見てみたい。」
«隊長さん…»
「応援してますから。頑張ってください。」
«ありがとうございます。»
「そういえば、今夜、泊まる宿は決まっているのかしら?」
「あっいえ。まだ街に着いたばかりなので、これから泊まる宿を探すつもりだったので。」
「だったらちょうどよかった。このギルドのすぐ近くに私の家があるのよ。泊まりに来なさいな。」
「そっそんな、いいんですか?」
「話を聞くに例え襲ってきた魔族は悪い魔族じゃないとしても、命を狙われたのは事実なわけでしょう?再びあなた達を襲撃に現れる可能性もあると思うのよ、そうなるともし民間の宿に泊まったら、一般人にも被害が出るかもしれない、そのリスクをさけるために私の家に泊まらせた方がいいって思ったの。どうかしら?」
「確かにそれもそうですね、そうさせてもらう…?ユリちゃん…?」
「そうだね…?お願いしてもいいですか…?」
「交渉成立ね。ララもきっと喜ぶわ。」
「隊長さんの家にララちゃんも住んでるんですか?」
「ふっふ。そうなのよ。ララは私の姉の娘で。上京してまだ3ヶ月でね。一人暮らしは難しそうだから居候させてあげてるのよ。」
「そうだったんですね。」
「つまりララちゃんは隊長さんの姪っ子か。」
「私にとってあの子は妹みたいな存在よ。二人ともララちゃんと仲良くしてあげてね。」
「もちろんです。」
「ララちゃんはもう私達の友達だと思ってます。」
「それを本人が聞いたら喜ぶでしょうね。今、ララを呼んで来て家まで案内してもらうから。少し待っててね。」
«わかりました。»
すると部屋から出た途端、まるで別人のようにマーガレットの目つきが鋭くなった。
(まさかこんな早く我が計画を実行する前にあのザクロ大佐を倒した例の二人が現れるとはな…
まだ奴らもさっき会ったあの双子姉妹も"我の存在"には気づいていなかったようだが…さて、あの二人どうするか…油断した所を殺すか、それともあの術で魂を奪って操り人形にでもするか…まぁいい、どちらにせよ、我の計画の邪魔だけはさせぬぞ…この街はレア大佐ではなく我が支配してみせる、必ずな…)
廊下に映るマーガレットの影には頭にはない角があった。そして、レア大佐の魔族の城でもある動きがあった。
「お姉様、本当によろしいんですか…?ソノサキユリ達はサウスの街にやって来ているんですよ…?このままでは城に攻めに来るのも時間の問題…なのにこちらから攻撃をしないなんて…?」
「それでいいのよ。もしサウスの街を戦場にしたら、街の人達が可哀相じゃない。それは私は望んでないもの。」
「お姉様…」
「私達が魔族になったのは人間を支配したいわけじゃなく、ただ居場所が欲しかっただけ、この作り上げた城でメイドちゃん達と楽しく暮らしたいって願いだけだったはずよ。そうでしょう?」
「そうでしたね…」
(お姉様の言う通りだ…私だって出来れば人間と戦いたくない…でも人間達には敵としてこの城を攻めてくる、だからこの城を…幸せを守るためなら、私は人間をあのソノサキユリを殺してでも絶対に…)
「メグたん。聞いてるかしら?」
「なっ何ですか?」
「メグたんにお願いしたいことがあるのよ。」
「お願いですか?」
「今から手紙を書くからそれが出来次第にソノサキユリちゃん達の所まで届けてもらいたいの。」
「あの二人に手紙ですか…?一体、どのような内容で…?」
「お茶会の招待状よ。」
「お茶会ですか…お茶会…お茶会…お茶会!?本気で言ってるんですか、お姉様!?」
「だって二人はこの城がどこにあるか知らないじゃない?だから城の案内図も添えて、お茶会に招待してあげようかなと思ったのよ。」
「ハァ…城の案内図まで…?一体、何を考えてるんですか…?」
「さっき言ったじゃない?私は戦いがしたいんじゃないの。もしその子達が私達と本気で戦う気がないなら、楽しくお茶会をして、"あの人"みたいに仲良くなれるかもしれない。」
「何を呑気なことを…?」
「あなただってそう思ったから。瀕死のソノサキユリちゃんを回復させてあげたんじゃないの。」
「なっなぜそのことを!?」
「ふっふ。さ〜てなぜでしょう?」
「お姉様…まさか見てらしたんですか…?」
「さぁね。どうでしょう。」
「もう…またからかって…」
「あの子にお礼を言わなくちゃね。」
「わかりました…でもあの二人に戦う意志があると判断した場合は遠慮なく戦いますから、そのつもりで?」
「ええ。もちろんよ。その時は私も迷わず戦うわ。」
「それならいいのですが…」
「そしてあの子達をメイドにするのよ。じゅるりっ。」
「ハァ…」
この時メグ少佐は少しでも姉を見直した自分がバカだったと思ったのだった。