81話 アリスvsリン(前編)
アリス対リンの模擬戦が開始しておよそ5分が経過していた。
「ウォーター・ショット。」
「くっ!」
「ちょこまかと。」
アリスは最初の一撃はくらったが、それから今まで広いバトルフィールドを駆け回ることで、なんとか攻撃を躱し続けていた。
《戦いが始まって5分が経過していますが!アリス選手、リン選手の攻撃を交わすのが精一杯で反撃をするタイミングを掴めていない!このままリン選手の独壇場になるのか!》
「ハァハァ…」
(迂闊だった…彼女はどんな種類の術も唱えられる天才だ…アタシのスキルぐらいリサーチしてるだろうし、炎の弱点である水攻撃ぐらいしてくるよね、反撃のタイミングが掴めない…)
「そこだ!」
「ぐわぁ!!」
「アリスちゃん!!」
アリスが考え事をして、動きが鈍った瞬間を逃さず、リンは肩に水の弾丸をヒットさせた!
「ぐっ…」
「逃げ続けてるだけじゃ勝てるわけ無いでしょう?早く諦めて降参しなさい?じゃないとそろそろ本気でやるよ?」
「降参は絶対に言わないよ!ファイアー・ボール!」
アリスは距離を取って、油断しているリンに向かって炎の玉を放った!しかし…
『ウォーター・バリア。』
リンの水の防御壁の前には通用しなかった。
「駄目か…」
「諦めがわるいなぁ、あなたと私じゃ実力差がありすぎるんだって。少しは理解しろよ、このアホが。」
「ポカーン…」
(それにしてもまさか…リンちゃんがこんなに性格が悪かったなんて…?)
《こちらからは何も聞こえませんが、フィールド上で二人は何か話しているようですね!もしかしたらリン選手が激励の言葉でも言ってあげてるでしょうか!感動ですね!》
«ワァァ!!»
「いいぞー!リンー!」
「流石はリンちゃんねー!」
「みんなありがとう♡」
リンは可愛いポーズを決めながら、お礼を言った。
(あはは…姉さんは戦う相手には容赦ないから…それはないわね…)
ロンは苦笑いをした。
(アリスさん、苦戦してますね…?)
(たっ多分、大丈夫だよ!アリスちゃんは強いから…)
(優梨さん…)
「仕方ない、せっかく見に来てくれてる観客にサービスしなきゃだから、少しだけ本気、出してあげるかなぁ?」
リンは手を前に広げた。
「ウォーター・トルネード。」
リンはフィールド上に大きな水の渦を出現させた!
《なんと大きな水の渦でしょう!リン選手、ついに本気モード突入か〜!》
「なっなんだべ、あれっ!」
「前に聞いたことがある、リンの最強の術の一つ、ウォーター・トルネード。あれに一度、飲み込まれたら、そう簡単には出られない、相手が溺れるまで離さないらしい…」
「恐ろしい術ですね…?」
「はい…」
「アリス…」
「アリスちゃん、絶対にくらっちゃ駄目だよ!!」
「うん!」
「くらいなさい!」
ドォォォ!!と大きな水の渦が勢いよくアリスに迫ってきた!
《アリス選手、万事休すか!》
「ファイアー・ダッシュ!」
すると両足に炎のオーラが現れて、アリスは物凄い速さで移動、大きな水の渦を後ろの岩場に激突させてフィールド上に散らばせた!
「おっおい…今の動き見えたか…?」
「見えなかったぞ…」
「いつあんな遠くまで移動したの…?」
《今のアリス選手の動き見えましたでしょうか…?私には全然、見えませんでした!まっまるで神技のようです!あの巨大な水の渦を躱してみせました!》
«ワァァ!!»
「アリスのやつったら、もう少し早く躱せよな。くらったかと思ったべ。」
「本当だね。」
「いや、まだ油断出来ません。」
«えっ?»
「聞いた話では水の術は…」
「どうですか、少しは見直してくれましたか…?」
「油断しちゃって、馬鹿ね?」
「アリスちゃん、後ろ!!」
「はっ!そうか!」
アリスが後ろを振り向いた時には遅かった!すでに大きな水の塊が寸前まで近づいてきていて飲み込まれた!
〚ゴボゴボゴッ!〛
「アリスちゃん!!」
「あなたも冒険者なら知ってるはずでしょう?水攻撃は一度、散らばってもまた再生して、新たな攻撃に変えられるって、それを忘れるなんて本当に馬鹿ね?」
〚ゴボゴボゴッ。〛
(このままじゃ…息が持たない…)
「これで終わりね?」
「もうやめて!!」
優梨がアリスを救い出そうとフィールド上に近づいた!
《なんとユリ選手!仲間のアリス選手を救おうとステージに上がるつもりか!だがしかしその時点で模擬戦は負けになるぞ!》
「だってさ、いいの?」
「そんなの関係ないよ!!アリスちゃんが苦しんでるのにじっとしてられるもんか!!」
【ゴボゴボッ。】
(ユリちゃん…)
「あっそ、まぁ、私はべつに構わないけどね?不戦勝でも勝てばいいんだから。早くこのくだらない模擬戦終わらせて、こんなクソつまんないド田舎の町から、出たいと思ってたし。」
「今なんて言った…?」
「だって本当のことでしょ?こんなド田舎の町、私だったら命をかけて魔族から守ったりしないよ、アホらしい。」
「許せない!!」
〚アタシも許せない!!〛
「えっ!」
「今の声って!」
〚うおおっ!!〛
するとアリスは全身に青い炎を纏って、水の塊を蒸発させて自ら脱出した!
「ガハッ…ガハッ…」
「なっ何が起きたの…?」
「ハァハァ…この町を侮辱しやがって…」
《アリス選手!危機一髪のところ、どうやったかはわかりませんが!自力で脱出したようです!》
«ワァァ!!»
«やった!!»
クマ子は隣のミノリとミーナはソフィーと手を繋いで喜んだ。
「やるじゃない?流石に驚いたわ、炎の熱を一気に高めて、水を蒸発させたのね?」
「そうだ…」
「それにしても私の水攻撃を蒸発させるなんて相当の力ね?聞いてた通り、今のあなたBランク以上の実力はありそう。」
「すぐにさっきの発言を撤回しやがれ!おまえにとってはこの町が大した町じゃなくても、アタシやお姉ちゃん、町の人達にとっては大事な場所なんだ!」
「アリスちゃん…」
「口調怖〜。別人みたいじゃんか〜。」
「アタシは怒るとこうなるんだ!」
「怒ってるんだ?そうか、そうか。でもランクも下でレベルが弱い雑魚のおまえが私に命令してんじゃねぇよ?」
「今のアタシは雑魚じゃない!!」
「あっそ、ならそれを証明してみてよ?私に勝てたら、さっきの撤回してあげてもいいよ?」
「わかった、勝ってみせる。」
「けど一つだけ言っておくよ。」
次の瞬間、リンはとてつもない魔力を放出した!
「私、まだ実力の半分も出してなかったからね?」
「なんて魔力だ!」
「そんなにすごいの…?」
「ああ!魔族のザクロ大佐を越えてやがるべ!」
「クマ子ちゃんの言う通りなら、やっぱりあのリンって子は噂通り魔族より強いってことね…」
「ええ、そういうことになりますね…?」
「アリス…」
「もう、姉さんったら、本気出すの遅すぎよ?」
「怒らないでってば、今からちゃんと戦うから。」
「絶対よ!」
「心配させちゃってごめんね…?」
「アリスちゃん…」
「アタシ、あの子に必ず勝つから、見てて。」
「わかった。信じてるよ。」
「ありがとう。」
アリスは笑顔をみせると戦いに戻った。
「さ〜て、ロンからも叱られちゃったし、今からは一切手加減しないから、覚悟はいい?」
「アタシも本気でやるから、お互い様だ!」
「だ・か・ら、同格に見てんじゃねぇよ?まぁ、おまえみたいな馬鹿で雑魚には体で教えてやるしかないか?」
「本当に性格がわるいんだね…?」
「とくと味あわせてあげるよ。私の恐ろしさをね。」
リンは可愛いポーズをした。