山神(慈愛?)
センパイっ! どうしたんですか? こんなところで。
何でもない? いやー、そんなことないっすよね?
分かりますよー、私はもう10年は先輩のこと見てるんですから!
ちょっと、ほら、無視しないでください。部室行きましょ? 話を聴いてあげますよ。
“きっと今日は誰も来ませんから”。
きっと吐き出した方が楽になりますよ?
ほら、こっち、ここ、ここに座ってください!
えいっ! 捕まえた。
何をするのかって? 膝枕ですよ、膝枕。
しかもただの膝枕じゃありません。
私お墨付きの高級綿棒の耳かき付きです。
こうして物理的に先輩の弱みを握って、口が硬くなったら拷問してやるんです。
あははっ、そんなに怖がらないで下さい。上手くやりますよ。
ほーら、気持ちいいでしょう?
ところで、今日はどうしたんですか? すっごく浮かない顔でしたけど、あ、もしかしてまた振られました?
えっ、当たり? うわー、傷口に塩を塗ってすみません。
あ、ちょっと帰ろうとしないで下さい! このまま鼓膜を突き破りますよ?
そうですそうです、慰めてあげますから大人しく膝枕されててください。
慰めついでですけど先輩、失恋しちゃったなら次は、私にしません…か? 私なら先輩を捨てたりなんてしませんよ? 絶対に。
ごめん、ですか?
あははっ、これで3回目ですね。先輩は酷い人です。
理由って聞いてもいいですか? 前は教えてくれませんでしたけど、私、外見はそんなに悪くないと思うんです、性格もキツくないですよね…? 何か至らないところがありしたか?
いえ、もう十分傷つけてます。だから今更ですよ、答えて欲しいんです。
…………怖い?
怖いってどういうことですか? 私何かしちゃったりしてましたか…?
分からない? そうですか…。雰囲気、何か2人で居ると体の芯が冷たくなるような気がする……?
え、なんですかそれ、意味分かんないです。
ごめんて、ごめんじゃないです。だってそれはじゃあ、もう無理じゃないですか。
私は本当に先輩が好きなのに、先輩は応えられないんですよね。
ええ、分かってます。分かってますよ、だってそれ、
もう、どうしようもない“畏怖“なんでしょうから。
おっと、危ないですよ、急に身体を起こしたら。私が綿棒を抜いて無かったら大変なことになってましたよ?
ふふっ、そんな震えないで下さい?
お前は誰だ?
もう、本当に酷い人ですね、私は先輩のことが大好きなただの後輩ですよ?
そしてここは、私と先輩が会った初めての場所です。
あ、今頃気付いたんですか?
今日、先輩は私と一緒に部室じゃなくてこの廃神社に来ていたんですよ?
見覚えはありませんか?
ふふ、ですよね? ありますよね。
ここは先輩が小学生の頃迷い込んだ山の奥、とっくに朽ち果てた私の社なんですから。
大丈夫ですよ、そんなに怖がらなくても、別に取って食べたりしませんって。
昔、覚えてますか? 先輩が迷ってこの神社に辿り着いた時、朦朧とした意識しか無かった私に祈りましたよね?
お母さんを助けてって。
可愛かったなー、あの時の先輩!
別にもう信仰を失っていた私にはどうでも良かったんですけどね、ついつい可愛くて、とっくに道に迷ってる自分より母を心配する健気な先輩を、山中で落石にぶつかった先輩の母を、助けてあげました。
祈りを聞き届けてあげたんですから、後は対価をもらうだけです。
別に、あの後すぐに先輩の魂を奪ってあげても良かったんです。
でも、せっかく私が好ましく想うのですから、私のことも想って欲しい、そう思いました。
私にだって乙女心があるんです。
だからこうして人間の振りまでして、中、高と先輩の近くに居たんです。
さて、改めて聞きますよ、先輩?
私と付き合ってくれませんか?
そうですか……、怖気が止まらない。厳しいと。
感謝はしてる、家に神棚を作って祀るから許して欲しい?
あーあ、ホントダメです。ダメダメです。
全然分かってない。
あの日から私はがどれだけ先輩を見てきたのか、想いを重ねてきたのか全く分かってないです。
ですから、分からせてあげます。
分かるようになるまでこの神社から出してあげません。
大丈夫ですよ? しっかり先輩が私のものになったら高校生活も人間社会の生活も送らせてあげます。
もちろん今度浮気して他の女に近づいたりしたら許しませんけどね?
さあ、先輩、愛し合いましょう? 一つになりましょう?
大丈夫です。先輩が私には慣れるまで、私を愛せるようになるまで、いくらでも、永遠に付き合ってあげますよ……。
あえて後輩になったのは彼女の趣味です。多分。




