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人魚モドキ(独白)

ほとんど彼女の独り言。




私は混血。

美しい人魚と醜いスキュラの混血。


お陰様で上半身は美しく、下半身はタコのような醜い化け物よ。


私の両親がどうやって私を産んだのかなんて知らないけど本当に迷惑だわ。


美しい人魚でいられたら幸せで、醜いスキュラでいられたら、きっと美醜の感覚も違っていたのだろうし。


本当、最悪。


だから、半端者の私は美しいものが嫌い。私が惨めな気持ちになるから。


だから、少しだけ美しい私は醜いものが嫌い。私の醜い部分を思い出させるから。


だから、私は愛しい貴方が嫌い。きっと目を覚ませば混ざりモノの、不気味な私を嫌いになるのだから。








はじめまして。こんにちは、調子はどう?


そう、悪く無い? それは良かった。


え? 今がどういう状況かって? 安心して、貴方に危害を加えるつもりは無いのよ。

目が見えないのは私が目隠しをしたからで、手が動かないのも、私が拘束したからだけど…。


絶対に目隠しを取らないって約束してくれたら手の拘束は外してあげるわよ?


そう、約束ね、ありがとう。


それで、ここは何処かって? なんて言うのかしら、私の家ではあるのだけど…、海中洞窟って言えばわかるかしら?


あ、呼吸の心配はしなくて良いわよ、そんなに狭い部屋でも無いし、空気を出してくれる植物もいっぱいあるもの。


大丈夫、怯えないで。ほら、私の手を取って。

落ち着いた?


そう、良かった。


え? 私? 

私は……、人魚よ。人魚。


船から落ちて溺れてたあなたを助けてあげたの? 覚えてない?


そう……、直前の記憶が無いのね。まあ、あなたの船……えっと、肉食の魔物に襲われてたみたいだからね、仕方無いわ。


ありがとう?

ううん、気にしないで。



それじゃあ、どうしようかしら。


近くの陸までなら送ってあげるけど、それでいい?


ええ、いいわよ。お礼も大丈夫。

でも、あなたを陸に戻して、私が海の中に消えるまで、目隠しは外さないでね?


約束よ、それじゃあ、出発。






私はそんなに親切じゃない。


優しくしてくれた人魚たちも嫌い。せめて中身は汚ければ、と私の劣等感が刺激されるから。

私に好意を向けたスキュラも全部嫌い。人魚には求愛なんてしないのに、私を美しいスキュラだと言うなんて、許せない。


それに嫌いなのは彼らの姿や性格だけじゃない。

特に、一番嫌いなのは歌。


人魚の歌が嫌い。上半身は同じなのに、何故か私にはあんなに、世界に祝福されているような綺麗な声が出せない。


でも、だからこそなのかもしれないわ。貴方の歌に惹かれたのは。


初めて見たのはボロくて大きな船の上。聞き馴染みのない歌に惹かれて聞きに海面近くまで行ってみた。


人間を見るの初めてじゃ無かったけど驚いたわ。決して美声では無かったけど、華々しい英雄譚を、悍ましくとも聞かずには居られない戦禍の中の恋を、激しく訴えかける貴方の歌は、私に衝撃を与えたの。


歌はひたすらに澄んだ美声と、海神様の祝福で出来ているものだと思ってた。


けれど貴方の歌は違った。


荒削りだけど力があって、私も努力すれば貴方のように歌えるようになるのか分からない。


けれど、貴方はどうしようもない程に忘れられない存在になったの。




次に貴方を見たのは暫くしてから、今度はもう少し小さい船だったわ。だから遠くからでもちゃんと顔を見れた。


あんなに素晴らしい歌声を持つ人はどんな顔で歌うのだろうか、とても気になったわ。


でも、その表情は想像と違ってた。


青ざめて、涙を堪えるようにしていたの。


私は理解できなかった。こんなに良い歌が歌えるなら何にでも成れるでしょう? 何処にでも、誰にでも認められるでしょう? 


私よりも幸せなはず。


それなのに不幸そうな顔をしているのが許せなかった。


でも、目を離せなくて、どれくらい見つめていたのかは分からない。


そんな時だった。彼の船が襲われたのは。


襲ったのは前に私に求婚してきたスキュラだったわ、嫉妬なのかしら。醜い。


でも、その愚かさのおかげで海に落ちた貴方は私の手の中に収まった。


貴方を無理矢理起こして、歌について聞いてみようか、それともこのまま不快感と一緒に殺してしまおうか、色々悩んだけど、感情がぐちゃぐちゃで結局何もできなくて、陸に返してあげたわ。




でも、後悔してるの。

もし、貴方が私のものになったら、もし、貴方が私を認めてくれたら、どれだけ幸せになれたのかなって。結局聞きたいことも聞けなくて、私を見せることもしなかったのだから。


せめて歌を聴いてほしかった……。

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