魔女(アンデッド従者にされる)
あ、目が覚めたかしら?
体の調子はどう?
え? ここはどこって、私たちの家じゃない。どうしたの?
記憶が無い? え、本当に? 本当に私が誰かもわからなくなったってこと?
……、そう。いえ、驚いたけどあなたはそんな嘘を吐く人じゃないし、本当なのよね。
ううん、謝らなくていいの。仕方の無い状況だったんだもの、きっとその影響よ。
説明? ええ、そうね。
私とあなたは、その、えっと、恋人同士で…。
ちょっと何よその顔、驚いた? まぁ、何も分からないあなたからすれば驚いたかもしれないけど、男女が同じ家で暮らしてるのよ? 兄妹でもなければ、あとはそうでしょう?
えっと、それで、私たちは恋人兼冒険者仲間としてダンジョンに潜っていたときに、貴方が重症を負って、逃げてきたってところね。
ん? ああ、大丈夫よ。安心して、あなたの傷は魔法で治療済みよ。
あっ、急に立っちゃダメじゃない、もう。まだ病み上がりなんだから、ほらバランスを崩して…。暫くは看病してあげるから大人しくしていなさい。
…………どうしたの? なんで急にそんなことを聞くの?
この部屋に灯りがあるかって? そんなの見たまま……、あ、しまった。
ふふっ。
そんなに怯えなくても大丈夫よ。ちゃんと答えてあげるわ。
…、無いわ、この部屋に灯りなんて。
うふっ、不思議? 真っ暗なこの部屋の中でも辺りを見えてしまう自分の目が。
何も驚くことはないわよ。今のあなたはアンデッドモンスター、わたしのためだけの忠実な従者なのだから。
「止まれ」
そうそう、そのままそのまま。暴れちゃだめだよ。
大丈夫、心配しなくてもあなたを普通のアンデッドのように使い捨てになんてしないわ。
でも残念、せっかく記憶を奪ったんだから、初々しいあなたを堪能したかったのに…。
まぁ、でも何もわからなくて怯える続けるあなたを弄ぶ趣味は無いから記憶は返してあげる。
ほら、ちょっと下を向いて。
チュ。
どう? 思い出した?
ふふっ、そう。
ごめんね? 私はあなたの恋人じゃなくて…、敵。
あなたと何度も戦ってきた、幻惑と不死の魔女、その人よ。
あなたに冒険者仲間なんて居ないわ。というかあなたそもそも冒険者じゃなくて騎士でしょう?
そんなに睨まなくても…。別に敵意なんて無かったのよ。
むしろ、私は好ましく思っていたの。
知らない人たちの心の平穏のため、国の命に忠実であろうと見栄を張り、勝てる見込みも無い私に何度も何度も何度も挑む姿には心を打たれたわ。
始めはあなたが生き残ろうと、死のうとどうでも良かったからテキトウにあしらったわ。
でも、いつからか、あなたが会いに来てくれるのを心待ちにしていたの。
本当よ? 嘘じゃないわ。
でも騎士としての在り方に忠実なあなたはきっと私が殺さなくてもどこかで早死にしてしまうわ。
だったら、私が殺してあげる、私があなたを奪って、蹂躙して、犯して、私のものにしてあげる。
愛してるわ。
おかしい? 狂ってる?
ふふっ、確かに。自分を殺しに来る人を愛してしまうなんておかしいのかもね?
でも、いいじゃない、魔女だって孤独を感じるの。
それを埋めてくれた人がいれば、しかもそれが私の琴線に触れる騎士様だったなんて最高でしょ?
だから、愛してる。…愛して。
どうせもう私が居なければまともに動くこともできない体なんだもの、これからは私に尽くして?
そうしてくれるなら、元々街の人たちに危害なんて加えてなかったけど、彼らが安心できるように、さらに人里離れた場所へ引っ越すわ。
もちろん、あなたも一緒に。
素敵でしょ?
抵抗なんて今だけよ。ふふっ、すぐに心も私のものにしてあげる。
ああ、楽しみね!