迷宮精霊(徒労)
「た……、助けて。ね、え、聞こえ、て……る? 先生……。ダンジョンで……迷って……助っ…………」
あー、ふふっ。やっと来てくれた。
そうだよね、最初からこうすれば良かった。
優しい先生は、ダンジョンで迷ったって生徒から魔法通信を受けたら、助けに来てくれるよね。
それじゃあ構造をちょっと弄って、ふふっ、これで魔法が苦手な先生は脱出できないし、助けも来なくなっちゃった。
今すぐ先生に会いに行くのもいいけど……、折角だし、先生が私の為にどれくらいの頑張ってくれるか見てみようかな……。
おー、すごーい。流石、剣だけでストーンゴーレムを倒しちゃうなんて。
でも、大分疲れて来ちゃったかな?
ふふっ、そんなに私を助けたいのかな?
うふ、ふふ。愛を感じるよ。嬉しい……。
あ、危ないっ! チッ、ダメ狼が。あんなに深手を負わせちゃって……。近くの宝箱に治療薬を入れないと…。
あのフロアのボスは……。処刑しちゃお。
あ、でも、あんなになってもまだ進むんだ。
あはっ! ヤバい、メッチャ興奮して来た…。
好きだよ……、先生。
せーんせい。
最下層への到達おめでとうっ!
あ、そんな私を急に抱きしめちゃって、
……心配した?
ごめんなさい、どうしても欲しいものがあったの。
ううん、気にしないで、もう手に入るから大丈夫。
それより、こんな所まで助けに来てくれてありがとう。嬉しいよ。
ふふっ、格好良い。
え? 帰る?
あー、そうだったよね。
えっとーね……。ごめんね、先生?
私たち、もう帰れないの。
違うの、怪我してるとかじゃ無くて、
こういうこと。
あははっ! 驚いた? 驚いたよね?
ふふっ、ごめんなさい。急に羽が生えたり、髪色が変わって驚いたよね?
私ね、人間じゃないの。先生の剣術教室に通ってたのは、退屈凌ぎの人間の振りの中で気紛れに始めたただのお遊び。
私はね、このダンジョンの主、迷宮精霊種。
俗に言う、ダンジョンの精霊ってやつなの。
あ、だめっ! 離さないで、抱きしめたままでいてっ! 私、先生のことが……、あわッ!
……ちょっと酷いじゃない、急に投げるなんて。
何? 斬らないでやるから目的を言え? 俺を騙してどうする気だって?
ふふっ、今それを話そうとしてたのに。
先生、改めて言うけど、私、先生のことが好き。
ここで一緒に暮らして欲しいの。
冗談じゃないよ? 本当、本気だよ?
そう……、嫌、なんだ。
ふーん。こんなに私は想ってるのに、先生は私を求めてくれないんだ。
じゃあ、……いいよ、知らない。
もう、普通に求めてくれても知らないから。
勝手にしたら? バイバイ。
なんて、諦める訳ないよ。
ふふっ、最下層に一人で置き去りにされた先生は無事に脱出できるかな?
あ、困ってる困ってる。
そうだよね、行きは手加減してあげたもん。
上位悪魔も、劣化竜も出して無かったものね。
んふっ、でも安心して。絶対殺したりはしないよ?
私のダンジョン、私の中で、私に縋って、私を求めて、私のモノになりたいって、必死に懇願してくれたら、助けてあげるからね?
やっぱり先生格好良いなー。流石私の先生、すっかり消耗してるはずなのに、最下層を脱出しちゃったよ。
でもね、行きはショートカットさせてあげたけど、あと69階層、頑張れるかな……?
うわぁ、まだやってる。
すごいけど、もう、我慢できなくなって来ちゃったなー。
ん? あ、ちょうど水…。無くなっちゃったの?
うふふ、そっかそっか。
じゃあ、差し入れ、してあげようかな。
近くの宝箱に、薄めた魅了の魔法薬をセットして……、ふふっ。
あ、とうとう倒れちゃった。そうだよね、もう4日もダンジョンの中だもんね。
ちょっと、助けてあげようかな?
『せーんせい、大丈夫? あはっ、まだそんな悪態吐けるんだぁ、流石、私の先生。
でも傷ついちゃったなー。ちょっと助けてあげようかなって思ったのに、やーめた。
どうしても助かりたくなったら、私に謝って、懇願して、私のモノになりたいーって、心から叫んでね?
ふふっ、迷宮精霊の手になんて落ちない?
生徒たちが待ってる?
うーん、先生のそういところも嫌いじゃないけど、私以外の子達のために必死になるのは減点かな。
まあ、じゃあ、もう薬で頭フラフラで、体も動かないだろうけど、頑張ってね?
私、傷つけられた分、ちゃんと償ってくれないと助けてあげないから』
あはははっ! 先生、強がってるけど、お顔真っ青。
もしかして、死にかければ見逃してくれるなんて、甘いこと期待しちゃってたのかな?
うふふっ、愛してる。
こんなに誰かに執着したの、初めて。
だから、だから絶対、手を抜かないよ?
先生が折れてくれたら、体も、心も、寿命さえ奪って、私好みにしてあげる。
愛してる、愛してる、好きだよ。
早く、私の最高の旦那様になってね、先生。




