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魔王(安眠)

ふぁーあ、何? 勇者?



人の眠りを妨げないで欲しいんだけど……、ここにも来ちゃったんだ。何百年振りかしら……。


ねえ、あなた。

私は私の眠りを邪魔されたく無いだけなの、帰ってくれない?


あ……、そう。まあ、そうよね、帰らないわよね。


はぁー……、憂鬱。



ちょっと、本当、斬り掛かってくるとか、やめてほしいわ。

避けるのも面倒だし、埃が舞うじゃない。



あなたがどうしてそんなに怒っているのか知らないけど、私はここで眠っているだけなの。

実際、あなた達と戦争してる魔族と違って、私、もう数百年も何もしてないわよ?


嘘を吐くな魔王? ね、あーもう、本当に憂鬱。


確かに私は魔王だけど、もう引退してるの。

戦争したいなら近くの怠惰か、新しくて弱い嫉妬の魔王領にでも行ってよ。


この私、憂鬱の魔王は無実で、無害よ。




関係無い? 魔族は全部殺す?


あー、そう言うこと……。あなた復讐者ね。


復讐者が勇者を名乗るなんて、烏滸がましい。


勇者っていうのは、もっと自己犠牲的で希望に溢れた化け物だって言うのに。


だから、……そんなことを勘違いしてるから、ここで私みたいな古い魔族なんかに負けるのよ。



ほら、魔法の展開完了。

あなた程度には、もう目と口を動かすことくらいが限界でしょ?


さて、どうしようかしら。このまま身動きの取れないあなたを殺してしまってもいいのだけど、……別に好き好んで人間を殺したい訳でもないし、憂鬱だわ。


何よその目、まだ諦めてないのね? その不屈さは勇者らしいわよ。

その原動力が復讐じゃ、本物にはなれないけど。


復讐が悪いのかって? 別にそんなこと言ってないわ、私も昔はその為だけに国を滅ぼしたくらいだし。


でもね、ありきたりかもしれないけど、やっぱり復讐の後には何も残らなかったのよ。

せっかく蓄えた力もそれが終わったら、無意味。別に大義があった訳でもないから、それ以上誰かを殺すのも憂鬱だったし。


だから、やめたの。動くことも、考えることも、何もかも。


そうね……、久しぶりに昔のことを思い出して見れば、あなた、私に似てるのね。


個人への恨みが、相手の集団全体への恨みにまで発展してしまって、憤怒で目の前も見えなくて、その発散しか考えられないのよね。


でも、あなた、私と違って戦いの才能無いわよ? 私が見逃してあげても、そのまま復讐を続けてるなら、死ぬわ。

とても魔王……、いえ、その配下にすら勝てそうにないもの。


何よその顔……? 覚悟は決めてるって?


はあ、馬鹿みたい。


いいわ、それなら一回止まって考えさせてあげる。私の憂鬱を感じさせてあげるわ。



ほら、よいしょっと。

どう? このベッド? フワフワで気持ちいいでしょ?

後は、こうして、添い寝してあげる。


あー、うるさいうるさい、騒がないで。


ほら、抱きしめてあげるから、温かいでしょ? 私の心音を聞いて。私の感情が、憂鬱が、伝わるでしょ?




ほら、無理に動こうとしないで、頭も撫でてあげる。


だから一回冷静に、怒りを忘れて?

もうずっと、こんなに落ち着いたこと、無かったんでしょ?









どう? 少しは冷静になれた?


そう、良かった。ほら、拘束も解いてあげる。



それで、これからどうするの? 復讐を続ける? 普通の人間としての暮らしに戻る?


……それとも、ここで私と暮らしてみる?


やっぱり、何となくね、あなたを見ていると昔の怒りと悲しみでいっぱいだった頃を思い出すの。

だから、あなたが良ければ、私みたいにならないように、ここでゆったりと暮らしても構わないわよ……?




そう、戦いを止めるつもりは無いのね。

そんなに魔族が憎い?




へぇ…、憎しみは消えない。それを晴らそうとする自分の未来が暗くても、それが忘れられる訳じゃない。

……それに、復讐に関係無く、自分が戦った分だけ救われる命もある、ね。



ごめんなさい、勘違いしていたわ。

あなた、……やっぱり勇者なのね?


ううん、いいの、分かったわ。

あなたの希望通りにしてあげるわ。


いいえ、感謝なんて要らないわよ。



それじゃあ、改めて、





私は憂鬱の魔王メランコリ。

かつて国さえ呑み込んだ、旧い時代の枢要罪の一角。


あなたを殺す夢魔よ。

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