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夜会1

婚姻までに必要な王子妃教育の範囲を確認すると私についてくれていた教師(せんせい)はここからの予定をすべて書き出してくれた。

本当の機密に触れられるのは婚姻後になるそうだ。

王子妃となった後、王妃となるための教育が始まるそうだ。


閨の教育のみ初夜のために新たに必要です。と表情を変えずに教師に言われてしまったときは正直困った。


「同じものを王子も?」と確認すると、王子の方が教育内容は多く、そのすべてを第一王子は終了して、今は陛下の政策を補佐する役割も担っているそうだ。

第二王子は?と重ねて聞いたら笑顔で黙殺されたのでそういう事なのだろう。


兎に角、第一王子はとても優秀な人の様だ。

それであればこの国も安泰だ。


けれどそこまで優秀な人が何故、婚約者に捨てられたのかが分からなかった。


* * *


第一王子の新たな婚約者のお披露目を今日の夜会で行う。


ヴィオラはジークハルトから贈られたシックな紫色をしたドレスを着ている。

この菫色に近い色は日に焼けていないヴィオラの肌によく似合っている。

そこに金糸を使った繊細な刺繍が施されている。

あの本に似た金色の刺繍をヴィオラはとても気に入っていた。


それにこの菫色はこの国では王族にしか許されていない色だ。

建国に関わった女神の色として、王族に連なる者とそれを贈られた人間しか纏えない。


これ以上ない、けん制をするためのドレスを選んだのだろう。

そのドレスに合わせる様に金の繊細な細工にアイスブルーの宝石がちりばめられたパリュールも併せて贈られていた。


非のうちどころのない贈り物だとヴィオラは思った。

今まで学園のパーティで着ていた物よりも美しく見える。

地味で目立たない令嬢であったヴィオラを高貴なものとして印象付けられるドレスとアクセサリー。


前の婚約者がどんな服装をしていたのかは遠目で見たことがある様な気もしたけれど思い出せない。


王族の入場に向けてジークハルトと並んで立つ。

ヴィオラを見た瞬間、流暢に褒めるあたりもとても優秀な人なのだろう、とそれを聞きながらヴィオラは思った。

ヴィオラのドレスの色よりも少しだけ薄い紫の宝石が王子の礼装のカフスになっている。

紫の系統でお揃いになっていることをヴィオラは今日ここに来て初めて知った。


彼女達の前では、第二王子が入場に向けて待機している。

彼の婚約者も誰か高位の貴族にすげ替えられていると思ったのに違うのだろうか。

その横には、あの婚約破棄騒動の日、第二王子の隣にいた男爵令嬢が寄り添っていた。


その彼女がヴィオラ達を振り返ってニヤリと笑った。

見下すような嘲笑う様なそんな笑みだった。


ヴィオラはその男爵令嬢とはほとんど面識は無い。

学園で顔を見たことがあるという程度の間柄だ。


だから、嘲笑う様な表情を彼女がした理由が分からなかった。

訝しげな顔、をしてはいけないと知っているし、夜会までの期間、表情筋を決めた場所から動かさない練習を繰り返した。


「緊張しているのかい?」


ジークハルトがヴィオラの耳元で囁く様に言った。

お互いにしか聞えないとても小さな声だった。


ヴィオラは目の前の男爵令嬢に覚えた違和感をここで伝えるべきではないと判断して「いいえ」と答えた。

緊張はしていなかった。


婚約に関するスケジュールが滅茶苦茶なことになっていて、陛下と話をする時間がまるで取れなかったことを踏まえても緊張はしていなかった。

デビュタントで、王と王妃の二人に挨拶をしたときも緊張していなかったので、多分緊張しない体質なのだろう。


それに、ヴィオラをエスコートする王子はとても優秀な人に見える。

彼は彼の立場を守るために、何とかしてくれるのだろう。そんな気がした。


第二王子の名が会場に響いて、前にいた二人がホールに入っていく。

次はジークハルトとヴィオラの番だ。


恐らく、会場中の視線がヴィオラに注ぐのだろう。

誰からも注目されてなかった令嬢が王子の婚約者なのだ。会場にいるすべての貴族の視線がヴィオラに集中する。


王子妃としての大切な仕事の一つが貴族をまとめ上げる事だと説明された。

書類仕事は官吏が行えばいい。

次世代を担う王子の伴侶として、大切なことは貴族の人心を掌握すること。


今日がその第一歩なのだ。

王子の名前が呼ばれて大きな扉が開く。


ヴィオラの目に映ったのはまばゆいシャンデリアのきらめきだった。




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