死んだ彼女の妹が何故か家に来た。
明るくいこう
駄目だ。
唯が俺に話しかける幻聴すら聞こえてきた。
もしかしたら彼女が死んだことを頭では理解していて、体では本当の意味で理解していないのかもしれない。
四年もたったのに?馬鹿馬鹿しい話だと自分でも思う。
俺も今年で24だ。いい大人だというのにいつまで引きずっているのか。
苦笑いものだが事実なのだから仕方がない。
スマホの時計が20時を示した頃、インターフォンが鳴り響いた。
インターフォンが鳴るというのは井上春樹にとって一年にあるか無いかのビッグイベントである。
しかもこんな時間に。
去年は確か一回だけ昼にインターフォンがなった。宗教勧誘だっただろうか。
だがたった一回だ。
しかも昼。その時は丁重にお断りしたが、夜に宗教勧誘なんてあるだろうか?
俺は玄関まで物音を立てずに行き、ドアアイを覗き込んでみた。
するとそこには、宗教勧誘のゴツいお兄さん
ではなく、何歳ほどだろう。
見る限りではあるが、18〜20くらいの若い女性が立っていた。
そして俺はこの女性を知っている。知っているのだ。
「あ、あ、あ、」
声が漏れる。
彼女は。彼女は。彼女は。
唯の妹だ。
荒れる呼吸を整える。しかし、思うように息ができない。
まるで海に溺れているような感覚だった。
つま先が冷たい。この向こう側にいる彼女と会いたく無い。
何故なら、唯が死んだ二日後の葬式、唯の妹は僕にこう言った
「彼氏ならなんでお姉ちゃんを守ってあげられなかったんですか!!あんなに近くにいたのに!なんで気づけなかったんだよ!!」
いつも温厚で、おとなしい唯の妹がこんな必死な形相で、涙を溜めて俺を責めたのだ。
そして俺はそれに言い返すことができなかった。何一つ言い返す気も起きなかった。
全てその通りだと思ったし、俺が悪いと思った。
だから会いたく無いのだ。彼女と顔を合わせると自己嫌悪してしまう。
何も守れなかった自分と直面してしまう。
そうだ。居留守を使おう。
唯の妹には申し訳ないが、今日のところは帰ってもらおう。
その瞬間、俺の目の前にあるドアから『ガチャッ』っと聞こえた。
え?まってなんで?もしかして今…鍵開いた?
ドアが少しずつ開き彼女と目が合う。
「久しぶりですね。春樹さん」
彼女は制服を着ていて、肩に大きなリュックサックをからっている。
どこか唯を彷彿とさせるのは、髪の長さが同じだからだろうか。
それに彼女は唯と顔が似ている。だが何故か懐かしさを全く感じない。
「どうかされました?」
整い始めた息がまた乱れそうだ。
しかしそれをグッと飲み込み一言だけ発する。
「何しにきたん…ですか?春ちゃん…」
「ですかなんてやめてください。春樹さん」
何故春ちゃんはここにいる。
分からないことだらけだが、今はもう限界だった。
頼むぞ!目覚めた時の俺!
その瞬間視界がぼやけその場に倒れ込んだ。
俺の記憶はここで止まっている。
やっぱり暗い話もすき