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聞いてなかったんだけど、聞いてないよ!?

仲の悪いフリをしていても、シュリーデは王城の馬車寄せの待合室で私を待ってくれていた。


「いきましょうか?」


「はい…」


本日のシュリーデは、いつも夜会で見せている愛想笑いを浮かべていない。つまりは普段通りの無表情なのだけど…今日はその表情筋が死滅しているのが良い仕事してるぅぅ~


つまり、不仲の王女殿下のエスコートをしていてシュリーデは不機嫌である…傍目からはそう見えるからだ。


私から見ると、シュリーデはいつもこんな顔なんだけど…周りからものすごくヒソヒソと囁かれている。


そんなヒソヒソをBGMに、外の回廊を歩きながらシュリーデが小さな声で囁いた。


「先程、アエリカ嬢とギルバートに会った…」


その言葉にギョッとしたが、シュリーデは私の方を見ずに前を見て怖い顔をしている。


「アエリカ嬢にローズベルガ殿下に目を付けられて大変ね…と言われた」


ひえぇ!?流石元祖?悪女っ!


「ギルバートにはお前は派手に遊んでいるから、王女殿下にはお似合いだろう、と言われた」


ギルバートはなんでそんなに捻くれてるんだよ!


「あのふたりは、誰かを悪く言ってないと生きていけない病にかかっているのよ…」


私が呟くと、シュリーデは目を丸くしたが、ニヤリと悪人顔で笑った。


「そうだな…重症だな」


さて…シュリーデとフフフ…と忍び笑いをしながらも、会場に着いた。


「俺はすぐに離れるがルコルデード殿下がすぐに来る。俺の指示があるまでアエリカ達と仲良くしているように」


ひええっ忘れてた!!そうだった、友達友達嬉しいな~の芝居をしなくちゃいけないんだった!


「……大丈夫か?手と足が同時に出てるぞ?」


大丈夫じゃないよ!!


私は泣く泣く入口でシュリーデと別れた。すると……


「ローズベルガ殿下~」


でたーーーっ!


早速、アエリカとギルバートが近付いて来た。ちょっと待て!?ルコルデードお兄様がまだ来てないよ?こんな状態で迎え撃たなきゃならないの?


私の周りにいる人々からコソコソと囁き合い声が聞こえる。


にこやかな笑顔を見せて歩み寄って来るアエリカは、すでに勝ち誇ったような顔をしている。


そういえば…ファンナ様はどこにいるんだろう?もしかして既にアエリカから口撃を浴びせられているのかも…


周りを見てみるが、ファンナ様はいないみたいだ。まさか、とんでもない罵声を浴びせられてショック受けて帰っちゃったのかな…


私の内心の動揺をよそにアエリカは私の前でカーテシーをした。


「本日はお招き頂きましてありがとうございます!」


なんでそんなに声を張り上げるかな?自分は王族から直接招かれたんだぜ!のアピールかな…招いたのは私じゃなくてベリオリーガお兄様だし…


「本日は王太子殿下の婚約発表でございますよね~お相手はどんな素敵なご令嬢なのかしら?王女殿下はご存じでしょう?」


王族主催の夜会に呼ばれて嬉しいんだろうね…アエリカは声高に叫んでいる。目立ってる…恥ずかしい


「はぁ、まあ…もうすぐ発表ですし…」


「まあ、そうでございますわね~そうだわっ王女殿下と婚約者になられましたご令嬢と是非ご一緒にお茶会をしてみたいわ!」


厚かましいぃぃ…びっくりしたわ。誰があんたを呼ぶというんだよ!?すっかり自分もそのお茶会のメンバーに入っててしかも、自分が主催しようとしているかのよう…


陽キャの圧が凄まじい…あっ!ルコルデードお兄様だわ!助かったぁ…


ルコルデードお兄様はニヤニヤしながら私に近付いて来た。


お兄様どうしてニヤニヤしているの?もしかして私の孤軍奮闘を、どこか遠くからほくそ笑んで見てたんじゃないでしょうねぇ?


「まあっルコルデード殿下ぁ~本日はご招待頂きましてありがとうございます」


またアエリカは声を張り上げた。王族に招待されたぜ!アピールが激しい…ギルバートもいるんだけど、後ろに控えていて本当にアエリカの僕のようだね。


ルコルデードお兄様はアエリカに鷹揚に頷いて見せた後に


「さあ、もう始まるよ」


と、だけ言った。


「国王陛下参られます!」


先触れの声に会場内にいる貴族達が一斉にカーテシーをした。


国王陛下…お父様が大階段の踊り場に現れて、ゆるりと会場を見回してから口を開いた。


「本日の王太子の祝いの会に集まった皆に感謝する。では王太子と晴れて婚約を結んだ令嬢を招き入れよう」


私はカーテシーを解いて、前を見た。大階段の踊り場にベリオリーガお兄様と………


赤い髪を綺麗に纏め上げた美しいファンナ様が現れたぁ!?


「えっ!?」


私の驚愕の声は、周りの貴族達の歓声と感嘆の声に掻き消された。


え?ファンナ様が?ええっ?どういうこと?えぇ!?


慌てて隣にいるルコルデードお兄様の顔を見上げた。


「あ…れ?」


私の隣に立っていたのは…いつのまにやらシュリーデに変っていた。唖然とする私の視線に気が付いたのか、こちらを見ると満面の笑みを浮かべて、そのまま私の腰を掴むとシュリーデの方に引き寄せられた。


「そんな……」


シュリーデの反対側、私の左隣からアエリカの呟きが聞こえた。


そうだった!アエリカがいたんだった!


恐る恐るアエリカの顔を見ると、目を見開きガクガク体を震わせながら大階段の方を凝視していた。


「ファンナ=マーガレド伯爵令嬢はとても美しく聡明で素晴らしい妃になると思わないか?」


シュリーデがこれまた声高にファンナ様に賛辞を送った。


その言葉を聞いてアエリカがぐるんと顔をこちらに向けてきた。


「ど…どういうことなの?ファンナが王太子妃?」


ひえぇぇ…怖い!……と、思っていたらシュリーデがさりげなく私の体を引っ張ってアエリカとの間に入ってくれた。


「そうだよ、王太子殿下と並ぶと一対の絵のようだと思わな…」


「あの子がっ……あの子が王太子妃だなんてそんな訳ないわ…そう、そうよ!伯爵位の令嬢なんて王太子妃に相応しくないわ!」


シュリーデの言葉を遮って叫んだアエリカの余りの声の大きさに、周りの人達が私達に注目し始めた。


シュリーデは微笑むと言い放った。


「そうか…だが、ファンナ嬢はプレミオルテ公爵家に養女に入って私の義妹として王家に輿入れることになっているが、何か問題があるかな?」


「えええっ!?」


「嘘よっ!?」


アエリカと私は同時に叫び声を上げた、思わず叫んだ私にシュリーデが胡乱な目を向けてくる。


「どうしてローズが叫ぶの?前に話してただろう?」


実は聞いてませんでしたーーー!……とは言えなくて、笑って誤魔化した。


すると今まで黙っていたギルバートが声を上げた。


「こんな…どういうことなんだ?ファンナが王太子殿下となんて…そんな…」


「ギルバート…ファンナ嬢だ。令嬢はもうお前の婚約者ではない。それに…ファンナ嬢がベリオリーガ殿下の妃に選ばれて何がおかしい?マーガレド伯爵家は歴史のある名家だ。王太子妃に選ばれるのも不思議じゃない」


ギルバートはシュリーデを睨みつけた。


「アエリカを苛める性根の腐った令嬢が王太子妃なんて……」


「それらの調べは済んでいる!ファンナ嬢は潔白だ!」


「その通りだ」


シュリーデが叫んだ後にルコルデードお兄様が言葉を続けた。お兄様いたのね…


「本当に来たんだな?厚顔無恥だな…ファンナ嬢に嫌がらせをしておいて吞気なものだ」


珍しくお兄様が毒を吐いている!ルコルデードお兄様は争いごと好まない人なので、口撃で人を攻撃するのは見たこと無いけど…


私は大階段を見上げた。ベリオリーガお兄様の横に立つファンナ様の顔色が段々と悪くなってる…私が見詰めているとファンナと目が合った。少し微笑み返してくれた。


「お前達の戯言には一切耳を貸さないからな!」


ルコルデードお兄様はそれだけ言うと、私達を促してその場を離れた。大階段の上のベリオリーガお兄様とファンナ様はお互いに寄り添って、何か話しかけているベリオリーガお兄様にファンナ様は笑顔で頷き返している。


あの幸せそうな婚約者同士を見て、アエリカとギルバートは今、どんな顔をしているのだろうか?


今まで散々見下してこき下ろしていたファンナ様が、貴族令嬢の頂点に立ってしまった。ファンナ様はこれからアエリカが近付くこともままならない令嬢になる。


「ざまあみろ、だ」


シュリーデがボソッと呟いている。


シュリーデも本当は大声で怒鳴りたかったのかもしれない。私はシュリーデの二の腕をポンポンと軽く叩いた。


「…それはそうと、さっき物凄く驚いていたけれど、どうして?」


覗き込んできたシュリーデの顔を見ることが出来ない。目が泳ぐ…


「もしかして…作戦、聞いてなかったとか?」


ギクッとして肩が動いてしまった。


「仕方ないな…」


と、大きな溜め息をついた後にシュリーデは教えてくれた。


如何にしてアエリカとギルバートに仕返しをするか…虚栄心の塊であるアエリカは王家主催の夜会に招待すれば喜んで出て来るだろう。


だが、その後をどうするか…ファンナ嬢を下に見ていたアエリカとギルバートに一瞬で立ち位置が逆転するような屈辱を与えたい。


「ファンナ嬢とベリオリーガ殿下双方とも納得して、アエリカとギルバートの前でふたりの婚約発表をすることになったんだ」


「でもそれじゃ…二人は政略…」


私の肩をルコルデードお兄様が叩いた。


「ローズ、兄上達を見ただろう?なんだかんだ言って、ふたりで今回の作戦の打ち合わせをしている間に、距離感が大分縮まったみたいだ。お前が心配する政略婚にはならないよ」


そう言えば、夜会の別室でファンナ様にお会いした時から、ベリオリーガお兄様とふたりで見詰め合ったりしていたよね?お互いに惹かれるものがあったのかも…


「アエリカとギルバートもこれで大人しくなるだろうさ~」


ルコルデードお兄様がまた吞気な事を言い出しているけど、あんな執念深そうな女がすぐに尻尾を撒いて逃げ出す訳はないと思う。


絶対、ファンナ様を逆恨みして何か仕掛けてくるに違いない…


根暗な思考を語らせたら私の右に出るものはいないと思えぇぇ!!


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