リアルの時間
コーヒーって皆好き?
「あー頭いたい」
翌朝、頭がガンガンしているが、七時頃に起き上がる。
今日から学校だ。面倒くさいが、単位を取らない方がもっと面倒くさい。主に親が。
のっそのっそと階段を下りる。下からはパンの焼ける良い匂いがする。コーヒーが飲みたくなってくる。
「あら、おはよう。ごはんできてるわよ。ってまた夜までゲームしてたの?今日始業式でしょ?しゃんとしなさい」
母からそう声がかかる。どうやらそれ程までに疲れているようだ。適当に返事をしながらテーブルに置かれたトーストとスクランブルエッグの前に座る。っと、コーヒー淹れてこよう。
「おはよー」
リビングに気の抜けた声が聞こえる。妹だ。今年で高校生になったと言うのに、だらしない格好で席につく。
コーヒーを取り出し、火にかける。コーヒーだけは、自分でこだわる。父親が好きだからだろうか?気が付いたら俺も朝はコーヒーにこだわるようになっていた。
お湯が適切な温度になっていることを確認して、豆をミルでひく。手動でだ。
ひき終わったら急いで淹れていく。ここから先はどんどん香りが落ちていく。
豆が喜ぶように膨らみ、リビングにコーヒーのよい香りがする。
全て淹れ終わったら、三当分にし、一つにはミルクを、もう一つには砂糖を入れる。妹と母の分だ。
妹よ、頼むから鼻をヒクヒクさせないでくれ。頼むから外でやるなよ。お前。
「さてと、いただきます」
「「いただきます」」
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「行ってきます」
は~学校つまんねーなーという思いを胸に秘め、学校への道を猫背気味に歩く。秋というにはまだまだ暑い道は、疲れこそないが、これから向かう学校への憂鬱さを引き立たせる程度の効果はあるようだ。
「まぁいいか」
今日は金曜日だ。家に帰ったら徹夜でゲームをすれば良い。
そんなことを考えながら、学校へ向かう。
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「おう。夏休みデビューした奴はいないな。感心感心」
担任の陽子先生(27歳独身・体育担当)からのありがたいお話が始まるが、それを耳に入れながら、これからの事について考える。あの時、サイカの鍛冶屋でセーブしたため、恐らく回りには結構な数のプレイヤーがいるだろう。あそこ裏口あったかな?どうしよう?
「おい、聞いているか透火。」
「来週のテストの話ですよね?」
「おっ聞いてるな。ボーッとするなよ」
まぁいいや、後で考えよう。来週のテストか。まぁ大丈夫だろう。そんなことがありながらも、陽子先生話はスムーズに進んでいった。
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「おいおい聞いたか、アナザーでまた特殊エリア出たらしいぞ」
比較的仲の良い男子である洋介からそんなことを言われた。心臓に悪いタイミングだ。
「へぇ、けど俺あのゲームやってないんだ」
「何だよ。一回やってみ?他のと全然違うから」
知ってるよ。だから大変なんだよ。
「あっ知ってるか?また陸上部の世良先輩記録更新したみたいだぞ。あの人美人だし、今日は部活がないはずだからどっか誘ってみようかな」
「ふーん。まっ頑張れー」
「冗談だよ。この前も3年で一番イケメンと噂の小倉先輩が告白して普通に降られたそうだし」
「へー、何それ面白そう」
「おっ、興味あるか。確かな、、、」
連絡も終わり、それぞれ帰っていく。俺も帰ろうと席をたった。
「アナ、、、ユニーク、、」
「特、、人、、、」
学校の騒がしさの中に、少しだけ心当たりのあるワードが入っている。とりあえず考察クランに会おう。めんどくさいけど。
「おい透火、危ないぞ」
ふと前を見れば、すぐ目の前に陽子先生がいた。
「またゲームのしすぎか。体に悪いぞ」
俺は結構陽子先生に絡まれる。理由は簡単。俺がホームルーム中に爆睡したことが何度もあるからだ。さすがに目をつけられたようだ。その頃辺りから、絡まれるようになった。
「あぁ、大丈夫ですよ。少し考え事です」
「ホントかぁ?お前結構嘘つくからな。先生心配してんだぞ?」
そう言って頭を撫でようとするが、こちらの方が身長が高いので若干背伸びをしている。ふっ175センチ舐めんなよ。
適当に陽子先生の頭を撫で返しながらここからどうするかを考える。
他の人ならここら辺で適当にあしらうが、この人には色々と恩がある。よって、真面目に答えよう。あと、この思考の袋小路から出るヒントでも貰おう。
「実は今やってるゲームで少し悩んでることがありまして、、、」
「へぇ?何て名前のゲームなんだ」
「【Another way】」
「ぴょ」
「ぴょ?」
今なんかスゲー音が出たぞ、大丈夫か?この人。
「大丈夫ですか?」
「あぁ大丈夫大丈夫、まぁゲームのやりすぎはほどほどにしろよ。じゃあ気をつけて帰れよ」
「分かりました、、、」
何か急に話を切られたな。何だあの慌てよう。何かヒントでも貰おうとしたのに、、、というかあの感じは、、、
「やってんのかね、【Another way】」
というか、十中八九やってるな。会ったら挨拶しよう。何かイジリがいが有りそうだ。
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帰路につく。その途中、純喫茶「メタクサ」に立ち寄る。名前は少し変な名前だが、店の中は落ち着いた雰囲気で、静かな上(人があまり来ない)、とてもコーヒーが美味しいので、よく行く店だ。
「いらっしゃいませ、、、っと透火君ですか」
中に入ると、カウンターの辺りで女性がくつろいでいた。あんた店員だろ。
「マスターは?」
「父は買い出しに行ってます。もう来てますよ」
「わかった。ブレンドください」
「分かっていますよ」
コーヒーを頼みながら一番奥のボックス席に向かう。ボックス席には人が一人いる。
「店の中でまでフードをしないでください。蕾さん」
「別に良いだろ。怒らえて無いんだから」
そういうと世良 蕾は、チェスのボードをテーブルに置いた。
「さて、始めようか、楽座」
セミロングな髪の美人は、楽しそうに笑った。
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唐突だが、世良 蕾は、天才である。
全身がギリギリまで張り詰められたバネのような筋力をもち、五教科全てでトップを取るような頭を持っている。
蕾とは、親がいつか花開くような才能であったり出来事があれば良いなと思い付けた名前だが、その花は咲いた後に形態変化してビーム撃ってくるような花だった。
5歳の頃には英語を話せるようになり、10歳の頃には様々な分野の大会で優勝しまくった。その度に、言い様のない孤独感があった。
傲慢と言われればそれまでだが、それ程までに圧倒的だった。クラスでも浮いており、一人でいるときの方が多かった。
そして、猫を被ってしまった。一度猫を被れば、それを無くすことは難しい。誰もが羨む完璧を演じ、その裏にすれ違う鬱憤やストレスを溜め込みながら、世良は暮らしていた。
両親は何となく感じてはいたが、まさかそこまでとは思わず、放置している状態だった。
そして、高校1年の時、ひとつのゲームによって、現状が打破された。
ゲームの名前は「カオスロード」。そのゲームは、あまり有名ではなく、安くなったカセットが並んでいるコーナーで買った物、つまるところクソゲーだった。
だが、中身は違った。世良は、自分が下になったことはなかった。それが始めて、負けた。得意な分野にはいる武器を扱うフルダイブゲームで、初めての経験だった。
プレイヤーの名前は「ホオヅキ」。まぁ俺だ。
その後、ゲーム内で俺は1位に、世良は2位になった。
その辺りから、剣風の中でよく話すようになり、ゲーム内で珍しく仲のよいコンビになった(殺し合いはする)。
だが、それはあまり続かなかった。「カオスロード」のオンラインのサービス停止。それに加えて俺の受験シーズンによるプレイ離れ。
それによって世良は端から見ても分かりやすく落ち込んだ。自分の事を最もよく知る同類があまりゲームをしなくなったからだ。
そのため、サービス停止の最後の1日。この日が来るのが嫌だった。しかし、この日は世良の中で最も印象深い日の1つになった。
サービス停止の最後の1日。この日は、まぁ、簡単に表すなら戦争だった。ゲーム人口3000人のプレイヤーが、たった10人のランカーと戦争をした日だ。
最後、ランカーのみが残った。ランカーは、全員倒されなかった。自分と同レベルの相手が9人もいる。この事実は、世良の孤独感を消していた。
結局この後、全員で殺し合いをして終わった。また普段の日常に戻る。それでも、どこか気が軽かった。
そして、世良が高校三年生になったとき、また状況が変わった。
いつもの帰り道にふと立ち寄った純喫茶で、一人でずっとチェスをしている男がいた。自分の行く高校の制服を着ている。ふつうはそんな奴がいればその店には入らないが世良はカウンター席に座った。
カウンターからチェスを眺める。そして、声を聞いた瞬間、目を見開いて驚いた。人生で初めての経験を与えた男と同じ声だったからだ。
そうやって世良 蕾と刃霧 透火は出会った。
それからは週に何回かのペースでこうやってのんびりとするようになった。
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「そういえばさぁ」
「ん?」
「お前アナザーワールドやってんの」
「何で?」
「私の知る限りホオヅキの名前でやらかすのはお前しかいないから、かな?」
「なんじゃそら、、、まぁ当たりだよ。この前始めた」
「ふーん。面白そう?」
「そうだな、ちゃんと動けるしNPCも上等だし面白いと思うよ」
「分かった」
「、、、やるの?」
「面白そうなら、な」
「、、、受験は?」
時間はゆったりと流れていく。
身体能力
刃霧 五十メートル走学年三位 普段のトレーニング時間一~二時間 陸上部には勝てなかったよ
世良 学年一位 フィジカルモンスター トレーニング時間無し 軽いジョギングのみ