第4章 第9話 殺戮兵器
西大陸にある拠点から、グランド王国に向かうオレ達は、新たにオウガ、キキ、リリーナを加わり、オウガのヘルバウンドとフェンリルで旅をする事になった。
ヘルバウンドとフェンリルの足が、かなり早く移動する事が出来た。馬車の数倍の速さだ。
リリーナが、フェンリルに一緒に乗ると聞かないので、オレはリリーナの背中にくっ付いていた。
憎しみに囚われていたリリーナが、優しかった母様みたいに笑い掛けてくれる。それが、本当に嬉しかった。
「レイ兄さん、母さんの背中はもふもふで気持ちいいでしょ」
「ああ、確かにもふもふで気持ちいいな」
風を切るフェンリルの背中で、オレとリリーナは家族の絆を取り戻していた。
時間が経ち、フェンリルとヘルバウンド達を休ませる為に、休憩をしながら移動していた。
「ヘルバウンドとフェンリルのおかげで、早く着きそうだよ」
「コイツ等の足は、早いからな。長い付き合いだから、間違いないぜ」
一際大きいヘルバウンドの狼牙を撫でながら、オウガはニヤリと笑っていた。
オウガのヘルバウンド達は、子供の頃からの付き合いで、共に育った中らしく、自慢の家族だと笑っていた。
オウガは、子供の頃から暴れていた為、群れのボスだった狼牙と戦って仲間にした時に、群れごと仲間になり、今に至る。
キキとオウガが、極東国であった時には、オウガはすでにヘルバウンドを連れていたそうだ。昔から連れられているせいか、見た目は漆黒の毛皮に燃えるような赤い瞳、地獄の猟犬に相応しい。
しかし、オウガのヘルバウンド達は、人懐こい性格をしていた。
「……」
オレ達に吠える事はない。休憩中も食事の時も大人しくしているのだが、魔物や人が来るとオウガに知らせている、まるで統率された軍隊のようだった。
オレとリリーナが、一緒にいたせいなのか、ココがフェンリルを気に入ったらしく、最近は白いフェンリルの毛皮の中で飛び回った。遠くからみたら、フェンリルにまとわりつくノミみたいだ。
「もふもふ最高です。わっふーー」
「あまり失礼が、ないようにしないとダメだよココ。いつも、遊んで貰って済まないな……」
「……」
フェンリルは、喉を鳴らすだけで大人しい。オレが初めてフェンリルを見たのは、お爺さまが亡くなった赤く燃える夜の巨大な恐怖の対象だったが、今は心なしか優しい瞳をしている。
みんなが眠るなか、オレとフェンリルが焚き火を囲んでいた。フェンリルの背中には、リリーナが寝ていたが、あまり気にしていないようだったので、何時もの事なのだろう。
「オレに代わり、リリーナを、いや、命を守って貰って、ありがとうございます」
フェンリルは、静かに喉を鳴らしている。
「パパ、娘を守るのは当たり前だ。だって……」
「わかるのか、ココ?」
「わかるよ」
フェンリルの言葉を、ココに通訳して貰いながら、話をしていた。
長年、苦しみと怒りに取り憑かれた。リリーナが、最近は憑物が取れたようだと言われた。フェンリルが、リリーナと一緒にいた時の話をしてくれた。
兄弟の様に育った狼達との死別、偶然にもウォル兄さんが助けて話、初めて会った後の話を聞きながら、リリーナの為に母親のように常に見守り続けたのがわかった……
「本当に、ありがとうございます」
「気にするなだって……ふぁー。ココ寝る」
ココがポケットに入ると寝始めたので、オレも寝ようとした時だった。
フェンリルが突然、叫んだ。
「突然どうしたんだ?」
「さすがだわ、私の気配を感じる事が出来るなんて……伝説の存在なだけはある」
暗闇の中から、1人の16歳ぐらいの金髪に赤いマントを女の子が立っていた。
「戦闘態勢を取れ! そいつは、殺戮兵器だぞ!」
「なっ!」
「遅いよ!」
叫んだオウガの声に、反応が少し遅れる事になってしまった。
赤いマントの中からは、赤い手が出されたのと同時に両手の指先から魔法の弾丸が放たれる。
「くっ!」
一瞬の出来事に、シールド魔法を張るのが遅れたせいで、左手に数発の魔法弾が当たってしまった。
「あなたが、菅田 愛さんですか?」
流れる血と激痛を、右手で押さえながら赤いマントの女に聞いた。
「なるほど、オウガにキキにリリーナが裏切ったのは確定なようですね。私が菅田 愛ですよ。レイ・カトリックさん」
まるで、オレの事をよく知っていると言いたげに、彼女は言い放つ。
「何があった! 菅田 愛!」
「ピースメーカーの3人に、龍之介まで居たんですね。過剰戦力ですね……」
「極技・流星衝撃」
暗闇の中から、ウィンドラが凄じいスピードで蹴りを繰り出す。
「なっ!」
蹴りを庇う為に、左手で庇った為に金属音と共に、左手が砕け散った。
ウィンドラの蹴りで地面が抉れていた。
「なっ! 義手?」
義手に驚き、ウィンドラの動きが一瞬止まりそうになる。
「ウィンドラ! すぐに避けて! 極技・炎道暴風」
「極技・集中砲火」
爆音と共に、左手と両足から、魔弾をアイカに放ち初めた。
アイカは、炎と暴風をまとっているので魔弾は破壊されるが爆風で吹き飛ばされそうになる。
「大丈夫ですか? アイカは、油断しすぎですわね」
ナターシャが、飛ばされそうになったアイカを受け止めていた。
「なかなかの戦士が、集まっているようで、今の装備だと負けますか……さらば!」
地面に向かって数発撃つと、大量の煙で周りが見えなくなった。
龍之介が、風魔法で煙を散らすと菅田 愛は居なくなっていた……
読んでいただきありがとうございます。
・面白かった
・続きが気になる
と思ったら下にある「☆☆☆☆☆」の評価と、ブックマークの登録をしてくれると、すごく励みになります。