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時間転移は慎重に……

作者: 山辺 夜

初投稿です。何となく思い付いた勢いで書きました。重い話でもなんでもない駄作なので、気軽に読んでください。



 これは遠い未来の話……。人類が、自由時間転移技術を、初めて手にした時の話……。





「完成だ!」


 男の声に、場が大いに沸いた。しかし完成したと宣言されたそれが、彼らの思う通りに稼動するのかは、未だ誰も知らない。


「漸く……!漸くか……!」


 顔を覆い、その場に崩折れたのは、杖を突いていた老人。顔の皺は尚深く刻まれ、嗄れた声で嗚咽交じりに呟く様子は、普段の豪気さからは想像もつかない。


「先生……。おめでとうございます……!」


 倒れた金属杖を拾いつつ、老人を労るのは、一人の女性。彼女の目にもまた、涙が浮かんでいる。


「動作試験の用意をお願いします!」


 そう叫ぶのは、一連の作業指示をこなしていた女傑。プロジェクトリーダーである。その声に作業員達は、難航した作業を思い返しつつ、手早く準備に取り掛かった……。





 八十年前、弱冠過ぎた青年が、数百頁に及ぶ大論文を発表した。題は、「多元宇宙理論に基づく宇宙間の歪時空帯の存在及び自由空間転移技術を用いた自由時間転移について」という。


 宇宙が複数存在すること。その宇宙間に、時空が複雑に歪んだ空間帯が存在すること。そして、この時未だ黎明期にあった、場所を問わず移動可能な空間転移技術。これらを用いて、"宇宙間の歪時空帯に転移し、任意の時間座標を持つ位置に移動して、再度転移する"ことで、過去・未来問わず如何なる時間へも移動できる。そういう主旨の論文だ。


 余談だが、それまでの時間転移では、どう足掻いても過去へは行けなかった。亜光速での移動を用いるので、天体に衝突しないための演算や、高度な仮死保存技術を要したのである。加えて、一度移動すると、決して同じ時間に帰ることは叶わなかった。


 話を戻そう。「過去へは行けない」という常識を、根底から覆すこの発表は、始め途轍もない批判を受けた。学術的なものも、倫理的なものもあり、批判の規模が膨れ上がったのだ。これをどうにか処理して、論文は十年近い論議の末に認められた。


 それからというもの、人々はこの転移技術を確立するため、奔走した。最大の問題は、歪時空帯の乗り切り方だった。機械である以上、空間があまりに歪むと壊れてしまう。一定の空間を正常に保つというこの技術の開発に、半世紀もの時間をかけることになった。


 また、「宇宙空間の座標付け」にも苦労した。何処を座標の中心とし、軸をどのようにとるのか。これが定まらない限り、時間転移後に遭難することもあり得るのだ。これが決定されたのが十年前で、座標の原点は、天の川銀河の中心、「いて座A*」となった。


 後は機械の完成を待つだけとなり、遂に完成したのがあの機械である。老人は、嘗て論文を著した青年であり、既に百歳を超えている。





 検証が始まった。手始めに、短時間の未来転移を行う。ビーコンを機械に乗せて、五秒間の転移実験だ。

轟音を立てて機械が動く。老人は、機械を真っ直ぐ見つめている。


「……、転移開始します!……3!2!1!0!」


 零のカウントの瞬間、機械が消えた。場は静寂に包まれ、カウントの声だけが響く。


「ーー3!4!5!……」


 瞬間、機械は……、現れなかった……。


 作業員達が落胆する。転移は失敗したのだ……、と。ところが……。


「あの……。ビーコンの反応がありました……よ?」


 人々が声のする方向を向いた。


「……約千キロ上空で……、ですが……」


 よかった。一応成功か……。と胸を撫で下ろす面々。老人も笑みを浮かべている。しかし……。


「ただ……、段々、こっちに近づいてきてます……」


 ……数瞬間。意味を理解した面々が固まった。……老人は、実験の成功を噛みしめるように目を閉じている。


「現在、加速中です……」


 一人が、機械の操作画面を確認する。老人は一言、転移座標を見てみなさい、と言う。


「……おい、転移先座標が転移前座標と同じなんだが。……誰が入力したんだっけ?」


 座標原点はいて座A*。座標軸は、アンドロメダ大銀河の中心方向に一つ、それと垂直に二つ。「重力が強くて見つけやすい」ことが理由だ。そして太陽は、銀河系を毎秒約二百キロメートルで周回している。


 ……つまり、五秒で場所が千キロメートルほどずれる。また、転移する物体が転移前にしていた運動は保存されるので、地球と同じ運動のまま現れる。……結果、重力によって地球に降ってくる。つまり、五分くらいで……流れ星になる。


「て、転移だ!転移させろ!時間を稼げ!」


 プロジェクトリーダーが叫ぶ。慌てて作業員達は機械への転移指示を作成し、送る。……老人は、慌てふためく彼らを見て、「まだまだ青いな」と宣う。そして、「先生、もう二時半じゃないですか。今日は玄孫に会うんでしょう?」と孫娘に言われ、一つ首肯して帰って行った。


 ……この後、どうにか機械の回収には成功した。因みに設定ミスの原因は、達成感と深夜特有のハイテンションで、確認が疎かになっていたことである。



 時間転移は慎重に……。



老人の家族、何人くらいいるんでしょうか……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 宇宙論大好物です!わくわくしながら読ませていただきました。 とは言え、残念ながら自分は頭が悪いので難しい事は分かりませんが、遠い未来にありそうですよね。もしかしたら、私達の知らない世界ではと…
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