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流氷と月光  作者: 伊藤
8/26

2-1

 椅子に座り、前の席にいる友達と話をしている京佳を、良晴は机に顔を乗せながら眺めていた。

 良晴は京佳のことを、どこか違う場所にいる人間のように感じていた、同じ教室にいるにもかかわらず。京佳の周りには独自の雰囲気があり、そこだけ周りから切り取られていた。まるで異国のような……。

「何してんだ? 頭でも打ったのか?」

 良晴の異様な格好を見て、奈緒は何をしているのかと、興味をそそられた。

「ちげーわ」

「ならどうしたんだ? はっきり言って気持ち悪いぞ」

「どこが?」

「どこといえるものではないが……」

 うーんと奈緒は考えこむ。机に張り付いて一点を見つめている状況について、不気味で変だとはいえるのだが、どこが変かと訊かれたら困ってしまう。

 考えて考えて、奈緒は結論を出した。

「全部が、だ!」

「畜生! 気持ち悪くて結構だ!」

 良晴は頭を上げて、勢い良く言った。

 けれどもまた突っ伏してしまう。

 先程、良晴が何を見ていたのか気になった奈緒は、彼が視線を向けていた方向を確かめてみた。そこには相変わらず京佳がいた。

「京佳ちゃんを見てたのか」

「ああ」

「恋わずらい?」

「アホか」

 第五支部に呼ばれるまで、良晴と京佳は、親密とはいえぬ関係であった。なのに恋をするわけないだろうと、良晴は思っていた。確かに京佳の容姿は、他のクラスメイトと比べると良い方に入っていたが、だからといって好きになるほど、良晴は単純ではなかった。

「まあ、村江より北沢の方が綺麗だとは思うが……」

「何だと?」

 良晴の座っている椅子が、ふわりと持ち上がった。

 驚いた良晴は、背筋をピンと伸ばした。うつ伏せになったままだと、椅子からずり落ちてしまう。

 椅子は段々と上昇していき、天井まであと半分ほどの高さで止まった。

 教室内で能力が使用されるのは、珍しいことではない。

 クラス内で念動力を持つ人は、奈緒の他にもう一人いる。なので授業のない時間は、物がよく宙を彷徨っていた。さすがに人が浮くなんてことはあまりないが、それでもクラスメイトはおふざけの一環だと思い、宙に浮いている良晴のことを気にとめないでいた。 

「このままひっくり返してやろうか?」

 奈緒は良晴に侮辱されたため、ご機嫌斜めであった。

 こうなったら謝るしかない。

「冗談です! お美しい村江様。あなた様の美しさに魅了され、思わず照れ隠しをしてしまっただけなのでございます!」

「……なら仕方ない」

 椅子はゆっくりと下降し、元あった場所に着地した。

「し、死ぬかと思った」

「あそこから落ちたくらいじゃ死にはしない。最悪でも複雑骨折だ」

「それも嫌だわ!」

 奈緒はやれやれといった様子で、首を左右に振っていた。

「そういえば、同じ組織に所属しているのに、村江が北沢と話してるとこ、一度も見たことないな。なので、村江が北沢と仲よかったなんて知らなかったよ」

「ああ、それは、結社での活動は一般に知られてはならないという決まりがあるんだ。その決まりを守るために、学校では必要以上に関わらないでいようと、京佳ちゃんから提案されたんだ」

「なるへそ。北沢ならそんな提案もしそうだな」

「うっかりいつもの感じで、京佳ちゃんに声かけちゃうと、『あら、どうしたの? 村江さん。私に何か用があるのかしら』なんて、冷たく対応されるんだぞ。酷いと思わないか!」

「うっかりしてんのが悪いんだろ……」

「正論なんか嫌いだ!」

 奈緒の機嫌は、また損なわれてしまった。

 どうしたらいいんじゃい、と困り果てている良晴を見て、かわいそうに思った奈緒は、今度会ったときには優しくしてやろうと、思い改めるのだった。

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