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流氷と月光  作者: 伊藤
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1-6

 良晴が能力を失ってから、約一週間が過ぎた。ほっとけば、そのうちもとに戻るのではないかと、ほのかに期待をしていた彼も、この頃になると焦りはじめた。全くもって戻る気配がないのだ。

 これは本格的に、まずい状況になったぞ。奈緒の言う通り、病院にでも行ったほうがいいのだろうか。でもこんな症状、病院でみてくれるのだろうか。

 病院というアイディアをもらったときは、素晴らしい考えだと思っていたのだが、時がたつにつれ、このような奇っ怪な現象、病院の専門であるのか疑問に思えてきた。

 しばらく考えた末、良晴は病院に行くことにした。週末にやっている病院を探して行こう。

 今日は火曜日だ。週末まではまだ遠かった。

 しかし、遠くて困ることはない。能力がなくなっても、体調や気分など、他に影響している様子はないので、このまま過ごしても問題ないだろう。

「常井くん。ちょっといいかしら」

 教室でそう結論付けると、良晴の頭上で堂々とした声が発せられた。

 彼は声の主を見上げる。

 北沢京佳だ。

 我がクラスの委員長様が、話しかけてくるなんて、一体なんの用があるのだろうか。

 良晴と京佳との間柄は、決して親しいとはいえなかった。かといって、仲が悪いわけでもない。ただ、あまり話したことがないだけだ。

 そんな彼女が話しかけてきたのだ。良晴は多少なりとも驚いた。

「あなた、今日の放課後、時間ある?」

 京佳はためらいをみせずにそう言った。

「何か用があるのか?」

 京佳の奇襲に警戒しながら、良晴は質問を返した。

 自身と彼女に接点があるとは思えない。

「ここじゃ話せないのよ。詳しい話は別の場所でしたいわ」

 若干訝しんだものの、良晴は京佳の用件を聞くことにした。特に断る理由もない。

 良晴が頷くと、京佳は指定した場所の住所を言い、そして言った場所をメモした。メモ書きを良晴に渡してくる。その住所は、とある雑居ビルのワンフロアを指していた。駅から徒歩で一五分、といったところか。

 ビルなんて奇妙なところに呼び出すな、と良晴は思った。ファミレスとか、カフェとか、話をするなら普通はそういうところでするものではないか。だが、呼び出したのはクラスメイトだ。危険な目には遭わないだろう。

「必ず一人で来ること! いいわね?」

「ああ」

 良晴は京佳の誘いを、決して色恋沙汰に結び付けなかった。彼は恋愛ごとには疎く、無関心だった。普段、「誰々と誰々が付き合ってるんだって」と友達から聞いても、へーとしか思わなかった。

 京佳はそこまで言うと、踵を返して去っていった。どうせなら一緒にビルへ行ってもいいじゃないかと思うのだが、彼女は良晴にかまわず、鞄を提げて教室を出ていった。

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