表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流氷と月光  作者: 伊藤
4/26

1-4

 その日の夜。

 良晴は真夜中に尿意をもよおし、目を覚ましてしまった。せっかく心地よく眠っていたのに、起きてしまうなんて、なんという不運だろう。彼は一人、自身の体内活動に憤っていた。

 ムカつくことにはムカつくが、かと言ってトイレに行かないでいいわけではない。この歳にもなって、大洪水を引き起こしたくはない。

 ああ、ちくしょう。だるい、だるい、だるい、だるい。

 ……よし、行こう。

 彼は意を決して、ガバッと勢い良く布団をめくり捨てた。

 部屋のドアを開け、真っ暗な廊下へ出た。いつもなら月の光や街灯の光が、外から差しているのだが、今日に限っては足元も分からないほどの暗闇が広がっていた。

 こう暗いと、とても広い空間にいるように、狭い廊下がどこまでも続いているように、錯覚する。

 さて……、彼の能力の出番がきた。

 操炎は日常生活において、あまり役に立つ能力ではないと、彼自身も自覚している。だが、完全に役に立たないわけではないのだ。

 今回のようにめったにこない出番がくると、彼はもちろん得意になる。ウホホイ! まではいかない、ヤッター! くらいだ。

 明かりをつくろう。

 照明をつければいいじゃないかと、普通の人なら思うかもしれない。しかし、せっかくの能力を使う機会なのだ。照明などというくだらないものは、使いたくなかった。

 頭上に小さな火球を現出させた。

 …………………………。

 現出しなかった。

 アレ? と彼は眉をひそめた。

 もう一度現出させようとするが、やはり火球はそこになかった。炎の端くれもみせない。どうしてだろうか?

 永い思案の誘いから彼を救ったのは尿意だった。彼は尿意を思い出した。

 もう諦めた。

 何が能力を使う機会だ、すっとこどっこい。そんなものにこだわっていたら、人として尊厳が失われてしまう。

 敗北感に包まれながら良晴は、照明のスイッチを力なく押した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ