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その日の夜。
良晴は真夜中に尿意をもよおし、目を覚ましてしまった。せっかく心地よく眠っていたのに、起きてしまうなんて、なんという不運だろう。彼は一人、自身の体内活動に憤っていた。
ムカつくことにはムカつくが、かと言ってトイレに行かないでいいわけではない。この歳にもなって、大洪水を引き起こしたくはない。
ああ、ちくしょう。だるい、だるい、だるい、だるい。
……よし、行こう。
彼は意を決して、ガバッと勢い良く布団をめくり捨てた。
部屋のドアを開け、真っ暗な廊下へ出た。いつもなら月の光や街灯の光が、外から差しているのだが、今日に限っては足元も分からないほどの暗闇が広がっていた。
こう暗いと、とても広い空間にいるように、狭い廊下がどこまでも続いているように、錯覚する。
さて……、彼の能力の出番がきた。
操炎は日常生活において、あまり役に立つ能力ではないと、彼自身も自覚している。だが、完全に役に立たないわけではないのだ。
今回のようにめったにこない出番がくると、彼はもちろん得意になる。ウホホイ! まではいかない、ヤッター! くらいだ。
明かりをつくろう。
照明をつければいいじゃないかと、普通の人なら思うかもしれない。しかし、せっかくの能力を使う機会なのだ。照明などというくだらないものは、使いたくなかった。
頭上に小さな火球を現出させた。
…………………………。
現出しなかった。
アレ? と彼は眉をひそめた。
もう一度現出させようとするが、やはり火球はそこになかった。炎の端くれもみせない。どうしてだろうか?
永い思案の誘いから彼を救ったのは尿意だった。彼は尿意を思い出した。
もう諦めた。
何が能力を使う機会だ、すっとこどっこい。そんなものにこだわっていたら、人として尊厳が失われてしまう。
敗北感に包まれながら良晴は、照明のスイッチを力なく押した。