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流氷と月光  作者: 伊藤
21/26

4-3

 良晴が目を覚ましたと、長宮から京佳たちに連絡があった。

 京佳たちはすぐに良晴のいる病室へと向かった。この病室は、良晴が運ばれてくる前まではただの空き部屋だった。何もない部屋にベッドやその他生活に必要なものを付け加えて、病室に改造したのだ。

 長宮から注意されたとおり、まず初めに奈緒が部屋の中に入った。

 良晴が能力子を恐れているのなら、その恐怖の度合いはクラスの高さに応じて強くなっていくはずだ。となると、京佳を先に会わせるわけにはいかない。京佳のクラスはαだからだ。

 まずはγの奈緒で様子見をしよう、というわけだ。

 ベッドの上で寝っ転がっていた良晴は、腕を後頭部に回し天井を見上げていた。

「やあ、元気か? 常井」

 奈緒は、余計な心配をかけぬよう、気さくに声をかけた。

「これが元気に見えるか? 軟禁状態だぜ」

「はははっ、それはお気の毒様だな」

「村江一人だけか? 北沢は?」

「ああ、それなら……」

 奈緒は、入室順についての事情と、良晴が知らなそうだったので、能力子と恐怖の関係性についての説明をした。

「なんにも聞いていなかったのか?」

「ああ、さっき起きたばっかりで、なにも聞かされていない。気づいたらこんなよく分からないところにいたもんだから相当ビビったよ。誰かにさらわれたのかと思った」

「常井をさらってなんの得になるんだ」

「俺だって知るか」

「でも元気そうでよかったよ」

「そういえば倒れたときと似たような感覚を、前にも味わったな。そうか、思い返してみればどの場合も、αが能力を使用したあとだった。高出力の能力を知り、過敏に恐怖を感じていたのかもしれない。その頃から前兆はあったんだ」

「そのときに気づけていればよかったな」

「それはなかなか難しかっただろうな。俺だってただの体調不良かと思っていた。夜更かししたのが悪かったのかなとか。自分でも原因は分からなかったんだ。なので村江が思い煩うことは何もないぞ」

「…………」

 良晴の意外な言葉を聞き、奈緒はあっけにとられていた。

「なんだよ」

「常井でも気遣いができるのだな」

「やかましい」

 良晴はそう言ってそっぽを向いてしまった。

「冗談だよ。拗ねるなって」

「拗ねてないわ!」

「本当かぁー?」

「うるさい! で、いつ北沢は入ってくるんだ?」

 奈緒はちらりと部屋にかけられた時計をみて、

「もう少しで入ってくると思うぞ」

 と良晴に答えた。

 入室する時間も決められているのだ。ここまで几帳面にする必要があるかとも、奈緒は思ったのだが、長宮が言ったことなので守らねばならないと、思い直した。

 コンコンとノックする音が響いた。

「入ってもいいかしら」

「ああ、いいぞ」

 良晴……ではなく奈緒が答えた。

「なんで村江が答えてんだよ」

「まあ、いいじゃないか。どちらが答えても変わりはないだろ」

「まあ、いいけど」

 京佳がドアをスライドさせて、静かに中へ入ってきた。

 こちらへ不安そうな顔をして近づいてくる京佳を視認した瞬間、

「ばばばばば!」

 良晴は泡を吹いて気絶してしまった。

「ちょっともう信じらんない!」

 即座に倒れられては、さすがの京佳もショックを受けた。

「常井くん! ねえ起きなさいよ! 常井くん!」

 京佳は、ベッドに倒れている良晴の両肩を持ち、前後に揺すった。

「うがががが!」

 良晴の首は、ガクンガクンと外れそうな勢いで、京佳のリズムに応えた。首はもげないか心配なほど、ガクンガクン揺れている。

「起きたのね。よかったわ」

「いやそれ起きてないだろ。というか、それ以上揺らしたらまずいぞ」

「常井くん。起きているわよね?」

 良晴はなんとかして手を上げた。先程のガクンガクンで目を覚ましたようだ、強制的にではあるが。

「ふぅ、大丈夫みたいね」

「……私、一応誰か呼んでくるね」

 どう見ても大丈夫そうではなかったので、奈緒は第二支部の人を呼びに、外へ出ていった。

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