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流氷と月光  作者: 伊藤
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1-2

 翌日の教室には、どことなく気の抜けた雰囲気が漂っていた。昨日、測定を済ませたので、みんなは迫りくる測定日が持つ圧迫感から解放されて、一気に神経を緩めたのだろう。ウキウキ気分も香る。

 能力の測定は、定期試験のように大切なものではなく、学校の成績には影響しない身体測定のようなものなのだが、みんなはやはり自分の能力のことが気になるのだろう。測定日が近づくとそわそわし始める。良晴のような測定結果を上げようと努力していた人たちはなおさらだ。これとは対照的に、測定日を特に意識しない人たちもいる。精神が図太いのか、はたまた無関心なだけなのか。

「今日は担任の村雲先生が出張でいないため、朝のホームルームはありません」

 今、教壇に立って話をしているのは、クラスの委員長である北沢京佳だ。彼女は長い髪を宙に舞わせながら、先生からの言われたことをクラスメイトに伝えている。

 委員長と聞くと、どこか偉大そうにきこえるのだが、実際はあまり仕事がないのではないかと、良晴は常々思っていた。しかし今日のように、先生からの連絡事項を伝えたり、クラス全体で何かを決めるときに意見をまとめたりと、色々と活躍しているではないか。でもこのような業績があっても、委員長という名の偉大さには敵わない。

 朝のホームルームがなくなり、暇な時間ができてしまった。

「あの先生、また出張か。出張の回数多いよな」

 奈緒が良晴の近くに行き、話し始めた。

「先生も忙しいんだろ。……あっ、そういえば先週の今日、ノート貸しただろう。今日の授業で使うから、早く返せ」

「机の上に置いてあるから、ちょっと待ってろ」

 奈緒はそう言って、自分の机の方に、目を向けた。すると机の上に置いてあった緑色のノートがふわりと浮き上がり、あいだにいる複数の生徒を器用に避けて、良晴たちのもとへ引き寄せられていった。

 ふわりふわり上下にゆるく波打ちながらノートは移動していき、やがて奈緒の手にスポンと収まった。

「はい、これ」

 奈緒は良晴に到着したノートを差し出す。

「どうも」

 受け取ったノートを良晴は机の中にしまう。

「念動力は便利だよな。こっちなんて火を使う機会そうそうないから、操炎を持っていても仕方ないぜ」

 と良晴は試しに指先へ火を点してみせる。

「……それ以上火を大きくするなよ。火災報知器が作動したらどうするんだ。入学したての頃、全校生徒が室内雨に降られる事件があっただろう。その日の授業がなくなるのでありがたいとは思うが、常井はそんなことしないでくれよ」

「…………」

 ボッと火が一回り大きくなる。

「おい!」

「冗談だよ」

 と言って良晴は火を消し、出していた指を引っ込めた。

「それはそうと、今日の約束忘れてないよな」

 良晴が言う約束とは、もちろんたい焼きの約束である。

「さすがに忘れてないよ。駅前のたい焼きだろう。帰り道に買って帰るか」

 奈緒は電車を使って通学しているので、彼女が駅の方面へ行くことは、面倒でもなんでもない。しかし、良晴の家は、駅とは反対の方面にあり、学校まで歩いて通っているのだ。

 このような事実があったとしても、たい焼きを買うために、駅の方面へ行くのは満更面倒でもないと、良晴は思っている。そう、喜ばしいことなのだ!

「よっし! お願いしますよ、村江さん」

「ありがたく思えよ。私はたい焼きを買い与えるのだ」

「ありがたや、ありがたや」

 奈緒は教室の時計をチラリと見た。良晴もそれに倣い時計を見る。授業開始三分前を指していた。

 奈緒はそろそろ自分の席に戻らねばならない。

「それじゃ放課後に!」

 奈緒はくるりと向きを変えて、良晴の席から離れていった。

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