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流氷と月光  作者: 伊藤
19/26

4-1

 京佳は、やはり第二支部は豪勢すぎると、蛍光灯に照らされた廊下を歩きながら思った。研究施設があるため規模が大きくなるのは分かるが、なんせその程度が私たちの想定をはるかに超えている。

 第五支部に部屋は一つしかないが、ここには何十もの部屋があり、第一支部は二階建てであるが、ここは五階建てである。

 学校を一回り大きくしたような規模だ。


 良晴が倒れたあと、場は混乱を極めた。

 どうして……、こんな……、どうして……!

 菊池の炎は、私達に向けられたものではなかった。

 ならば煙を吸ったのか? でも同じ場所にいた奈緒と私は平然としている。

「常井くん! 常井くん!」

 横たわる良晴に、京佳は何度も何度も呼びかけた。良晴の顔は青白くなっていた。

 いくら呼びかけても反応はない。

「死」という文字が踊り狂いながら、京佳の眼前を通り過ぎていった。一瞬でも死を想像してしまった自分が憎たらしくなり、京佳はすぐに後悔した。

 これまでに京佳は仲間内に死者が出ることなど、考えもしなかった。それ故にこの瞬間的な死の啓示は、京佳を震撼させた。

 京佳は良晴の胸に手を当ててみた。幸いにも心臓は動いていた。

 ほっと一息つく。

「常井の調子はどうだ?」

 京佳が落ち着くのを待っていた奈緒は、もう大丈夫だろうと判断し、声をかけた。お落ち着く前に声をかえても、聞く耳を持たぬことを奈緒は知っていた。

「死んではいないみたいだけど……」

「そりゃ当たり前だろ。そんな簡単に人は死なない」

「そうね……」

「なんだ、死んだかと思ったの?」

「ええ、少しだけ」

「京佳ちゃんは心配症だなあ。常井は、殺しても死なないような奴だろう」

「そうかしら? あまりタフそうだとは、感じなかったけど」

「常井は簡単にへばるような男じゃないよ。それと柳川さんに電話しといたから、もう少しで来ると思うぞ」

 このような緊急事態に陥った場合に限り、奈緒の頭はよく働いた。混乱により機能しなくなった京佳のことを、補おうとしたのだろう。

 柳川さんを呼ぶという奈緒の判断は的確だった。二人だけでは、倒れた良晴に処置を施すことはできない。

 瞬間移動の能力を使って現場にやってきた柳川さんは、状況を把握すると、すぐに良晴と京佳を第二支部へ転送した。第二支部には研究施設があるので、そこに送ればこの良晴の病状をなんとかしてくれるだろうと、柳川さんは考えた。京佳も共に送ったのは説明役としてだ。

 これは無茶だ!

 柳川さんのクラスはβ−である。β−が人間を運ぶとすると、一日に五〇〇キロメートルが限界だ。ここから第二支部のある仙台まで、四〇〇キロメートル、二人を移動させたので合計八〇〇キロメートル、三〇〇キロメートルの超過だ。

 予想通り、柳川さんは二人を移動させたあと、その場に倒れこんでしまった。だが、倒れた原因ははっきりとしているので、良晴ほど心配することはない。原因不明は何よりも恐ろしい。

 いきなり第二支部に転送された京佳は、最初何が起こったか理解できずに、戸惑ってしまった。

 柳川さんは何も言わずに、京佳たち二人を第二支部へ転送したのだった。おそらく事前に転送すると言ったら、身体のことを心配され、京佳に止められると思ったからだろう。

 柳川さんの厚意に感謝しつつ、京佳は近くを通った第二支部の会員に、事の次第を告げた。

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