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流氷と月光  作者: 伊藤
12/26

2-5

 張り込み三日目。

 菊池は薬局に入っていった。

 行動は素早かった。菊池を発見したのは奈緒だった。彼女は一度それらしい影を発見したのだが、それが菊池だと確信できなかった。が、写真と見比べて確信した。

 一声放ちそれに京佳が呼応した。京佳は外に駆け出した。残された良晴たちは、彼女を追うのに苦労した。速い! 速い! いくら追えども追いつかない。追いついたとき、良晴たちは薬局前にいた。

 京佳は真剣そのものだった。

「しっ、静かに」

 人差し指に当てられた指を見て、良晴と奈緒は押し黙った。声は届かないと思うが、気配を悟られてはいけない。

 薬局の窓にはブラインドがおりていて、中をうかがい知ることはできなかった。

「出てきたら一斉に行くわよ」

 彼らは話し合いをするだけだ。周囲への配慮はいらない。

 五分たった。変化なし。更に五分たった。……。更に五分たった。…………。

 誰も出てこない。

 到着する前に、逃げられてしまったのだろうか。

「そろそろどうにかしたほうがいいぞ」

 良晴は誰も出てこないことをかなり不審に思った。

「ええ、そうね」

 と言ったきり京佳は黙ってしまった。

「おい、聞いてんのか?」

「店に入ってみましょうか」

 異存はなかった。あちらが動かない限り、こちらから行動するしかない。

 取っ手を回し、店のドアを開ける。

 店主のおじいさんが、起きているのか寝ているのかわからないほどの薄目で、奥の椅子に座っていた。今にもカウンターに突っ伏しそうだ。

 他に人はなかった。

 京佳は息を呑み、そして遠くの床を睨めつけた。その表情から、下唇を噛んでいると察せられた。溢れ流れた真意を感じ、良晴は居たたまれなくなった。

 やはり来るのが遅かったのだ。

 京佳は顔を上げ、何事かと見つめる店主に歩み寄った。

「いらっしゃい」

「こんにちは。私たちのこと覚えてるかしら?」

「ああ。覚えてるよ。前のお客さんに、カツアゲされたんだろ」

「あの人はどこへ?」

「俺は親切だからね、あんたらのこと伝えたんだよ。そしたらなんて言ったと思う? 『裏口から出してくれ』だとよ。なんだか無愛想な男で、素直に応じる気にはなれなかった。でも、あの男は勝手に店の奥へ進み、出ていきやがったんだ」

 裏口! そこまで頭が回らなかった。俺たちが店の前へ着いたとき、菊池は中にいたのだろうか。待たずに無理にでも入っていれば!

「あんたらあの男を追っているんだったな。カツアゲなんて可愛そうなことだい。あの男を止められなかったが、土産ならある」

 彼はニッと笑った。

「あの男はメモを持っていた。そのメモには、

『ソーマ 五〇

 木曜 一四時 テニスコート、海岸』

 と書かれていたんだ。ソーマ五〇グラムはここで買っていった。えらくたくさん買うもんだと驚いたよ。……土産はこんなもんで十分かい」

「ええ、十分よ」

 京佳もニッと笑った。

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