2-5
張り込み三日目。
菊池は薬局に入っていった。
行動は素早かった。菊池を発見したのは奈緒だった。彼女は一度それらしい影を発見したのだが、それが菊池だと確信できなかった。が、写真と見比べて確信した。
一声放ちそれに京佳が呼応した。京佳は外に駆け出した。残された良晴たちは、彼女を追うのに苦労した。速い! 速い! いくら追えども追いつかない。追いついたとき、良晴たちは薬局前にいた。
京佳は真剣そのものだった。
「しっ、静かに」
人差し指に当てられた指を見て、良晴と奈緒は押し黙った。声は届かないと思うが、気配を悟られてはいけない。
薬局の窓にはブラインドがおりていて、中をうかがい知ることはできなかった。
「出てきたら一斉に行くわよ」
彼らは話し合いをするだけだ。周囲への配慮はいらない。
五分たった。変化なし。更に五分たった。……。更に五分たった。…………。
誰も出てこない。
到着する前に、逃げられてしまったのだろうか。
「そろそろどうにかしたほうがいいぞ」
良晴は誰も出てこないことをかなり不審に思った。
「ええ、そうね」
と言ったきり京佳は黙ってしまった。
「おい、聞いてんのか?」
「店に入ってみましょうか」
異存はなかった。あちらが動かない限り、こちらから行動するしかない。
取っ手を回し、店のドアを開ける。
店主のおじいさんが、起きているのか寝ているのかわからないほどの薄目で、奥の椅子に座っていた。今にもカウンターに突っ伏しそうだ。
他に人はなかった。
京佳は息を呑み、そして遠くの床を睨めつけた。その表情から、下唇を噛んでいると察せられた。溢れ流れた真意を感じ、良晴は居たたまれなくなった。
やはり来るのが遅かったのだ。
京佳は顔を上げ、何事かと見つめる店主に歩み寄った。
「いらっしゃい」
「こんにちは。私たちのこと覚えてるかしら?」
「ああ。覚えてるよ。前のお客さんに、カツアゲされたんだろ」
「あの人はどこへ?」
「俺は親切だからね、あんたらのこと伝えたんだよ。そしたらなんて言ったと思う? 『裏口から出してくれ』だとよ。なんだか無愛想な男で、素直に応じる気にはなれなかった。でも、あの男は勝手に店の奥へ進み、出ていきやがったんだ」
裏口! そこまで頭が回らなかった。俺たちが店の前へ着いたとき、菊池は中にいたのだろうか。待たずに無理にでも入っていれば!
「あんたらあの男を追っているんだったな。カツアゲなんて可愛そうなことだい。あの男を止められなかったが、土産ならある」
彼はニッと笑った。
「あの男はメモを持っていた。そのメモには、
『ソーマ 五〇
木曜 一四時 テニスコート、海岸』
と書かれていたんだ。ソーマ五〇グラムはここで買っていった。えらくたくさん買うもんだと驚いたよ。……土産はこんなもんで十分かい」
「ええ、十分よ」
京佳もニッと笑った。